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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
15 謎の遺跡と出会い編!
290/716

290 戦いの、結末

「は......はあああああ?イヒヒヒヒヒ!」


 『殺すのは、私。死ぬのは、お前』。

 あまりにも淡々と告げられた宣言。

 それを言ってのけたのは、小さな呪い子。

 この“自分”を前にして、怯えも怯みもしない無表情な、呪い子。

 傲岸不遜な態度の呪い子。

 生意気な、呪い子。


 その、呪い子に。


「ぬかせ、ガキがあああああッ!!」


 イブラバーレグは激怒し、絶叫した!


「このオレ様を、殺す!?てめぇ、ガキが、こっちが本気出してねぇからって、調子乗ってんじゃ、ねぇッ!!ふざけんな、ボケがあああああッ!!!」


 すらすらと自分の口から、いつもは使わない乱暴な言葉があふれ出してくることに、叫びながらもわずかに残ったイブラバーレグの理性は、驚きを覚えた。

 これは、自分の言葉なのか?

 もしかしてこれを喋らせているのは、『ソウルデバウラー』ではないか?

 僅かに生じる、正体のわからぬ不安。

 危機感。


 しかし......すぐにそんなものは、消えてなくなった。

 そう......彼は既に、『ソウルデバウラー』を受け入れたのだ。

 つまり彼はもはや、イブラバーレグであると同時に『ソウルデバウラー』なのだ。

 『ソウルデバウラー』がイブラバーレグの口を使って喋ることくらい、なんでもないことだ。

 何を不安に思っていたのだろう、全くもって愚かなことだ。

 今はこの激情に身をまかせ、眼前の恐れ知らずの小汚いガキを、殺す。

 それこそが、重要なことなのだ。


「このオレ様をきれさせたんだ、てめぇ、ただじゃ殺さねぇッ!!生きたままひきちぎってから、その魂啜ってやんよッ!!覚悟しとけよおおおおおッ!?」


「............」


 一歩、二歩。

 瓦礫の山から体を起こしたイブラバーレグは、喚き、凄みながら呪い子へと歩みを進める。

 対する呪い子は、未だ冷静。

 それどころか......そんなイブラバーレグを鼻で笑ってから、挑発した。


「なら、さっさと本気出せよ」


「ああああああ!?」


「さっきと同じこと、繰り返す?次は、殺すから」


 そう言って呪い子は、拳を構える。


「言ったな、こらッ!!てめぇ、後悔しても、知らねぇぞッ!?はあああああッ!!」


 もはや彼は、なりふりを構わず全力を出すことにした。

 以前、眠りにつく前にためこんでおいた予備の魂を、温存などせず一気に消費する!

 この肉体の強化に、全力を尽くす!


「おああ......ああああああッ!!!」


 これまで以上に大声で、彼は叫んだ。

 まるで悲鳴のような、絶叫!

 そして、その次の瞬間だ!

 彼の肉体が大きく......膨れあがったのは!


 メリメリ、ボキボキボキ、メキョッ!!


 不気味な音を立てながら膨れあがっていくイブラバーレグの肉体変化は、もはや筋肉のパンプアップで説明のつく次元の変化では、ない!

 その手足は丸太のように太くなり、身長は従来の2倍ほどには大きくなっている!

 一体これは、どうしたことか!?

 質量保存の法則は、どこにいってしまったのか!?

 そんな疑問に答える人間も、そもそもそんなことを気にする人間も、この場にはいない!


「ぎ、いてぇ......いてぇ!が、あああ、あ......イヒヒヒヒ......イヒヒヒヒ......!」


 そしてその肉体変化は......相当無茶なものだったのだろう。

 今や、巨大化したイブラバーレグの体の皮膚は裂け、筋肉が露出している。

 ところどころ血が噴き出し、それどころか骨すらも妙な方向に飛び出しているものさえある。


 しかしながら、その変化に伴う痛みに彼は、次第に慣れてきたらしい。

 うめき声はいつしか不気味な笑い声へと変わり、彼は痛みのあまり白目をむいていたその眼球をぐるりと動かし、歪な笑みを浮かべながら、部屋の向こうにいるちっぽけな呪い子を見下ろし、睨みつけた!




 そして......!




「......は?」




 彼は、間抜けな声を漏らした。




 何故なら!


 彼の肉体が、戦闘のためだけに後先考えず劇的な変化を遂げていた、その時に!


 彼が対峙する、小さな呪い子の肉体にも、大きな変化が発生していたからだ!


 大きな変化とは、何か?


 それは、つまり!


 端的に、言うならば!







 触手だ!!







 彼女が身にまとっていた黒い布のような物が無くなった代わりに、黒い触手が10本!

 それが彼女の肩辺りから伸びて、うねうねと蠢いているではないか!!




「な、なんだとッ!?なんだそれはあああああッ!?」


 事態についていけず、その眼球をぎょろりと見開き巨体を揺らしながら、慌てふためくイブラバーレグ!

 しかし対する呪い子は、やはり冷静、そして無表情!




「............で?」




 なんの感情も読みとれない、その黒い瞳を不格好な巨人へとまっすぐに向けて!

 呪い子は......。

 旅人エミー・ルーンは、言った!







「もう、殺しても、良いよね?」







 次の瞬間、恐るべき速さでエミーの【黒触手】が伸び、イブラバーレグの巨体へと襲いかかった!


 一本、二本、三本!

 生物の肉体としては、恐ろしい程の頑丈さを手に入れたはずのイブラバーレグの筋肉が、次々に触手によって貫かれていく!


「いッ!?ぎッ!?あがが、な、なめるなあああーーーッ!!」


 痛みに耐え、その触手を抜きとろうと、それを掴みとるイブラバーレグ!

 しかしそれは悪手!

 あまりにも、悪手!


 そんな動作に時間を費やし、彼は無駄に大きな隙を作ってしまった!

 ......その隙を、見逃すエミーではないのだ!




「らあああああーーーッ!!」


 一際大きく吠えてから、エミーは思いきり、彼女の触手を......三本の触手を、一つにまとめあげた一際頑丈なそれを......イブラバーレグに向かって、振りおろした。

 狙いは、イブラバーレグの右腕。

 魔剣『ソウルデバウラー』を握る、右腕だ!




「あ!?」




 ......凄まじい、速度だった。

 イブラバーレグが気づいた時にはもう、彼の右腕は。

 肘から下が、斬り離されていた。

 彼は知る由もないが、これはエミーの持つ、複数の異能の合わせ技。

 つまり、【黒触手】に、切断のための異能【蟷螂】をまとわせた結果である。

 彼女がたゆまず続けてきた異能の鍛錬は。

 異形へと変じた硬質な巨人の腕すらも斬り飛ばすという結果を、今ここに示したのだ!


 そして。




 カラン、コッ......。




 イブラバーレグの手から離れた魔剣『ソウルデバウラー』は、二度、遺跡の床を跳ねてから。

 ......先ほど開いた、さらなる遺跡の地下深くへと続く大穴の中に、転がり落ちていった。




 その瞬間、ずっとどこか、靄がかかっているようだったイブラバーレグの思考が、突然クリアになった。

 イブラバーレグは、はっとした。

 そして彼の脳内に、数えきれないほどの疑問が、浮かびあがる。


 先ほどまでの、感情に振り回された、まるで素人のような戦いは、一体何だ!?

 何故自分は逃げ道も確保せず、こんな危険な遺跡の地下で戦っている!?

 体を大きくして、どうする!?

 どうやって、外に出るつもりだ!?

 どうして自分は、そんな判断をした!?


 自分のことだ、考えればわかるはず。

 彼はそう思ったが、しかし、どうにもうまくいかない。

 その判断の根拠が、まるでどこかに転がり落ちてしまったかのように、見つからない。


「あ、あああ!?あがあああああッ!?」


 そして、さらには!

 先ほどまでは我慢できていたはずの、肉体変化に伴う痛みが!

 エミーの触手によってつけられた傷の痛みが!

 イブラバーレグに、一斉に襲いかかり始めたのだ!


「ああああああああああああッ!?」


 もはやイブラバーレグは、立っていることすらできなかった。

 その場に倒れこみ、床をごろごろと転がりながら、体の痛みにうめき続ける。


 エミーはそんな、哀れな異形の巨人を見下ろしながら......彼女の触手を一対の巨大な腕へと、まとめあげた。

 【黒腕】である。


 彼女はその、ごつごつとした硬質で悍ましい二本の腕の指を交互に組み合わせ、まるで祈るような形を作った。

 そしてそれを、痛みにもがくイブラバーレグの、頭部目がけて。


 思いきり......降りおろした。







 ......これ以上の描写は、必要ないだろう。




 イブラバーレグは、死んだ。




◇ ◇ ◇




「............」


 敵は死んだ。

 されども、遺跡の崩落は終わらない。


 ズズン、ミシ、ミシミシ、ズザアアアアッ!


 轟音を立てながら、天井からは次々に石や砂などが落下してくる。

 まるで、この轟音は、この意地の悪い遺跡のあげる断末魔だ。

 そんなのんきなことを、エミーは思った。


「............」


 さて、そんな崩壊中の遺跡の中において、エミーは、周囲をぐるりと見回した。

 遺跡の外へと続く階段は、かなり早いうちから塞がってしまっており、今となってはその階段がどこにあったのかすら、わからないような状態だ。

 いくらエミーの足が速かろうと、これから正規ルートを抜けて地上に戻るのも、また不可能だろう。


 つまり、エミーはこの地下深くに、すっかり閉じ込められてしまったというわけだ。


 されども、彼女は無表情。

 何ら動揺を見せることなく、ただじっとそこにたたずみ、徐々に埋まっていくこの地下空間の様子を眺めていた。

 異形の巨人の肉体がすっかり土砂に埋もれてしまった、ちょうどその時。

 エミーの頭上にあった天井がついに崩れ、彼女目がけて、大きな石とともに大量の土砂が降り注いできた。


 彼女は、その様を。




 ただじっと、眺めていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 岩全部食って抜け出すんや!
[良い点]  簡潔な文章に感じるむらべせんせーの善性、ザマァ描写を執拗に描いてウキウキしてる方々とはちゃいますなー♪( ^ω^ )まあ子供の頃の夢を掴み勝利を確信しての無惨な最期はイブラバーレグ的には…
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