288 【冒険者ミトラン】暴走するイブラバーレグ、崩壊し始める遺跡
「タ、タッパーーーッ!?」
突然眼前で行われた、“遺跡荒らし”イブラバーレグの凶行!
味方に裏切られ、相棒を刺された細長い顔の眼帯男は、目を見開いて悲痛な叫び声をあげた!
「てめぇッ!イブラバーレグ!いきなり何しやがるッ!!」
髭もじゃの大男は激昂し、大鉈を振り回してイブラバーレグに突進していく......しかし!
「......イヒッ」
「げふッ......!?」
イブラバーレグはそんな大男に怖気づくこともなく、鋭い蹴りを放った。
チ、チートなボクの動体視力でも、追いきれないほどの速さの蹴りだ!
そんな蹴りを胸に打ち込まれた大男が、無事でいるわけがない。
髭もじゃの大男は、まるで熊のような巨大な体躯を誇っている。。
それなのにこの大男の体は、イブラバーレグの蹴りをくらってまるで体重を感じさせない勢いで吹き飛び、遺跡の石壁へと衝突し、めりこんだ!
「『何をしやがる』とは、おかしなことを言いなさるね、ミスター・メグザム。彼は『剣の力を見せろ』と言ったのですよ?......だから、見せてあげただけです。イヒヒ、その身をもってして、体感させてあげているのですよ!魂を食らう魔剣、『ソウルデバウラー』の力をね!!」
「ぐ、ぎ、ぎゃあああああーーーッ!!」
にこにこと嬉しそうに語りながら、イブラバーレグは剣を持つその手に力をこめた。
すると、その瞬間!
禍々しい赤い刀身が一瞬怪しく煌めき、『ソウルデバウラー』に突き刺され苦悶に喘いでいた四角い顔の眼帯男が、さらなる絶叫をあげる!
「あ、あれは!?」
「な、なんと言うことだ......!」
その光景に、ボクとレーセイダさんは思わず顔をしかめた。
四角い顔の眼帯男は、ただ苦しんでいるだけではない!
その体は......急速に干からび、まるでミイラのような有様に変化していく!
「イ......イヒヒ、イヒヒヒヒ!これ、これが、たま、たま、魂の味!?ええ、ええ!そうですねぇ!たまらないですねぇ!力が滾るぅーーーッ!!」
イブラバーレグはよだれを垂らしながら哄笑し、その手に持った魔剣『ソウルデバウラー』を、横なぎにぶんと振り回した。
もはやカサカサの黒い塊としか言いようのない物体に変化していた四角い顔の眼帯男の肉体は、遺跡の床へと転がり落ちて、いくつかの欠片に割れた後、塵となって消え去った。
「てめぇ......イブラバーレグ......裏切り、やがったな......!」
憎悪に満ちた、低い声。
視線を送ると、それは髭もじゃの大男の声だ。
彼は細長い顔の眼帯男から差し出された魔法薬を一息に飲み干し、石壁から体をはがしてから、薬の瓶を思い切り床に叩きつけた。
パリンッ!!
ガラスの割れる、甲高い音が室内に響く。
「ええ、まあ、そうですね。裏切りましたよ、私は。ですが、それが何か?イヒヒ、自分のことを棚にあげて、悪党が他人の悪行を糾弾しますか、ミスター・メグザム」
「............」
「イヒヒ、イヒヒヒヒ!ああ、おかしい!え、あなたもそう、思いますか?ですよねぇ!イヒヒヒヒ!」
まるで誰かと会話しているかのように、イブラバーレグは独り言を言いながら、不気味に笑い続ける。
メグザムは大鉈を構え、今にもイブラバーレグに斬りかかりそうな構えだ。
でも......ボクは、気づいた。
あの髭もじゃ、視線がちらちらと、揺れている。
横の方にある、上へと続く階段への、距離を探っている。
「おっと、逃げないでくださいよ」
しかしその視線の意味を理解しないイブラバーレグではなかった!
この悪党は軽く『ソウルデバウラー』を振りあげて、宙を斬った。
すると、驚くべきことに。
『ソウルデバウラー』の刀身から、赤い鞭のような光が伸びて、メグザムに襲いかかったんだ!
「ぬわっ!?」
間一髪で鞭のような光の斬撃をかわす、メグザム!
彼が先ほどまで立っていた床、そして背後の壁には、深い深い斬撃の後が残っている......!
なんて威力なんだ!
「イヒヒヒヒ、これは面白い。なるほど、このようなこともできるのですね?イヒヒヒヒ!」
イブラバーレグは哄笑しながら、やたらめったらに『ソウルデバウラー』を振りかぶり、斬撃を四方八方に放ち始めた。
ザンッ!
ジャキンッ!
ザザンッ!
凄まじい威力の斬撃が遺跡内部を蹂躙する!
「ぬ、お、たッ!」
「ひ、ひぃぃーーーッ!?」
出鱈目に跳び来る斬撃を、髭もじゃと残る眼帯男は必死で避ける。
「ふむ、これは、なかなか、扱いが難しいが......しかしこれで、おしまいですよ」
何度も試し撃ちをして、その感覚を掴んだらしいイブラバーレグは、ついにメグザムに狙いを定め、その斬撃を放とうとした。
しかし、その時だった!
ズズズズズ......。
不気味な音を鳴らしながら、遺跡が震え始めたのは!
「ま......まずいぞ!暴れすぎだ!遺跡が......崩れようとしている!?」
レーセイダさんが瞬時に状況を察知し、叫ぶ!
ズズ......ズガッ!
ガガガ......!
ドドドドド......!
それと同時に、部屋の床が抜け、天井から石が落下し始めた!
「危ないっ!」
ボクはレーセイダさんに飛びついて彼を押し倒し、天井からの落石から彼を守った!
「ちっ、ふざけんじゃ......!?」
「う、うわーーーッ!?」
一方で助からなかったのは、髭もじゃの大男メグザムと、部下の眼帯男だ。
彼らは足元に突然開いた大穴に飲みこまれ、なす術もなく更なる地下深くへと落下していく......!
その叫び声は崩落の音にかき消され、最後まで聞くことはかなわなかった。
「ふむ?おかしい?計算違いですか?想定以上に遺跡が脆い?誰かが私よりも前に、無茶に遺跡の中で、暴れていた、と。あなたはそうおっしゃりたい?」
イブラバーレグは崩壊し始めた遺跡の様子にまるで慌てることなく、魔剣『ソウルデバウラー』の刀身を眼前に掲げ、まるでそれと話しているかのように独り言をつぶやいた。
そしてその独り言の中にあった......『無茶に遺跡の中で暴れていた誰か』に......ボクとレーセイダさんは心当たりがあった......!
ボクたちは思わず、左に立っていたエミーちゃんの方を、振り向いた!
エミーちゃんはそれを受けて......さらに自分の左を、振り向いた!
しかしそこには、誰もいない!
バカ!
エミーちゃんのおバカ!
この期に及んで、そんな小ボケはいらないよ!
誰がどう考えても、それは君のことだよエミーちゃん!
責める気はないけども!
「ふむ、問題ない?なら、良いですね。そうですね。残念なのは、あの二人を食えなかったことですね」
さて、そんなことを言いながら、イブラバーレグは頭上に降ってきた石を『ソウルデバウラー』で斬り飛ばし、防いだ。
そしてじっと、ボクたちの方を見つめ、にんまりとその口元を歪めた。
「でも、まあ良いでしょう?あと三人も、いるのですから」
そしてそう言って『ソウルデバウラー』を構え、再びだらだらとよだれを垂らし始めた。
これって、あれだよね。
当然ボクたちも......あの悪党は、殺そうとしている。
そういうこと、だよね......!
剣を握るボクの手が、汗でしめる。
こいつは......イブラバーレグは。
ボクがこれまで対峙してきた敵の中でも......とびきりにやばい!
チートな精神力をもってしてもなお、ボクは自身の恐怖を押さえつけることができず、心臓は強くどくどくと脈打つ!
怖い!
怖いよ......!
でも。
でも、だけど!
気合を......気合を入れろ!
ちらりと、横を見やる。
そこにいるのは、レーセイダさん。
戦うことが専門ではない、考古学者。
ボクは、この人の護衛だ。
「......安心して、レーセイダさん!あなたは、ボクが守る!」
「ミ、ミトラン、君......!」
ちょっと引きつっていたかもしれないけど......精いっぱいの笑顔を作って、レーセイダさんに笑いかける。
レーセイダさんは何故か頬を赤らめ、胸を手で押さえていた。
だけど、ちょっと変なレーセイダさんの様子に気がつけるほど、この時のボクに余裕はなかった。
恐怖は、まだおさまらない。
だけど、頑張れ!
頑張れ、ミトラン!
「ボクが......守るんだ!」
ついに覚悟を決め、ボクは剣を構えてイブラバーレグに向き直った。
でも。
そんなボクの視界に映ったのは、イブラバーレグの姿ではなかった。
ボクたちをかばうようにして立つ、黒い、少女の背中だった。
「そうだな、お前は、守れ」
エミーちゃんは静かな、しかし良く通る声で。
「そいつを連れて、早く逃げろ」
そう、ボクに言葉をかけた。
そして。
まっすぐに、イブラバーレグを見つめ。
闘志と、殺意をこめて。
......宣言した!
「あれは私が、殺す!」




