286 メグザム盗賊団と、呪い子エミーの再会
「いやー、しかし......へへへ、楽なもんっすよね、お頭!きっとこの遺跡も、お頭の怖さにびびってんだなぁ!」
メグザム盗賊団の一人、四角い顔のタッパはもみ手をしながら、石壁に背を預けながらどっかりと座り休憩している髭もじゃの大男......つまり彼らのお頭たるメグザムに、そう声をかけた。
「......ああ」
声をかけられたメグザムは一つ適当な相槌をうってから、じっとタッパのことを睨みつけた。
何が『楽なもん』だったかと言えば、つまりそれは、彼らが今休憩している、この遺跡の最奥部までの道のりのことである。
彼らメグザム盗賊団と“遺跡荒らし”イブラバーレグは、ミトランたちを地下深くへと落とした後、ただひたすらに階段を下りてきた。
この階段はいわば遺跡最奥部へのショートカット、迂回路であり、この時ミトランたちが進んでいるような正規ルートとは異なり、特に危険な試練が用意された道のりではなかったのだ。
途中で何やら古臭い機械のようなものを操作する必要がある場面が何度かあるにはあったが、それはイブラバーレグが何やら手帳を見ながら、あっという間に正しい操作をして、先に続く道を開いていた。
メグザム盗賊団はイブラバーレグから護衛を依頼され彼にここまでついてきたが......護衛を必要とする場面が、ほとんどなかったのだ。
“ほとんど”、なかった。
しかし、一度はあった。
それは、今もみ手をしながらゴマをすろうとしているこのタッパがアホをやって、イブラバーレグが機械の操作を誤り、警報を鳴らしてしまった時のことだ。
ヴィーム、ヴィーム、ヴィーム!!!
魔灯が突然赤色に光、そんな警告音が遺跡中に鳴り響いた時は、さすがのメグザムも肝を冷やしたものだ。
ただ、その後に起きたことは、イブラバーレグが“ガーディアン”と呼ぶ毛むくじゃらの魔物が3匹、突然開いた壁の穴から現れただけであり、容易に対処できたが。
ガーディアンの数の少なさにイブラバーレグは首をひねっていたが、それは考えても仕方のないことだと割り切り、彼ら悪党四人は先へと進んだ。
そしてたどり着いたのが、現在メグザムが休憩しているこの部屋である。
イブラバーレグが壁に書かれた説明書きを読み解説するところによると、この部屋は遺跡の最奥部にあり、彼が求める遺物、魔剣『ソウルデバウラー』は次の部屋に安置されているはずなのだとか。
それが本当なのかどうかは、知らない。
何故なら、イブラバーレグは『念のために』とメグザムたちにこの場に待機して侵入者がいれば排除するよう命じて、一人でさっさと次の部屋へと進んでしまったからだ。
彼が次の部屋に入った瞬間に、次の部屋へと続く扉は勝手に締まり鍵までかかってしまったので、その先の部屋がどうなっているのか、メグザムたちは知らないのだ。
......で、メグザムたちは暇になった。
彼らが使った裏道の入り口は彼らが階段を降り始めた時に自動で閉まり、外からはいつも通り、ただの変な絵が描かれた壁にしか見えないはずだ。
そこから余計な冒険者がここに入りこむことはないだろう。
かと言って、正規ルートを攻略してここまで到達するような連中がいるとも思えない。
そんなやつがいれば、とっくにこんな遺跡、攻略されている。
まだこの遺跡の試練は、『第3の試練』までしか攻略されていないはずだ。
その程度の情報収集なら、メグザムたちも行うのだ。
さらに言えばガーディアンもあれきり姿を見せないし、とにかくこの悪党どもは現在、暇を持て余していた。
だからタッパは先ほどの己の失態を思い出し、挽回をするためにメグザムに対してゴマすりを始めたのだろう。
「............」
メグザムはタッパの『強い』だの『怖い』だの言う頭の悪いおべっかを聞き流しながら、おもむろに立ちあがった。
そして、何の脈略もなく。
思いきり。
タッパの顔を、ぶん殴った!
「ぐへぇっ!?」
鼻血を流しながら、倒れ伏すタッパ!
「......ちっ!おいアンダー!そんなところで固まってないで、お前もこっちに来い......」
「はっはいぃ......」
メグザムは真面目に見張りらしきことをしていた細長い顔のアンダーを呼びつけ、近づいて来た彼のことを......やはり、ぶん殴った。
「あがっ!?」
鼻血を流しながら、倒れ伏すアンダー!
全くもって、酷い横暴である。
しかしこれこそが、彼らの関係性。
タッパとアンダーは、メグザムのこの暴力コミュニケーションによって躾けられ、行動を縛りつけられているのだ。
「おい、てめぇら、何寝ころんでんだ?ここは遺跡の地下深く。何が起こるか、わかりゃしねぇ。休憩なんか、してる場合か?あぁ?」
メグザムは床に転がる舎弟二人を見下ろしながら、自分が休憩していた事実を棚にあげ、そう叱責した。
「「はいッ!休憩している場合じゃ、ありませんッ!!」」
タッパとアンダーは流れる鼻血もそのままに跳ね起きて、そう声をあわせて叫んだ。
その瞳は、恐怖と緊張感に染めあげられている。
弛緩し始めた場の空気が再び引き締まったことに満足し、メグザムは再び腰をおろした。
「あの帽子男が言うにゃよぉ、ここは遺跡の最奥部だ。っちゅーことはだ、てめぇら、もうすぐオレらの、一番の仕事が待っている。それが何か、わかるか」
さて、再度座りこんだメグザムは舎弟二人を睨みつけながら、厳かにそう問いかけた。
「「はいッ!わかりません!!」」
何も考えず、反射的にそう叫ぶ舎弟二人。
「おい、アンダー、タッパ、オレたちは、なんだ?」
「「はいッ!オレたちは“ヤボーノーヴェの狂犬”!メグザム盗賊団です!!」」
「そうだッ!!」
舎弟二人の元気な返事に満足し、メグザムは大きく頷いた。
そして声を落とし、静かに、恐ろしい計画を二人に話始めた......!
「その、“狂犬”が、護衛依頼を受けて、金もらって、冒険者の真似事して、満足できるか?」
「「はいッ!できません!!」」
「そうだ!できねぇだろ!?だから......奪うんだよ!」
「「おお......!」」
ここまで言われて、舎弟二人は彼らのお頭が、何を考えているのかようやく理解した。
彼らも小声で、相槌を返し始める。
「もう少しすりゃ、あの帽子男......イブラバーレグの野郎が、お宝を持ってあの部屋から出てくる。オレたちは探索の成功に気を緩めているであろう奴を、後ろからばっさりやっちまうのよ!そうすりゃ、金だけじゃねぇ、奴のお宝も奪えて大儲けだ。どうだ?オレは何かおかしいことを言ったか?」
「「はいッ!言ってません!!」」
「てめぇらも、この計画、素晴らしいと思うよな?」
「「はいッ!素晴らしいです!!」」
「よしッ!ならもっと気合入れとけッ!最後の一仕事がまってんぞ!よし......歯ぁ食いしばれッ!!」
「ぐへぇっ!?」
「あがっ!?」
最後にメグザムはもう一度立ちあがり、舎弟二人を無意味に殴って、彼の暴力コミュニケーションの締めとした。
これでアホな舎弟二人も、しっかり気合を入れてこれからの仕事にとりくむだろう。
メグザムはこれから始まる仕事の成功を夢想し、にやりと邪悪に笑った。
しかし、その時だった!
ドガアアンッ!!
遺跡の、どこか遠くの方でそんな轟音が鳴り響き、それが振動と共にメグザムたちのもとへと届いたのは!
「へ?」
「なんだ、こりゃ?」
ドガアアンッ!!
ドガアアンッ!!
ドガアアンッ!!
その音は......どうやらどんどんメグザムたちに向かって、近づいてくる!
「刃抜けぇッ!警戒しろッ!!」
間抜けな声を漏らしながらおろおろとする舎弟二人を叱り飛ばし、メグザムは自身も大鉈を抜いてぶんぶんと振り回した。
ドガアアンッ!!
ドガアアンッ!!
......ドガアアンッ!!
それから何度も轟音は繰り返され、ついには......その音と共に、メグザムたちのいる部屋につながる、イブラバーレグの入っていった扉とは別方向にある扉が、大きく吹き飛ばされた!
ガアンッゴン!!
何がしかの金属で作られた重厚な扉が、まるで乱暴に扱われた子どものおもちゃのように床を跳ねまわり、転がっていく。
立ちのぼる、砂煙。
そして、その砂煙をかきわけて現れたのは......小さな黒い、影だった。
「「「......はッ!!?」」」
その影を視認したメグザム盗賊団の三人は、思わず驚きの声をあげ、固まった。
だって、その影は。
その少女は。
その、黒髪黒目の、少女は。
......彼らメグザム盗賊団とも因縁の深い、呪い子、だったのだから!!
メグザム盗賊団がその呪い子のことを認識したと同時に、向こうもこちらに気づいたらしい。
そして......どうやらこの呪い子、メグザムたちのことを、憶えていたらしい。
「............」
無言である。
無表情である。
無言で、無表情では、あるが。
......恐ろしいまでの【威圧】を......殺意を!
彼らに向けて放っている!
メグザムですら、体が震え、冷や汗が止まらない。
少しでも油断すれば、この【威圧】を受け止めるだけで、意識を失いかねない。
それほどのプレッシャーだ。
彼らがこの呪い子と出会うのは、これが三度目だ。
一度目は、まだ弱かったこの呪い子に、隙をつかれて逃げられた。
二度目は、既に彼らより強くなっていたこの呪い子に、彼ら三人以外の手下どもを皆殺しにされた。
そして、三度目。
この【威圧】を受けるだけで、わかる。
この呪い子は、残念なことに、二度目と比べてもさらに、強くなっている......!
「......久しぶり」
体を震わせながらも、必死になって刃を構えるメグザムたちに対して、その呪い子はかわいらしい声で、そう語りかけ始めた。
「こんなところで、何してる?」
「............」
メグザムたちは、無言だ。
返事をする気がないというよりは、圧倒的に格上のバケモノに睨まれて、返事をする余裕すら失っているというのが実態だ。
「無視?別に、良いけど」
「............」
願わくば。
願わくばこのバケモノの、この【威圧】が、ただの【威圧】ですんで欲しい。
きっとこのバケモノは、この遺跡を攻略しているのだろう。
なら、メグザムたちのことなど無視をして、さっさと先に進んで欲しい。
イブラバーレグのお宝など、もうどうでも良い。
早く、逃げたい。
冷や汗をだらだらと流しながら、メグザムはそう、願った。
「............さて、どう死にたい?」
あっ。
ダメみたい。




