285 【冒険者ミトラン】遺跡を進む、どんどん進む
「こ、ここは......!?」
「『第20の試練』......またの名が、『知恵の試練』だそうだ」
ギミックを無視して『第19の試練』を突破したボクたちを待っていたのは、さっきとはうってかわって小さな部屋だった。
だけど、ただ小さいだけじゃないよ!
壁沿いには多種多様な魔物を象った像が配置され、さらに中央には大きな檻が置かれている。
檻の中にはきらきらと輝く台座があって、その上には透明なケースに覆われた立派な鍵が置かれている。
「あの鍵は......」
「間違いなく、この部屋から先に進むために、必要なものなのだろう」
ボクとレーセイダさんはお互いに頷きあってから、この部屋の出口となる扉を見やった。
そこにはこれまでの扉とは異なり大きな錠前が取りつけられており、誰が見てもそれを開けるためには、檻に囲われた鍵が必要であることは明らかだ!
だけど......。
「ならどうやって、あの檻を開けるのかな?」
「さて、ね。それを考えなければならないから、『知恵の試練』なのだろうよ」
眉間に皺寄せ小首を傾げて唸るボクを見て、レーセイダさんは苦笑した。
そして、レーセイダさんは手帳を取り出し、何やらメモを書き始めた。
「ここは私に任せてくれたまえ。これから私が、この部屋を調査し、先に進むための方法を見つける。君たちはしばらく、休憩をして......」
しかし、その時だった。
「らあああああーーーッ!!」
部屋中央の、檻と鍵も!
意味ありげな、魔物の像も!
そして天井の隅にこっそりと記された、ヒントも!
その全てを完全に無視して、エミーちゃんが出口の扉を錠前ごと殴り壊し、次の部屋へと続く大穴を開けたのは!
「「ええええええッ!?」」
ドガアアンッ!!
そんな扉が吹き飛ぶ轟音を聞きながら、ボクとレーセイダさんは驚きのあまり絶叫した!
一方のエミーちゃんはと言うと、もうもうと立ちのぼる土煙の中、偉そうに胸をはって。
「ふん」
鼻で笑ってから。
「真に知恵ある者は、相手の土俵で戦わない」
......そう、言い放った!
「いや、それはそうかもしれないけど......」
『君の場合は仕掛けが面倒くさいから暴力で押し通っているだけでしょ』という言葉が喉まで出かかったけど、ボクはそれを何とか飲みこんだ。
そのエミーちゃんの暴力で、ボクたちは結果的に大助かりしているからだ。
「さあ、先、進む」
「そうだね......」
未だおさまらぬ土煙をかきわけて、ボクたち三人は次の部屋へと移動した。
すると、ボクたちを出迎えてくれたのは、今度は横に細長い小部屋だった。
その周囲の壁面にはびっしりと、何やら模様のような物が描かれている......。
「こ、ここは......!?」
「『第21の試練』......またの名が、『歌唱の試練』だそうだ」
ボクが小声でつぶやいた疑問に、またしてもレーセイダさんが壁に設置された説明書きを読み砕くことで答えてくれる。
つまり、この模様のような物は......楽譜ってこと!?
「らあああああーーーッ!!」
ドガアアンッ!!
だけどエミーちゃんは、考察するボクを横目に出口の扉まで歩いて行ったかと思うと、やっぱりそれを殴り壊して、次の部屋へと続く大穴を開けた!
「「............」」
ボクとレーセイダさんは、なんかもう......驚き疲れた。
ただ無言で、先へと進むエミーちゃんの後をついて行く。
次にボクたちを待ち受けていたのは、小部屋だった。
出口となる扉は固く閉ざされていて。
その横には、何か液体を入れるような容器が備えつけられていて。
きっと、この容器に何か入れたら、扉が開くような。
うん、きっと、うん、そういう仕掛けなんだろうね。
「らあああああーーーッ!!」
ドガアアンッ!!
でもエミーちゃんがいるから、どんな仕掛けがあろうとも関係ないよね!
殴り壊して開けた大穴をくぐりながら、エミーちゃんはぽつりと言った。
「ずいぶんとぬるい、試練もあったものだ......」
ぬるいというか、君がぬるくしているんだよエミーちゃん。
というかボクたち、これ、試練受けてないよエミーちゃん。
◇ ◇ ◇
ドガアアンッ!!
ドガアアンッ!!
ドガアアンッ!!
この遺跡に鳴り響く轟音を聞けばわかる通り、その後も、エミーちゃんの暴力による遺跡蹂躙......もとい、遺跡攻略は順調に進んで行った。
アスレチック系の試練は、その身体能力で全てはねのけ!
知識だの技能だのを確かめる系の試練も、やっぱりその身体能力で全てはねのけ!
もはやエミーちゃんの快進撃を止めるギミックは、この遺跡には存在していなかった!
全てを暴力でねじふせて、エミーちゃんは進んで行く!
ドガアアンッ!!
「えっと、今の部屋が確か、『第30の試練』だっけ?」
「その通りだ、ミトラン君。大分進んだね」
レーセイダさんは部屋の配置を手帳にさらさらとメモしながら、ボクと一緒に先に進んで行ったエミーちゃんの後をついて行く。
だけど。
「「う......!?」」
次の部屋に入った途端、ボクたちの体は、まるで金縛りにあったかのように動かなくなってしまったんだ!
何故か!?
それは、【威圧】のせいだ。
尋常ならざる【威圧】が、次の部屋にいる何者かから発せられている!
「こ、これは、一体......!?」
レーセイダさんは体を震わせ、青い顔をしながら必死で息を吸っている。
恐怖のあまり、呼吸することも困難なんだ!
「エミーちゃん!一体、何をしているのっ!?」
一方でボクには神様のチートがある!
この程度の【威圧】であれば、少しすれば体が順応して動けるようになる。
だからボクは、そう問いかけたんだ。
先に次の部屋へと進んでいた、エミーちゃんに。
......そう、この【威圧】、放っていたのはエミーちゃんだ。
「............」
エミーちゃんは、無言。
さっきまでの、無表情で一見すると不気味だけど、どこか気さくな雰囲気は、今の彼女には微塵もない。
そこにあるのは、純粋な害意。
今の彼女は、殺意の塊だと言っても良い。
一体、彼女に何があったのか?
それは、扉を吹き飛ばしたことで発生した土煙がおさまった時、はっきりとわかった。
彼女は、対峙していたのだ。
さっきボクたちを遺跡の地下深くまで落っことした悪党のうちの、3人と!
つまり、ボクたちは。
......ついに、奴らに追いついたんだ!!




