284 【冒険者ミトラン】『跳躍の試練』を、突破せよ
「こ、ここは......!?」
「『第19の試練』......またの名が、『跳躍の試練』だそうだ」
ただの安全な廊下となり果てた『第18の試練』を抜けたボクたちを待っていたのは、大きな部屋だった。
だけど、ただ大きいだけじゃないよ!
その中央には、ボクたちが今入ってきた入口と出口を分断する形で、まるで谷のように大きな穴が空いているんだ。
そこを覗いてみても、見えるのは暗闇ばかり......きっと、もの凄く深いぞ。
落ちたらひとたまりもないことは間違いないね!
そしてこの谷の幅も、かなり広い。
ボクにはどう頑張っても、一息にジャンプして向こうまで跳び渡る、なんてことはできそうもない。
そうなると、谷の中に紐でつられてゆらゆらと揺れている、いくつかの足場を使って、向こうに渡るしかないわけだけど......。
「ここでは、『光る足場に跳び移り、向こう岸へと渡っていく』のが、ルールであるらしい」
レーセイダさんが、入り口近くにあった試練の説明を読み砕き、解説をしてくれる。
なるほど、光る足場ね。
確かに空中につるされる無数の足場には魔灯がしこまれているらしく、それぞれのタイミングでぴかぴかと、一定のリズムで明滅を繰り返している。
......そう、明滅しているんだ。
「ねぇ、レーセイダさん。もし、光っていない時の足場に、乗ってしまったとしたら......?」
「『罰が下される』とある。ろくなことにはならないだろうな」
うーん、これは難しいぞ!?
ボクは思わず頭を抱えてしまった。
つまりこの試練では、足場が光るタイミングをしっかりと記憶して、リズム良くぴょんぴょん飛び跳ねながら、時には行ったり来たりを繰り返しつつ向こうへと渡っていかなくてはならないということだ!
しかもそれを、不安定な足場の上でやらなくてはいけないし......。
『記憶力』、『バランス力』、『跳躍力』が試される試練......それが......『跳躍の試練』!!
「......さて、ここでずっとまごついているわけには、いかないな」
ここで、レーセイダさんは手帳を取り出し、何やらメモを書き始めた。
「ここは私に任せてくれたまえ。これから私が、足場の光るタイミングをメモし、なるべくパターン化する。君たちはしばらく、休憩をして......」
しかし、その時だった。
「............」
「え?」
音もなくボクに近づいてきたエミーちゃんが......その怪力でボクをひょいと持ち上げて、頭上に掲げ......。
「......らぁッ!!」
「のわあああああーーーッ!?」
まるで槍投げでもしているかのような姿勢でボクを、向こう岸へと放り投げたのは!!
その勢いたるや凄まじく、ボクの体はあっという間に幅の広かった谷を越え、全ての光る足場を無視して向こう岸まで到達し、思いきり......石壁へとぶつかった!
「んべっ!?」
い、痛いよぉーーーっ!?
石に!
石に大分、めりこんじゃってるんですけど!?
これ、ボクじゃなかったら多分死んでるんですけど!?
めりめりと石壁から体をはがして入口側の岸を見ると、エミーちゃんと目があった。
エミーちゃんは無表情のまま、その小さな拳を胸の前でぐっと握りしめて......。
「......よし」
と、言った。
「『よし』じゃないからぁーーーっ!痛いからぁーーーっ!」
ボクの半泣きになりながらの抗議も、エミーちゃんは完全に無視だ!
今度はおもむろに、レーセイダさんを持ち上げた。
「あーーーっ!待って待って!エミーちゃん、待って!さすがにレーセイダさんは無理だよ!レーセイダさんをボクみたいに乱暴に扱ったら、ケガをさせちゃうよぉーーーっ!」
「............」
今度はボクからの必死の提言は彼女に届いたらしく、『それもそうか』みたいな雰囲気を醸し出すエミーちゃん。
彼女は少しだけ考えた後、レーセイダさんを脇にぎゅっと抱えた状態になり、そしてそのまま......。
やっぱり光る足場は無視して、なんと、部屋の壁を、まるで床のように歩き始めた......。
え、なにそれ?
重力どうなってんの?
抱えられたレーセイダさんも、ボクも、唖然とするしかないよ......。
壁歩きができる人間にとって、床に空いた大穴は障害となり得るはずもなく......特に波乱が起きることなく、エミーちゃんは出口側の岸へと、レーセイダさんを抱えたまま到達した。
この試練も結局、エミーちゃんの力に頼り、むりやり突破をすることができた。
その結果については、本当に感謝している。
ありがたいと、思う。
でも、だけどさ......。
「ねぇ、エミーちゃん......もう、『何で壁歩けるの?』とか、そういうことは聞かないよ......でも、さ」
これだけは、聞いておきたいんだ。
「壁歩きができるなら、なんでボクを放り投げたのかな......?ボクも壁歩きで、抱えてもらうわけには、いかなかったのかな......?」
そう、思わず恨み言を言ってしまうくらいには、痛かったんだからね......?
「............」
それに対する、エミーちゃんの答えは。
「うるさい......殺すぞ......」
......だった。
こいつ、ボクの時は、自分が壁歩きができること、忘れてたな......?
いや、その......決してこちらに目線をあわせないあたり、無表情ではあるけど、『やっちゃったなー』的なことを考えているのはさ、なんとなくわかるんだけどさ。
ごまかし方が、ちょっと物騒すぎないかい......?




