283 【冒険者ミトラン】『裁断の試練』を、突破せよ
「レーセイダさん、何かわかったの?」
ボクとエミーちゃんはレーセイダさんのもとへと向かう。
レーセイダさんが立っているのは、立派な装飾の施された大きな扉の前だ。
その扉は周囲の石壁とは異なり何やら金属で作られており、とっても物々しい雰囲気だ!
「いくつか、ね。まずここは、どうやらこの遺跡の下層部にある部屋らしい。これを見たまえ」
調べ物をする際に装着する片眼鏡をポケットにしまいながら、レーセイダさんは扉の横を指さす。
そこにあったのは......。
「あ、これ......超古代魔導文字?」
そう、そこにあったのは、遺跡の上層部で見た超古代魔導文字を使って書かれた、看板のようなものだった。
看板の上部には比較的大きめの文字で短めの言葉が書かれ、その下の方には細かな文字が、何やら箇条書きのように配列されている。
「その通りだ。ここにはね、『第18の試練』と書かれている」
レーセイダさんは大きく頷きながら、今度は看板上部の大きな文字を指さして、解説を開始した。
「この遺跡、下層部には罠がしかけられたフロアがいくつも配置されていることが報告されているが、そのフロアの入り口には必ず『第何の試練』という記載がなされているということだ。つまり我々は、図らずも中層部をショートカットして、下層部の正規ルート、その途中にたどり着いたということだね」
「えっ!それはラッキーだねっ!もしかしたらこれは、悪党どもに追いつくどころか、既に追い越している可能性も、あるんじゃ!?」
「ははは......ミトラン君、君はポジティブだねぇ」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶボクを見て、レーセイダさんはそう言って苦笑しながら、首を横に振った。
「その可能性は無いとは言いきれないが、低いと見積もっておこう。そもそも、奴らが下ろうとしていたあの階段は、間違いなくこれまで報告されていない未知のものだった。わざわざ......人を、殺してまで悪党が使用するルートだ。きっと使うメリットが大いに存在していたのだろう......例えば、これら下層部の試練をスキップできる、迂回路のようなものである、とか」
「そんな......」
「まぁ、それは置いておこう。とりあえず、埃の状態からして奴らがこの道を通っていないことだけは確かだが......どちらにせよ、我々が先に進むためには、この試練をクリアする以外に道はないのだから」
そう言って、レーセイダさんは決意の眼差しでもって、大きな扉を睨みつけた。
ボクもぱんっと頬をはって、気合を入れなおす。
そうだ、今はくよくよしている場合じゃないぞ。
先に進むことだけを、考えるんだ!
「よーしっ......罠をかいくぐっての、遺跡探索......これぞ、冒険っ!燃えてきたぞーっ!」
ボクは金属扉を思いきり押し、『第18の試練』への道を開いた!
ギ、ギ、ギ、ギ、ギイイイイ......。
錆びついた扉が軋みながら、ゆっくりと動く。
ガゴン、ガ、ガ、ガ......カタカタカタ......。
それと連動してか、何かが作動し始める音も聞こえてきた。
「これは、一体......?」
さて、扉の向こうにあったのは、細長い廊下だった。
人一人がようやく通れるほどの狭さだ。
左右の壁にはこれまでと同じように魔灯が設置され、廊下を明るく照らしている。
ボクは無警戒にその廊下へと一歩、足を踏み出そうとして......。
「待ちたまえ!」
レーセイダさんに慌てて首根っこを掴まれて、引き戻された!
その瞬間だった!
ジャゴンッ!!
そんな音を立てて、天井から金属の刃が降ってきたのは!
「ひ、ひぇぇ......」
あ、危なかった!
もしあのまま進んでいたら、いかにチートなボクの肉体と言えど、真っ二つになっていたよ!
は、は、働いてよ、【超ひらめき力】ーーーっ!
「まったく、ミトラン君、君は迂闊が過ぎるぞ!」
レーセイダさんは大きく息を吐いて、ボクを叱責した。
「この看板には、ご丁寧にも試練の内容まで、解説されている。それによると、ここ『第18の試練』はまたの名を『裁断の試練』。頭上から規則的に落下してくる先ほどの刃をかわしながら、廊下の先へと進んでいく......そういう試練であるようだ」
ジャゴンッ!!
ジャゴンッ!!
ジャゴンッ!!
レーセイダさんの説明を聞いている間も、ボクの目の前の廊下では、あちこちから金属の刃が降って来ては、またゆっくりと天井へと戻っていく......そんな光景が繰り返されている。
ええーーー......それじゃあこの試練では、刃が降って来るパターンを完全に暗記して、それにあわせて先に進んで行かなくちゃならないってこと!?
「ちなみに、『魔法を禁ず』とも書かれている。残念なことに、この空間では我々は、全く魔法を使えなくなるらしい。ずるは禁止というわけだ」
「......『水弾よ、現れ出でて、敵を穿て!【ウォーターバレット】!』......あれれ?」
本当だ!
いつもなら、詠唱をした後、魔力が吸いとられて魔法が発動するのに、ここでは何も起こらない!
ただただ、魔力の吸われ損だ!
「これはなかなかに興味深い発見だぞ、ミトラン君!魔法を封じる術は現代の我々も多くの研究を経て既に技術的に確立しているが、実は超古代魔導文明の遺跡において、その手の仕組みが見つかった事例はないのだ。これもまた、この遺跡の特異性を示す好材料というわけだが......」
「ちょっとちょっと、また話が脱線しているよ、レーセイダさん......」
熱くなり始めたレーセイダさんをたしなめてから、ボクは改めて、刃が降り注ぐ廊下......『裁断の試練』に向き直る。
この廊下、距離はかなり長い。
ボクの身体能力をもってしても、一気に駆け抜けることは難しそうだ。
ちょっとずつ進んで行く、というのも難しそう。
天井を見上げると、そこには刃が仕込まれた亀裂が隙間なく配置されている。
一つ刃をやり過ごし、その先で安堵して無計画に足を止めようものなら、きっと頭の上に刃が降ってきて、すぐさま真っ二つだ。
と、なると......ここはやっぱり真面目に、刃が落ちてくるパターンを覚えて、気をつけて進んで行くしかないってことか......!
記憶力が試される試練......それが......『裁断の試練』!!
「......さて、ここでずっとまごついているわけには、いかないな」
ここで、レーセイダさんは手帳を取り出し、何やらメモを書き始めた。
「ここは私に任せてくれたまえ。これから私が、刃の降ってくるタイミングをメモし、なるべくパターン化する。君たちはしばらく、休憩をして......」
しかし、その時だった。
「............」
それまでずっと無言でボクたちの会話を聞いていたエミーちゃんが、ボクたちを押しのけて試練の入り口の前に、立った。
「......エミー君?」
「ど、どうしたの?危ないよ?」
ジャゴンッ!!
大きな音を立てて、エミーちゃんの目の前に落ちてくる、金属の刃。
廊下の床にぶつかってはゆっくりと天井へ引き上げられていくそれを、エミーちゃんはじっと見つめ、そして......。
「......らぁッ!!」
思いきり、殴りつけた!!
「「ええええええっ!?」」
予想外の行動に思わず驚き叫ぶ、ボクとレーセイダさん!
だけど、ボクたちの驚きはこれだけでは終わらなかった!
バキイインッ!!
なんと、エミーちゃんに殴られた金属の刃が、甲高い音を立てながら、バラバラに割れて吹き飛んでいくじゃないか!
「「ええええええっ!?」」
間髪入れずに、再び叫ぶボクたち!
な、なるほど、そうか!
確かにトラップの発動するタイミングを覚えて、パターン化してそれを覚え、回避していくのはとても面倒だ!
それならば、逆転の発想!
そんなトラップは、全て破壊してしまえば良いのだ!
......って、そんな馬鹿な!?
「らぁッ!!らぁッ!!らぁッ!!」
エミーちゃんはボクとレーセイダさんの驚愕と困惑を意にも介さず、次々に金属の刃トラップを破壊していく!
一度刃を破壊すると、当然そのポイントは安全になる。
みるみるうちに、『裁断の試練』は、ただの安全な細長い廊下へとなり果てていく......!
いや......いやいやいや......。
その発想は......決して、ボクにも、なかったわけじゃ、ないけどさぁ......。
「そんなこと、やろうと思っても、ボクにもできないよ......エミーちゃん、どんだけ馬鹿力なの......?」
金属の刃を砕きながらずんずん先へと進んで行くエミーちゃんの後姿を見ながら、ボクは思わずつぶやいた。
「考古学者としては......本来であれば、遺跡の保全についても考えなければならないところではあるが......そんなこと、言っている場合でもないしな......」
レーセイダさんは顔を青くして、頭痛がするのか額に手をあてていた。




