282 【冒険者ミトラン】エビイーターを、切り抜けろ
「「「ビャゴオオオオーーーッ!!!」」」
「............」
割れた円筒状の水槽の林をかきわけて、数えきれないほどのエビイーターたちが、ボクたちを目がけて押し寄せてくる!
まるで津波のようだ!
でもエミーちゃんはその恐るべき光景を目の当たりにしても、何も動じない。
彼女はそれを無表情に一瞥すると、おもむろに床の石材へと指を突き刺し、そこから事も無げに石礫を抉りだした。
「らあああああッ!!!」
そしてその石礫を、凄まじい速さで【投石】する!
ビュゴォッ!!
【投石】とは思えない音を立てながら放たれた石礫は、先頭を走るエビイーターを貫き、殺す。
その後ろの方でも血しぶきがあがっているところを見ると、どうやら石礫はエビイーターを貫通しており、一度の【投石】で何体ものエビイーターをしとめているらしい。
「ああああああッ!!!」
それをエミーちゃんは、目にも止まらぬ速さで何度も繰り返す!
エビイーター津波の最前列はエミーちゃんの【投石】になす術なく蹂躙され、爆散していく。
だけど......!
「きりが、ないな......!」
ぼそりと、レーセイダさんがそうつぶやいた。
ボクはそれに同意して、無言で頷く。
エミーちゃんが殺しても殺しても、エビイーターたちの突撃は止むことがない。
ここは一つ、判断のしどころだぞ!
「エミーちゃん、ここは逃げよう!」
ボクは【投石】を続けるエミーちゃんに、そう声をかけた。
「私はッ!!まだまだ殺せるッ!!」
「リスクがある!レーセイダさんの身の安全を、最優先に考えたい!」
「............殿は、まかせろ」
良かった、納得してくれたみたいだ!
「さっ!行くよ、レーセイダさんっ!」
「わっ!?」
ボクはひょいっとレーセイダさんを抱えあげると、詠唱を開始する!
「風よ、嵐となれ!そして嵐よ、槍を編みあげよ!何物も貫き通す、無敵の大槍となれ!【ストームジャベリン】!』」
えへへ、これは最近勉強して使えるようになった、上級魔法だい!
普通の人は一発撃てば立てなくなるほど燃費が悪いこの魔法も、チートな魔力量を持つボクなら撃ち放題なんだ!
発動するまで隙が大きいけど、エミーちゃんのおかげで時間はたっぷりある!
「さぁ......行けっ!!」
ボクは時間をかけて轟音を立てながら目の前に編みあがった嵐の槍に対し、そう命じた。
途端にそれはボクの前方へと、発射される!
「「「ビャゴオオオオーーーッ!!?」」」
その進路上にあった水槽やエビイーターたちが槍の突撃に巻きこまれ、ばらばらになりながら吹き飛んでいく!
その後、そこにできあがったものは......遮るものが何もない、一直線の逃走経路だ!
「エミーちゃん、ついて来てねっ!」
「わかった」
ボクたちは迫りくるエビイーターたちを後目に、その道を走り始めた!
◇ ◇ ◇
「はぁ、はぁ......」
「なんとか、助かったな」
「............」
数分後、エビイーターたちの追撃を振りきり、別の部屋へと続く扉を見つけたボクたちはそこに飛びこみ、つかの間の休息をとっていた。
さすがに、ボクもちょっと疲れたよ。
思わず、その場にへたりこむ。
ボクに抱きかかえられていたレーセイダさんは、顔を赤くしながら咳払いをしてすぐに立ちあがり、周囲の確認を始めた。
エミーちゃんは......さっき、あんなに大暴れをしていたにも関わらず、平気な顔をして立っている。
疲れも安堵も、何も読みとれない無表情だ。
よく見たら......もの凄くかわいい顔をしているのに、その雰囲気はちょっと、不気味だ。
なお、ボクたちが出てきた扉......なんだか、周囲の石材と似た色合いに塗装され、目立たないように工夫されていたんだけど......それはエミーちゃんがその怪力で床の大石を引っこ抜いて扉の前に置くことで、封印している。
少なくとも今は、エビイーターたちの再度の襲撃に、怯える必要はないだろう。
「ねぇ、エミーちゃん。さっきは助けてくれて、ありがとう」
一息ついたところで、ボクはエミーちゃんにお礼を言った。
さっきは、本当に危なかった。
ボクたちが無事にここまで逃げることができたのは、エミーちゃんのおかげだ。
「......別にお前は助けてない。お前は、どうでも良い」
「ええーーー......」
でもエミーちゃんは、ボクに目線をあわせようともせず、そう言った......。
何でなのかなぁ......。
何でボク、こんなに嫌われているんだろう......?
でも、ここで険悪な雰囲気を醸しだすわけには、いかないんだ!
遺跡探索は多分、まだまだ序の口!
ボクたちには協力が必要だ。
ボクは若干口元を引きつらせながらも、笑顔を作ってエミーちゃんに問いかけた。
「なら、ならさ......エミーちゃんは、レーセイダさんを、助けたかったの?」
「............」
エミーちゃんはその問いかけに、無言ではあるけど、素直に頷いた。
「どうして?」
「......知り合いに、似ていた。あの顔に死なれると、寝ざめが悪い」
「そっかぁ、知り合いに......」
そう言われて、何となく、ボクは周囲を調査するレーセイダさんの顔を見つめた。
整った顔立ち。
切れ長の目。
美しい銀髪。
......あれ?
レーセイダさんって、なんだか......ボクが会ったことのある人にも、似ているような......?
あれ、あれ?
えっと、それって、誰だっけ......?
「おーい、ミトラン君!それと......エミー君。ちょっと、こちらに来てくれないか?」
レーセイダさんからそう声をかけられ、ぼんやりとさまよっていたボクの思考は現実に引き戻された。
おっと、危ない危ない!
ここは危険がいっぱいの、遺跡の地下だ!
ぼーっとしている場合じゃないぞ!
ボクは首をぶんぶんと横に振って意識を切り替えてから、レーセイダさんのもとへと向かった。
エミーちゃんは、その後ろをちょこちょことついてきた。




