280 【冒険者ミトラン】生エビを頬張る少女と、レーセイダさんの決意
今日、明日、明後日と更新します。
「私は旅人。エミー・ルーン」
『アハテ川上流遺跡』の地下深く。
謎のエビ養殖場で出会った黒髪黒目の少女は、ボクとレーセイダさんに向かって、そう挨拶をした。
今、ボクたち三人は、遺跡を照らす青白い魔灯の下に車座に座り、自己紹介をしていた。
何故、こんな地下深くにボクたちは落ちてきてしまったのか。
何故、こんな地下深くで彼女はエビを獲っていたのか。
お互いに、色々と疑問を持っていることだろう。
それを解消することで、新たな情報を手にすることも、できると思ったからだ。
......そう思ったんだけど。
「............」
この子、凄い無口でそのうえマイペースなんだよね......。
自分の名前を言ったらそれだけですっかり押し黙り、自分で漁獲し積みあげて作ったエビの山に手を伸ばし、またそれを貪り始めた。
それ、生エビなのに......。
殻ごと食べて、生臭くないのかな......?
「そ、そっかぁ。あ、ボクの名前はミトラン......冒険者だよ。そしてこっちの人が、考古学者のレーセイダさん」
ボクはにっこり笑って自分たちの自己紹介をした。
エミーちゃんは頬を生エビでぱんぱんに膨らませながら、ボクたちの顔をじっと見つめた。
その表情は、無表情。
なんの感情も読みとれない。
よくよく見ると、エミーちゃんは凄く整った顔の美少女なんだけど......魔灯で青白く照らされていることも相まって、彼女の無表情さはとても不気味に見えた。
「ボクたちは、この遺跡の上層部で調査を行っていたんだけど、その......悪い奴に襲われて、ここまで落とされてしまったんだ。エミーちゃん、君はどうしてこんなところにいるの?」
「............」
エミーちゃんはしばらくボクたちの顔......と言うより、どちらかと言えば何故かレーセイダさんの顔をじっと見つめていたんだけど、口の中の生エビを飲みこんでから、ボクの質問に答えてくれた。
「森を歩いてた。そしたら、穴があいてこの辺に落ちた。エビがいっぱいいた。だから食べてた」
エミーちゃんはそう言いながら頭の上の方を指さした。
そこに見えるのは暗闇ばかりだけど、どうやらこの子は偶然この遺跡に落ちて来たらしい。
イブラバーレグたちが遺跡の仕掛けを起動させた時か、それともボクたちがここに落っこちた大穴があいた時か......。
多分どちらかの衝撃が原因で、遺跡の天井が崩落したんだろう。
「そっかぁ......それは不運だったね......でも、ケガが無いことは幸いだったね」
「そうかもね」
それだけ言うと、エミーちゃんは再び生エビを頬張り始めた。
なかなか会話しづらい子だな、この子......。
「そうなると、彼女がここから脱出するための道筋を知っているわけではないようだ。さてミトラン君、私たちはこれからどう行動するか、決めなくてはならないぞ」
エミーちゃんがそれ以上喋る気がないことを感じとったレーセイダさんは、顎をなでて思案しつつ、そう言葉を発した。
「それは......これまで通り、どこかにつながっている通路を探して......」
「それはそうなのだが。問題なのは、目的地だ」
「目的地?つまり?」
「外に逃げるのか、遺跡の奥に進むのか」
レーセイダさんは真剣な眼差しで、ボクを見つめた。
「護衛としては、このまま脱出のための経路を探したいところなんだけど......」
でも、あえて、そんなことを問うんだ。
レーセイダさんの心は、もう決まっているんだろう。
「あの悪党どもを、放ってはおけないんだね?」
ボクの問いかけに、レーセイダさんは力強く頷いた。
「“遺跡荒らし”が狙う魔剣『ソウルデバウラー』は、伝承の通りの存在であれば、恐ろしい遺物だ。あんな悪党には、絶対に渡してはならない。そしてこの遺跡には、本当にかの魔剣が眠っている可能性が高いのだ。それは“遺跡荒らし”の執着からも明らかだし、実は上層部で君が見つけた超古代魔導文字にも、書かれていたのだよ。『ソウルデバウラーここに眠る』と」
「魔剣『ソウルデバウラー』......」
その名前はボクの故郷のペーの村でも、おとぎ話として伝わっていた。
『ソウルデバウラー』のお話は、怖いお話だ。
大昔に悪い剣士が『ソウルデバウラー』を使って、大暴れをしたという、大まかに言えばそんな話だ。
『ソウルデバウラー』は斬った相手の魂を食べて、どんどん強くなる。
でも最後には、悪い剣士が神様に選ばれた正しい剣士に倒されて一件落着、と、そういう話だった。
『悪いことをすると、『ソウルデバウラー』を持った悪い剣士が襲いにくる』というのが、お母さんたちが子どもを躾ける際の常套句にもなっているんだ。
そんな恐ろしい魔剣が本当に存在していて、しかもそれがあんな悪党の手に渡ったとしたら......それは確かに、大変なことだ!
「......まぁ、明らかに作られた年代が異なるこの遺跡に、何故超古代魔導文明の設備が備えつけられているのか、何故超古代魔導文字が残されているのか......私の中にこれに対する考古学者としての興味があり、探索を続けることでそれを明らかにしたいという希望があるのも、事実ではあるけどね」
レーセイダさんは冗談めかしてそう笑うと、再び真剣な表情になり、ボクをじっと見つめた。
「ミトラン君。これは、護衛依頼の範疇を超えていることは重々承知だ。しかし、君の戦闘能力を見こんで、ぜひお願いしたい。私と一緒に、さらにこの遺跡に潜り、“遺跡荒らし”たちよりも早く、この遺跡に眠る遺物を見つけ出すことに、協力してほしい!もちろん、依頼料も上乗せする。どうだろう、受けてくれないだろうか!?」
「............」
普通の冒険者であれば、当然答えは否だ。
リターンが依頼料だけでほとんどないのに、リスクばかりが高い。
悪党が潜む、未知の遺跡。
命の危険がありすぎて、こんな依頼、受けてらんないよ。
......だけど。
改めて、レーセイダさんの顔を見つめる。
そこに浮かんでいるのは、決意の表情だ。
瞳に燃えているのは、正義の炎だ。
......ボクは、なんだ?
ボクは、異世界転生者だ。
少し欠陥があるとは言え、常人とは比べ物にならないくらいのチート能力を授かった、異世界転生者だ。
このチートを、何のために使うのか。
ボクは今まで、考えたこともなかったけど。
正義のために、使う。
少なくとも今この場では、レーセイダさんの正義を助けるために、使う!
それはきっと正しいことだし、何よりこの世界にとって、望ましいことだ。
ボクはそう、確信した!
だから。
「わかったよ、レーセイダさん」
「ミトラン君......!」
「ボクの力、存分に使って!一緒にあの悪党どもを、ぎゃふんと言わせてやろうよ!」
だから、ボクは、レーセイダさんの追加依頼を、受けることにしたんだ!
「さあ!そうと決まったら、早速出発だね!遺跡の奥へと続く道を、探さなきゃ!」
「そうだな!」
ボクとレーセイダさんは、勢いよく立ちあがった!
「............」
「あ」
それを、エミーちゃんは生エビを頬張りながら、じっと見つめていた。
「あの、その......エミーちゃんは、どうする?えっと、一緒に来る?」
「お前と一緒は、嫌なんだけど......」
「ええ......」
何故かボクは、エミーちゃんから嫌われていたらしい......。
どこで嫌われたの?
何がいけなかったの?
わからないんだけど......。
「......もうちょっと......エビ食べてる......」
「そ、そっかぁ......まぁ、そうだよね。その方が、安全だし、冷静に考えたらそれが当然だよね......じゃあ、帰りには迎えにくるから!ここで待っていてね!」
「............」
エミーちゃんは無言でボクに背中を向けて歩いていき、プールに浸かって再びエビを獲り始めた。
本当にこの子、わけわからん子だなぁ......。
「そ、それじゃあ出発しよっか」
「うむ、そうしよう」
ボクたちは一旦エミーちゃんに別れを告げ、エビイーターが浮かぶ水槽の林の中を、先へと進み始めた。




