273 暗くて深い、地の底で
お、おい!
書き溜めするんじゃなかったのか!?
ピチョン。
ピチョン。
ピチョン。
ソレがぼんやりと意識を覚醒させた時、まず初めに認識したのが水の滴る音である。
その意味するところは、即ち施設の老朽化。
天上でふんぞり返る愚か者共の目から逃れるためにソレが作りあげたこの施設は、暗くて深い、地の底にある。
つまりは天井にヒビでも入ろうものなら、地下水が染み出し水没する可能性も十分にあるということだ。
ソレは慌てて起きあがり状況を確認しようとしたが、すぐにそれが不可能であることに気づいた。
何故ならもはやソレには、自ら身動きするための手足など、残ってはいないからだ。
今やソレは、一つの金属の塊となり果てている。
その事実に気づいた時、ソレの心の中を満たした感情。
それは。
歓喜だ。
成功だ。
実験は、成功した!
もはや飛び跳ね拳を掲げるための手足など残っていないソレではあるが、冷たい金属の体の中で、その魂は喜びのあまり激しく踊り狂っていた。
魔導技術や文化レベルは衰退し、もはや人手は自分だけ。
足りない人員、足りない資材、足りない時間。
そして愚か者共の監視の目、迫る追手。
劣悪な環境で強引に推し進めたプロジェクトだった。
最後は本当に一か八か、ぶっつけ本番だった。
しかしソレは、賭けに勝った。
ソレはついに、魂を移植することに成功したのだ。
己が作りあげた最高傑作......“無限魔力収奪装置”に!
さて、己の現状を把握したソレは、次に周囲の状況の確認を行い始めた。
もはや目も耳も口もないソレではあるが、きちんと水の滴る音も聞こえるし、周囲の古びた石壁の様子も見てとれる。
魔力感知システムが正常に作動している証拠だ。
思わず心の中で、ほくそ笑む。
ここはソレの作りあげた施設の最奥部。
部屋の中に存在しているのは、ソレが安置されている台座、そしてその前に横たわり風化しかけている白骨死体のみ。
この白骨死体とは、つまりはソレの生前の肉体だ。
ソレは人間としては四度ほど生きているが、この骨はソレの四度目の肉体だったもの、というわけだ。
まあ、そんなものに興味はないので、ソレはすぐに管理システムにアクセスし、この施設の維持状況を確認し始めた。
まず、排水システムは問題なく作動している。
これにより、施設が水没することはまずないだろう。
水漏れが発生している天井の亀裂も、大したことはないようだ。
ひとまず、安堵する。
それよりも。
最近のログをたどっている内に、ソレは重大な事実を発見した。
数か月前に、この施設のガーディアンが一体、外部へと逃げ出している。
そしてそれが呼び水となったか、どうやらこの施設のことが、周囲の人間たちに露見したらしいのだ。
かなり頻繁に、未だ中層部までではあるが、この施設へと侵入者が入りこんでいる。
ソレは心の中で、舌なめずりをした。
この状況、決してソレが望まぬものではない。
むしろそうなるように、つまりは欲深く、そしてなおかつ強い人間がこの施設の奥の奥まで入りこんでくるように、ソレは様々にエサをまいておいたのだ。
そんなソレの努力が、結実しつつある。
今、この時、ソレが永き眠りから目を覚ましたのは、その現状があってのことだった。
一定の深さまで人間たちがこの施設を探索する。
それこそが、ソレの覚醒のトリガーであった。
後は、待つだけである。
<イヒヒ......イヒヒヒヒ!>
これから訪れるであろう出会いにその魂を昂らせ、ソレは......不気味に哄笑した。
というわけで、第15章が始まるよ!
またおつきあいいただければ、幸いでございます。




