27 威圧と魔撃、そして魔力変換
それから3日間、私は【威圧】の練習に時間をあてた。
最初は使うたびに疲れていた【威圧】だけど、放出する魔力の量を制限したり、放出する方向を一方向に制限したりすることを覚えてからは、かなり楽に使えるようになった。
難しかったのが、【身体強化】と【威圧】の併用だ。魔力の流れとしては、『内にこもる』と『外に出す』という正反対の動きをしなければいけないので、これがなかなか難しい。
わざと【身体強化】の制御を甘くして、漏れ出た魔力を【威圧】として放出するという形でなんとかできるようにはなったけど、まだまだ実用には程遠いかな。
......と、ここまでやって、気づいた。
これ、師匠の課題から脱線してない?
<ようやく気付きました?>
ちょ、ちょっとー!
オマケ様!気づいてたなら早く指摘してよー!
<これはこれで有用な技術なので、好きなようにやらせてみようと思いました。相変わらず素晴らしい集中力ですね、エミー>
も、もう!
私のこと褒めたら何でも許されると思ったら大間違いなんだからね!ぷんぷん!
でも許しちゃう!えへへ。
さて、脱線に気づいたからには師匠の課題の方に戻らなくてはいけない。
幸い【威圧】の練習のおかげで魔力放出のコツはなんとなく掴めてきた。
早速課題に応用してみよう。
とりあえず【紙魚】を使って手近な木に登り、家の屋根くらいの高さから飛び降りてみる。
怪我をしないようにある程度【身体強化】を使いつつ、着地の瞬間に地面に向けて魔力を......放出!!
ドゴォォッ!!
すると、大きな音を立てて地面が抉れた。
小さなクレーターが出来上がっている。
......あれぇ?
オマケ様、衝撃を減らせてないんですけど?
むしろ増えているんですけど?
<うーん、ただ単に『魔力を放出する』というイメージだけではだめだったということですかねぇ。魔力とはすなわちエネルギーですから、考えなしに放出すればそれは破壊につながるということでしょうか。難しいですね......>
というかこれ、あれだよね。
落下のエネルギーに加えて、私の魔力というエネルギーを地面にぶつけてしまったということだよね?
冷静になってみると、やりたいことと正反対のことをしてるじゃん、私......。
でもこれはこれで、便利な技術ではあると思う。
試しに軽く、近くに転がっていた岩を殴りつけてみる。
その際、拳が岩にぶつかると同時に、思い切り魔力をぶつけてみる。
バァン!
すると大きな音を立てて、岩がはじけ飛んだ。
え......えぇぇ......!?
<す、凄いですねエミー!今のは【魔撃】ですよ!格闘神の異世界転生配信でみたやつです!魔力は消費しますが、とても強力な攻撃技ですよ!>
お、おぉ!
うん、確かに凄いねオマケ様!
期せずして一つ、必殺技が手に入ってしまった!
<課題の方は進んでませんけどね!>
ちくしょうっ!!
◇ ◇ ◇
それから2週間ほど、すっかりドツボにはまってしまった私は、とにかく無心で木の上に登っては飛び降りる、登っては飛び降りるを繰り返していた。
だってもう、どうしたらいいか、考えてもわかんないんだもん。
登っては飛び降りる、登っては飛び降りる、登っては飛び降りる......。
あ、師匠だ。
え?もう暗い?晩御飯の時間?
うわ、本当だいつの間にか日が沈みかけている。
今日はここまでにしよう。
<相変わらず目でしか会話をしない師弟ですねぇ......>
便利でいいでしょ?
師匠に続いて家の中に入る。
◇ ◇ ◇
食後、私はぼんやりと囲炉裏の火を眺めていた。
師匠は相変わらず手作業を行っている。
いくつかの作業を並行して行っているけど、今日やっているのは以前も見た鹿の角磨きだ。
何作ってんだろう、あれ。
というか師匠、蝋燭しか明かりがない環境で、よくやるよねぇ。
電気さえ通っていれば、電灯の明かりで作業効率ももっと上がるのに......。
そんなことをつらつら考えていると、師匠の手が止まった。
磨いていた角を、おもむろに持ち上げる。
すると、その角が......まるで電灯もかくやというがごとくに発光した!
えぇっ!?なにそれ!?
<おぉ!これはまた、原始的な魔灯ですね。なるほど、エレキディアの角をそう使いましたか>
マトウ?
なにそれ!?
<魔力を込めて明かりを灯す魔道具ですよ。都市部ではけっこう一般的にも普及しています>
へーっ!魔道具!
そんなものがあるんだねぇ!
今までド田舎村か森の中でしか生活したことがなかったから、知らなかったよ!
師匠は驚いている私(無表情だけど)を見て、イタズラを成功させたかのような雰囲気を発している(強面無表情だけど)。
そして私に、お手製魔灯を手渡した。
途端に感じる、わずかに私の魔力が吸われる感覚......。
鹿の角は光り続ける。
<エレキディアの角は、魔力を変換して発光したり、発電したりするという特徴を持った素材です。これは発電能力を削って、発光だけ行うように加工されているわけですね>
へーーー......魔力って電気みたいに使えるんだ。
万能なエネルギーなんだねぇ......。
......ん?
魔力......変換......?
<どうしましたか?エミー>
手に持った鹿の角を見る。
この角は今もなお私から魔力を吸い続け、光り輝いている。
......わざと、魔力の流れを、反対にしてみる。
つまり、角から魔力を吸い取るように魔力操作を行う。
角からはひっかかりのような、わずかばかりの抵抗を感じるけど、このあたりは【威圧】などで散々練習した、魔力放出の反対の動きだから、それほど苦労せずできる。
魔力を吸う、吸う、吸う......。
すると、角の光は弱まっていき、わずかに私の魔力が戻ってきた感覚を得た。
同時にピシィッと音を立て、鹿の角にひびが入る。
壊れちゃったのかもしれない。
横で師匠がしょんぼりした雰囲気を発しているけど、ごめんなさい師匠、今はそれどころじゃない!
魔力は光に変換できるし、光は魔力に変換できるのだ。
<あの、それがどうかしましたか?エミー>
つまりオマケ様、魔力エネルギーは光エネルギーに変換できるし、光エネルギーは魔力エネルギーに変換できるんだよ!!
<え?だから、それがどうかしたんですか?>
そうか、きっとこれが課題の答えだったんだ!
<おーい、ちょっとー?>
鹿の角を床に置き、手を叩く。
パン、と小さな音がする。
小さな衝撃が発生している。
手を叩き続ける。
パン、パン、パン、パン、パン......。
発生する衝撃を、魔力に変換できないか、意識する。
どうすればできる?
そんなのは知らん!
でも、きっとできるはず。
その方法を、感覚をなんとか探り当てる!
つまり師匠が見せてくれた『音のない着地』。
あれは、着地の衝撃を魔力に変換し、その魔力を足元の空気中とかに散らすことで可能になる。
それが私の仮説。
はじめのうちは、魔力が波紋のように広がっていく様子をみて、師匠が魔力を放出することで、衝撃をなんとかしているもんなんだと考えていたけど......多分これは間違い。
正しくは、師匠が魔力を放出したというより、魔力として変換された衝撃のエネルギーが、散らされて波紋のように広がった、なんだと思う。
もしこれが正しいとすると、その有用性は計り知れない!
だって、『音がでない』だけじゃないんだもの。
衝撃を受け流すことができるんだもの。
理論上は、どんな物理的な衝撃も、魔力変換さえできれば無効化してしまうことができるんだよ!?
え、無敵じゃない?それ。
それに気づいたらね、もうね、大興奮だよね。
無我夢中、一心不乱に手をね、叩き続けていたよね。
でもね、もう遅い時間だよね。
師匠、眠いよね。
手を叩いていると、うるさいよね。
げんこつ落とされるよね。
そして襟首つかまれて、ふとんに放り込まれるよね。
また怒られちゃった。
ごめんなさい、師匠。ぐすん。




