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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
14 母編!
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269 磨きあげたもの

「ああああああッ!!」


 エミーは一息でライリーンに肉薄したかと思うと、そのまま両手両足に加え【黒腕】を器用に使い、ライリーンに攻撃を加え始めた!

 右拳を払いのけたかと思えば、真上から金づちのように【黒腕】が振り下ろされる。


「ちょ!」


 ライリーンはそれを、左手のひらを頭上に掲げることで、受け止める。

 当然の如く生じる隙。

 エミーはライリーンの左わき腹あたりを無防備と見た。

 すぐさまそこに、右、左、右と拳を叩きこむ。

 せわしなく右手を動かして、その全てを防ぐライリーン。


「ちょっと、待って!」


 ライリーンは左手のひらで受け止めていた【黒腕】を地面に叩きつけ、めりこませる。

 その流れで、左わき腹に叩きこまれたエミーのまわし蹴りを、左手で受け止め、防ぐ。

 普通、まわし蹴りを防がれたとなれば、人体構造上隙が生じる。

 しかし、エミーには【黒腕】がある!

 先ほど攻撃に使用したものとは違う、もう片方の【黒腕】を自身の後方地面に突き刺し体を支えていたエミーは、体を横向きにして宙に浮かんだまま、ライリーンに連続でストンピングを放った!

 右、左、右、左、右、左、右!!

 恐ろしい速度の横向き踏みつけ攻撃がライリーンを襲う!


「わ、と、と!?」


 もちろん、残念ながら、ライリーンにとっては十分に対応できる速度だ。

 両手を使って器用にその全てを受け止める。

 しかしライリーンは、精神的には徐々に、余裕を失いつつあった。


 【黒腕】を交えたエミーの挙動が、対人間戦闘としては類を見ないほどトリッキーなものであるというのが、理由その一。

 先ほどエミーが見せた怒りの理由が未だ理解できず、困惑が続いているというのが、理由その二だ。


 己の死角から飛んできた【黒腕】を見ることもなく防ぎ、体勢を整え再度両腕による殴打を再開したエミーの猛攻も防ぎながら、ライリーンは叫んだ。


「え、エミーちゃん!どういうことなのよ!?」


 右拳、左拳、右拳と同時に頭上から左【黒腕】、右足、正面から右【黒腕】、右拳、左拳、右拳、左拳!

 全て防ぎながら!


「あ、あなたが“受け継いできたもの”は、“死神”の『技術』!でしょ!?良いのかしら、この試練で、その黒い腕を使って!?」




「この【黒腕】だって!」


 攻撃の手を緩めることなく、エミーも叫び返す!


「大切な、私の思い出!」


 右拳!


「宝物!」


 左拳!


「人生!」


 右拳、左拳、右拳!


「私が、“受け継いできたもの”!」


 少しためを作ってからの、全力の左拳!


 ライリーンは、これらもまた、全て防いだ。

 パ、パ、パ、パ、パ、パァンッ!!

 エミーの拳とライリーンの手のひらがぶつかりあい、その凄まじい衝撃で周囲に轟音が響きわたる。




「そんな......そんなこと、聞いてない......」


「そう、お前は、聞いてない」


 呆然として、つぶやくライリーン。

 いったん距離をとり、拳を構えながら静止するエミー。


「聞こうともしていない。私がどうやって、これまで生きてきたか」


 風が、ふく。


「それで、母親?......ちゃんちゃら、おかしい」


 髪が、なびく。




 ライリーンは顔を真っ青にして、少しよろめいた。

 彼女はエミーの言葉に、ショックを受けていた。

 エミーの言葉によって、ようやく己の至らなさに気づき、呆然としていた。

 彼女には、このように激しく己の内面が揺れ動いた経験が乏しい。

 今の彼女の精神的なコンディションは、最悪と言って良いだろう。




 だが、しかし。




 再びエミーの猛攻が始まるが、呆然としながらも、やはりライリーンはその全てを防ぎきる。

 300年間という長きにわたり、培ってきた実力。

 高すぎる、壁。

 精神的な動揺を与えても、やはりこの壁は揺るがない。


 それにライリーンは、初めてエミーと戦ったあの日、既に【黒腕】を使った戦闘を、一度経験しているのだ。

 少し慌てこそすれ、一度見た戦法に、彼女が後れをとることはない。

 どれほど精神的動揺があろうとも、経験知に従って、体が勝手に動くのだ。


 故にエミーは、なおも堅牢なライリーンの防御を突き崩すために、新たな一手を打たねばならない。

 新たな一手。

 ライリーンの知らない、エミー。


 そんなものがあるのか?




 ......あるのだ。




 あるのだ!




 この一か月間、エミーは!

 師匠の『技術』の研鑽ばかりを、わざとライリーンには、見せつけてきた!

 もちろんそれも、手抜かりなくやってはいた!

 しかし、それだけではないのだ!

 エミーが、“磨きあげたもの”は!


 エミーは確信した。

 ライリーンの目を盗み、鍛え続けた切り札。




 ......今が、切り時だと!!




「ああああああああああああッ!!!」


 ライリーンに両拳を叩きつけ続けながら、エミーは絶叫した。

 気合を入れたのだ。


 すると、次の瞬間だ。

 エミーの【黒腕】に、変化が生じたのは。


 【黒腕】は、人間の腕を模した形をしている。

 その先端には、尖った5本の指がある。

 左右あわせて、計10本の指。


 それらの指の付け根が、エミーの絶叫と共に。


 裂けた。


 裂けて、裂けて、裂けて、裂けて。


 その裂け目はついに【黒腕】とエミーの接合部分にまで達した。


 つまり、【黒腕】はもはや、腕としての形状をすっかり捨て去り。


 そこに、あるのは。




 ......美しい少女の両肩から伸びる、先端の鋭く尖った......10本の、触手である!!




「へ!?は!?......はあああああぁーーーッ!?」


 さすがに突然異形へと変じたエミーを目の当たりにして、戦いながらも器用に呆然としていたライリーンも、驚愕の声をあげた!


「な、ななな、何それ!?何それぇーーーーーーッ!!?」


「【黒触手】!!!」


 エミーは端的に、あまりにも安直なその触手の名を告げると......一斉にそれをライリーンに向かって、放った!

 ごつごつと硬質な外見を残した【黒触手】が、四方八方からライリーンに襲いかかる!

 まるで鋭い槍のような勢いで、突っ込んでいく!


「あ、あ、あわあああッ!!!」


 【黒触手】その1、【黒触手】その2、右拳、【黒触手】その3、【黒触手】その4、左拳、右拳、【黒触手】その5と6、【黒触手】その7、左足、【黒触手】その8と9、右拳、左拳、【黒触手】その10!

 ライリーンは大いに慌てながら、エミーの攻撃を捌き続ける!

 手数が!

 エミーの手数が、あまりにも多い!

 攻撃の密度が、一人とは思えないほど高すぎる!


 これまで一歩もその場から動くことなくエミーと戦い続けていたライリーンは、ついに徐々に後退を始めた。

 【黒触手】はあらゆる方向から、ほぼ同時のタイミングでライリーンへと迫る。

 自分が動くことで、そのタイミングを少しずつずらしているのだ。


 もちろん、ライリーンは強い。

 だから、もしこの【黒触手】が体にぶつかったとしても、傷一つ負わないだろう。

 殺し合いをすれば、勝つのはライリーンだ。


 ......しかし、この度の戦い、ルールがある。

 もし一撃でも攻撃を受ければ、その時点でライリーンの負けである。

 捌ききれなければ、敗北する。


 すなわち。


 エミーがこの島から、出て行ってしまう。




「い、嫌だ......!嫌だぁーーーッ!!」


 その事実に思い至ったライリーンは、それまで続いていた内心の動揺を無理やり吹き飛ばし、気合を入れた。

 その瞳に、本日初めて闘志が灯る!


 どれだけエミーに嫌われていたのだとしても!

 自分は、エミーと、まだまだ一緒にいたいのだ!

 ここでお別れなんて、絶対に嫌!


「はああああああッ!!!」


 ライリーンは、後退することをやめた。

 そのかわり、彼女は。

 次々に襲いくる【黒触手】を、指の間で挟んで掴みながら、拘束し始めた!


「む!?」


 触手を生やし、手数を増やす。

 エミー以外には、ほぼ不可能な奇策。

 話を聞いただけでは、おそらく他人には意味がわからない打開策。

 それが、打ち破られようとしている。


 エミーの額からは冷や汗が流れ、その精神に動揺が走る。

 【黒触手】の操作精度が、落ちる。

 ......なおさら【黒触手】が、拘束される!

 悪循環!!




 パシ、パシンッ!!!




 そして、ついに。

 エミーの動きが、止まる。

 【黒触手】は、その全てがライリーンの指に挟まれ、動きを止めている。

 それだけではない。

 今聞こえた衝撃音は、エミーの両拳が、受け止められた音だ。

 ライリーンは【黒触手】をあわせて10本、全て指に挟んだうえで、なおかつエミーの両拳をしっかりと握りしめ、拘束している。

 圧倒的な膂力でもって、無理やりそれを成し遂げている。

 そして、エミーは少女、ライリーンは成人女性だ。

 脚や腕の長さが違う。

 この状態からエミーが蹴りを放とうとも、ライリーンには届かない。


「はぁッ、はぁッ、はぁッ......」


 エミーは大きく口を開けて、荒く息を吐いている。

 消耗が激しいのだろう。

 額には大量の汗が浮かび、顔は真っ赤だ。


「............ふぅーーーーーー......」


 一方のライリーンは、深く深く......安堵の息を吐き出した。

 今回ばかりは、さすがに危なかった。

 にっこり笑うその頬を、冷や汗が一筋流れ落ちる。


 だがしかし、これで終わりだ。

 エミーはしっかりと抑えつけ、もはや身動きできまい。


 旅は、お預けだ。


「......残念だったわねぇー、エミーちゃん」


 ライリーンは確信し、宣言しようとした。


「この勝負、私の」


 勝ちだ、と。




 しかし。


 そこまで口を動かし、ふと感じる違和感。

 じっと、エミーの顔を見つめる。


 すると、エミーの瞳に。

 まだ......炎が燃えている。

 闘志が、燃えているではないか!




 エミーはまだ、諦めていない!




 でも、どうして!?

 この期に及んで、一体何ができる!?


 ライリーンは混乱した。

 結論から言えば、ライリーンは慢心し、油断していた。

 確実に、勝利したければ。

 無理やりエミーを抑えこんだ時点で、その次に彼女を地面に叩きつけたり、蹴り飛ばしたりなどしてダメージを与え、彼女の意識を奪うべきだった。

 ライリーンにはそれができた。

 それなのに、彼女は勝利宣言をしようとすることで、エミーに時間を与えた。

 与えてしまった......!




(何か......!)


 まずい気がする!

 直観的にそれを感じとり、エミーの意識を刈りとろうとするライリーンだが......その思考、数瞬遅かった!


 エミーはその時、あんぐりと口を開けていた。


 何故か?


 呆れていた?

 驚いていた?

 あくび?


 どれも違う。


 それは、攻撃の予兆。


 この一か月間、ライリーンから隠し通した、本当の奥の手。

 新たに磨きあげた、彼女の努力の結晶!


「何を」


 しようとしているのか。

 愚かにも、ついそう問いかけようとしてしまったライリーンだが、その質問は途中で遮られた。

 何故ならば、その途中で。

 エミーの口の、奥から。

 先端が槍のように尖った、どす黒くて、ごつごつした、太い紐のようなもの......すなわち、【黒触手】が!


 ......突然、射出されたからだ!!


「!?」


 蛙の舌のように伸びる、【黒触手】!

 ライリーンは今、至近距離でエミーを抑えつけている。

 そしてよく見ると、指で挟んだ【黒触手】の先が、いつの間にやらライリーンの腕に絡みつき、逆に彼女を拘束している。

 つまり、動くことが、できない!

 避け......られないッ!!


 まっすぐに伸びた【黒触手】は、狙い過たず......ライリーンの額に、直撃した。


 その衝撃のあまり、ライリーンは後ろにのけぞるような姿勢で吹き飛び、草原の上にあおむけの姿勢で倒れた。




 【黒触手】の手数で押しきり、ライリーンに一撃を与える。

 それが今回の戦いにおける、エミーの第一目標だった。

 残念ながらそれは達成できなかったが、彼女はその場合の打開策もまた、用意していたというわけだ。


 それが、口内からの【黒触手】攻撃による不意打ちである。


 【黒触手】または【黒腕】は、エミーの両肩を起点として発生する。

 今までは、ずっとそうしてきた。

 しかしそれは、【黒腕】のもととなった異能【見えざる手】がそうであったからそのイメージに引きずられただけであって、理論上は体表のどこからでも、発生させることができる。

 これは、実は割と早い段階から、オマケ様が看破していた事実である。


 エミーはこれを利用した。

 口の中で、【黒腕】......【黒触手】を発生させる。

 そして、至近距離で不意打ちする。

 これが、きれいに決まった。


 当然、肩以外の場所における【黒触手】の発生のためには修練が必要だったが、その修練をライリーンに隠すことは容易かった。

 何せ、エミーとライリーンの間には会話が少ない。

 口を閉じておけばばれずに練習できるので、エミーは口内からの【黒触手】発生及び射出の訓練を、思う存分にできたというわけだ。




 しゅる、しゅる、しゅると口から飛び出た【黒触手】を口内に引き戻してから、エミーは淡々と言った。


「私の、勝ち」


 と。




 視界いっぱいに広がる青空を呆然と眺めながら。


 ライリーンは、認めざるを得なかった。


「......負けた」


 と。




 視線の先の青空に浮かぶ白い雲が、風に流されどこかに飛んでいく。




 その様を見つめながらライリーンは、全身を脱力させ。


 深く、深く息を吐いてから。


 もう一度。


 もう一度、嚙みしめるように、言った。




「私が..................負けた」

質問

「養母が強すぎて、一発殴れません。どうしたら良いですか?」


回答1

「触手を生やして、手数を増やしましょう」


回答2

「口内から触手を射出することで、不意打ちしましょう」




 長かった第14章も、ようやくそろそろエピローグに入れそうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] どんどん某神話生物に寄っていってて草なんよ。
[良い点]  全てを出しきったナイスバウト!(^◇^;)たとえエミーさんがかたくなに認めなくても互いに誓ったルールを守り敗北を口に出来たライリーンには読者から“名誉ママさん”の称号を与えたいと思います…
[一言] 東京グールの尾赫を連想した
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