261 けんか
「そもそもねぇー、『技術』なんてものは、しょせんは弱者の足掻きでしかないのよぉー」
右拳、からの左拳。
右、左、右。
私から放たれる攻撃を全て捌きながら、ライリーンはにこにこと語る。
「だからね、エミーちゃん。私たち、真なる強者にはねぇー?必要がないものなの。ふさわしく、ないものなのよぉー!うんうん!」
足元に放ったまわし蹴りは軽く跳んでかわされ、腰辺りに放った蹴りは余裕を持って受け止められた。
なので握られている足を支点に全身の力でぐるりと体をライリーンへと引き寄せてその勢いで殴りつける。
結構変則的な動きで攻めたてるも、効果なし。
殴りつけた腕を掴まれ、ぽんと空中へと放り投げられる。
くるくると回転して、着地。
「もちろん、エミーちゃん、あなたはまだまだ弱い。でもそれは、私と比べたらってだけの話ぃー!有象無象と比べたら、既にあなたは十分に強いのよぉー」
全力で地面を踏みこみ抉りながら、ライリーンに接近する。
右、左、右、左、右、左、右!
顔、腹、左肩、腹、腹、顔、顔!
身長が足りない分は飛び跳ねながら、連続して拳を放つ。
「だからあなたは、まごうことなき強者なのです。私が保証するわぁー!」
しかしその全てを、ライリーンは受け止める。
その白く細長く美しい指先が、私の攻撃を容易く防ぐ。
バシン!
バシン、バシン、バシン、バシン、バシン!
衝撃音だけが、むなしく響く。
「つまりあなたに、『技術』なんて弱者の足掻きはふさわしくない。これからは、その恵まれた素質だけを他者に押し付け、ただ思うがままに暴力を振るえば良いの!」
目にもとまらぬ速さで手を動かし、私の拳を悉く受け止め、いなし、払いのけながらライリーンはにっこりと笑う。
息をきらし、汗が噴き出ている私とは対照的に、この女は涼しい顔だ。
それがむかつく。
むかつく、むかつく、むかつく!
「それがあなたにふさわしい、強者としてのあり方よ!......おわかりかしらぁー?」
その、傲慢な思考が!
上から目線が!
もはやその全てが、気に入らない!!
「ふざけるなッ!」
全力で、蹴りを入れる。
もちろんその一撃は、ライリーンの手のひらで容易く受け止められる。
バシィィンッ!!
一際大きな音が響き渡り、風圧で周囲の草が千切れとぶも、やはりライリーンには微塵も効いていない。
私の足を受け止めたその手のひらを足場として跳びはね、くるくるまわりながら宙を舞い、距離をとる。
「何が......何が、『強者としてのあり方』だッ!!適当なこと、ぬかしやがって!!」
そして、叫ぶ!
心の底から沸々と湧き上がる自分の気持ちを、そのままの形で叩きつける!
「私のあり方に口をだすなッ!私のあり方は、私が決めるッ!!」
風の音だけが聞こえる草原に、私の声が響きわたる。
ライリーンはそれを......目を見開いて、聞いている。
「これは、私の大切な、宝物なのッ!それを捨てる?あり得ないからッ!!」
体が燃えるように熱い!
怒りがおさまらない!
おそらく無表情のままに、しかし激情にまかせて喚きたてる私の様子を見て、ライリーンは冷や汗を流しながらようやくオロオロとし始めた。
「あ、あのねぇー、エミーちゃん?私は......私は、エミーちゃんのためを思って......」
「うるさい黙れクソババアッ!!」
「クソバッ......!!?」
思わず口をついて出た言葉に、ライリーンがぴしりと固まり、停止する。
そしてすぐに顔を赤くして、ついにライリーンも怒り始めた。
「お、お母さんに向かって、何て口をきくのぉー!?」
「うるさいッ!お前なんて、母親じゃない!ただのクソババアだ!バーカ、バーカッ!!」
私はもう、この女を許さない!
ナイフのように鋭い言葉を、次々に投げつける!
「バーカ!バーカ!!バァーッカ!!!」
血も涙もない恐るべき暴言の雨あられだ!!
「え、エミーちゃん、どうしちゃったの......?」
ライリーンは、とても傷ついた顔をしていた。
それが、またしても気に食わない。
傷ついた?
自分だけが、傷ついた顔をするな!
しかし、それだけなら、まだ許せた。
この女、そうやってショックを受けていたのは、ほんの一瞬だった。
すぐにその表情に、喜色が交じり始めたのだ。
両手で頬をおさえて、ライリーンはその赤色を隠しながら、叫んだ!
「無口で大人しかった娘が、急に豹変するなんて!?まさかこれが......俗にいう『反抗期』ってヤツなのッ!?キャァーーーッ!!」
......ふざけている。
徹頭徹尾、ふざけている。
私は、この女の背景を知らない。
何を思って、私の母親になりたがったのかを知らない。
興味がないから、聞いていない。
それでも、ご飯をくれた。
寝床をくれた。
服をくれた。
ずっと一緒に、いてくれた。
だから、私も!
これがきっと、母というものなのだろうと!
少しは思い始めて、いたのに!
......思い始めて、いたのに!!
こいつは!
最初から!
最初から母親になる気なんか、なかったんだ!
母親ごっこが、したいだけだったんだ!!
「もう......」
うつむいて、拳をぎゅっと握る。
「え......?」
気の抜けた、ライリーンの声が漏れる。
「もう、こんな家ッ......出て行ってやるッ!!」
私はライリーンとお屋敷に背を向け、周囲をとり囲む丘に向かって全力で走り出した!




