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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
14 母編!
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258 ふと目覚める深夜

 ライリーン・ルーンは現在冒険者ギルドの総帥を務めている、“不変”の二つ名を持つ最強の特級冒険者だ。

 総帥で、不変で、最強で、特級だ。

 ......端的に言えば、彼女はもの凄く偉い。

 立場のある人間だ。

 例え普段の態度が、その立場にそぐわない人物であったのだとしても、偉いもんは偉い。

 そして有名人だ。


 だからライリーンには、時々取材の依頼が舞い込む。


 面倒くさいので大抵は断るのだが、それも絶対ではない。

 彼女もたまに気まぐれを起こし、記者を自室へと招き入れることがあるのだ。


 すると絶対に聞かれるのが、『何故あなたは歳をとらないのですか』という質問だ。

 彼女は若い見た目のまま、既に300年以上生きている。

 誰だって、歳はとりたくないし、死にたくもない。

 だから、絶対に、こういう質問がとんでくるのだ。


 それに対するライリーンの回答は、シンプルだ。


「知らなぁーい」


 この一言である。

 知らないもんは知らないし、興味がないので調べたこともないからだ。


 しかし質問者としては、当然この解答だけでは満足ができない。

 質問を重ね、その不老の理由を探ろうとする。

 『あなたのご家族も、似たような体質だったのでしょうか?』と、このような問いかけを、したりするわけだ。


「さぁー?」


 それに対してライリーンは、必ず小首を傾げてそう答える。


 答えを、はぐらかしているのか?

 それともこちらを、馬鹿にしているのか?


 短気かつ愚かな質問者であれば憤慨してもおかしくはない答えなのだが、ライリーンは別に質問者をおちょくっているわけではない。


 彼女は、自身の家族のことを、憶えていないのだ。


 何故か?


 大昔の記憶だからか?


 違う。


 つまり、捨て子だった?


 それも違う。




 彼女は幼少の頃から、家族すら含めた他人に対して、全く興味を持てなかったのだ。




◇ ◇ ◇




 実はわずかにではあるが、彼女の幼少の頃の記録が文書として残されている。

 ライリーンは10歳の頃、幻想大陸のケレンカンという国で冒険者登録を行っている。

 その登録時の記録が現存しているのだ。


 ほぼ古文書と化しているそれによれば、彼女はどこかの田舎村の、農家の娘であったようだ。

 登録時の面接で、家族について聞かれた彼女は『4、5人?』とだけ答えたとのことだ。

 漠然とした人数以外の回答は、なかったという。


 父親がどういう人間であったか。

 母親がどういう人間であったか。

 兄弟姉妹はどういう人間であったか。


 その一切を、当時から既にライリーンは覚えていない。




◇ ◇ ◇




 家族にすら興味を持たないのだから、当然赤の他人に対しては、もっと興味がない。


 彼女には冒険者として活動を始めた当初、成り行きで行動を共にしていた少年冒険者がいた。

 その少年の名前は、資料が紛失しており明らかではないが、とにかく斥候系の適性の持ち主であったはずだ。


 その少年とライリーンは、1年間行動を共にしていた。

 現在ほどではなくとも、当時からずば抜けて強かったライリーン。

 強さはそれほどでなくとも、慎重で頭の良かった少年。


 にこにこと笑みを絶やさず冒険者として活動するこの少年少女のことを、町の住人たちは良いコンビであると認めており、微笑ましく見守っていた。




 ところがある日の夕方。

 ライリーンが一人で、冒険者ギルド出張所の窓口へ、依頼達成の報告に来たのだ。


 ......いつもなら、その隣には、必ず少年が立っていたはずなのに。

 交渉事だの報告だの、そういうことをそつなくこなす少年。

 その隣でにこにこと笑っているライリーン。

 これが、いつもの風景だった。


 ところが、この日窓口にやってきたのはライリーンただ一人だった。

 ずるずると、おそらく本日の獲物と思われる巨大な熊の死骸を引きずり、薬草籠を背負いながら、ライリーンはたった一人で出張所の扉を開いたのだ。

 どういうことなのだろうか。

 訝しんだ受付嬢が『少年はどうしたのか?』と事情を聴くと、ライリーンはにこにこと笑いながら、言った。


「死んだよぉー?」


 と。




 その発言を受けて、出張所は大騒ぎになった。

 基本的に、冒険者は活動中に命を落とそうが自己責任で処理される。

 この件も大抵の出張所であれば、受付嬢が一言お悔やみ申し上げ、それでおしまいの事件であるはずだ。

 しかしこの出張所、もともと冒険者の死亡率が極端に低かった。

 近隣に危険な魔物の少ない、初心者向けで牧歌的な環境の出張所だったのだ。

 そんな中で死亡事故、しかも被害者が年若い少年ともなれば、騒ぎになるのもやむなしである。


 すぐさま調査が行われ、ライリーンに対しても状況の聞き取りがなされた。

 ライリーンがにこにこしながら証言したところによると、近くの森に凶暴な熊の魔物......土熊が出没し、不意を突かれた彼は無残にも殺されてしまったらしいのだ。

 彼女はすぐさま土熊に反撃してそれを狩り殺したが、その時には既に少年は事切れていたという。


 ベテラン冒険者たちがすぐに外へと飛び出し現場へと急行すると、果たしてそこには少年の遺体が転がっていた。

 後頭部に深い切り傷。

 それと、首元を大きく抉るような形の噛み傷。

 確かにライリーンの証言通り、少年は死んでいた。


 証言は、正しかった。

 切り傷はライリーンの引きずってきた土熊の爪の形と一致したし、特徴的な噛み傷は土熊の被害者によく見られるものだった。

 確かに、少年は土熊に殺されていたのだ。


 そして、その土熊をライリーンが狩り殺した。

 その事実も、周囲には特に疑われることもなく受け入れられた。

 彼女の幼い見た目にそぐわぬ高い実力は、既に周囲に知れわたっていたからだ。


 これで事件のあらましは判明した。

 しかし、調査関係者が首を傾げてしまう謎が一つ、残っていた。

 それは、事件直後のライリーンの行動である。


 少年が土熊に襲われ死亡したのは、大体昼前のこと。

 しかしライリーンがそれを報告したのは、その日の夕方である。

 少年が死亡した森は町からさほど離れておらず、ライリーンであれば数十分とかからず移動できる距離である。




 それなのに、昼前から夕方まで、その間ライリーンは、一体何をしていたのか?




 その問いに対しても、ライリーンはにこにこしながら、特に隠し立てすることなく答えている。


 彼女は土熊を狩り殺した後、その土熊の血抜き等の処理を行っていたらしいのだ。

 さらには、薬草採取。

 彼女はその日受けた依頼である、薬草採取を行っていた。


 ......1年間相棒として共に活動してきた少年の遺体を、森に転がしたまま。




 このライリーンの異常行動に対して当時その町の冒険者ギルド出張所は、『精神が錯乱状態にあり、正常な判断ができなかったのだ』と解釈した。

 町の人々も、いつも笑顔で明るいライリーンのことを信頼していたので、その解釈を支持した。

 そして、口々にライリーンをいたわった。


 『相棒を失って、悲しいだろう。辛いだろう。無理に、笑うことはない。無理をしてはいけない』と。


 そう言われたライリーンは、表情からすとんと笑顔を消して真顔になった。

 そして。




「なるほど」




 そう、つぶやいた。




◇ ◇ ◇




(......これはまた、懐かしい夢を、みたものね)


 深夜、ライリーンはぱちりと目を覚ました。

 目の前には、自分と同じ柔らかなベッドに体をすっかり沈み込ませて眠る、黒髪黒目の少女エミー。

 現在のライリーンが“愛して”やまない、300年かけてようやく見つけた、“自分が興味を持てる相手”。


 今、あの少年との死別を夢で思い出したのは、間違いなくエミーの影響だろう。

 何故ならあの出来事は、己が“欠けているのかもしれない”と、明確に自覚した初めての瞬間だったのだから。


 あの少年、名前は、はて、なんと言ったか、とにかく彼が死んでライリーンは何を感じたのか。


 悲しみ?


 辛さ?




 ......答えは、『不便』である。




 優秀な斥候役であり交渉役、そんな仲間を失って、その不便さを嘆く気持ちはあっても、彼の死を悼むという発想自体が、ライリーンには存在しなかった。

 だから町の人々に慰められた時、ある種の衝撃を受けたのだ。


 こいつらは、何を言っているんだ、と。


 なるほど、普通はそう感じるべきなのか、と。


 そしてその時、ようやく気付いたのだ。


 “それ”を感じた経験が、自分には致命的に欠けているのかもしれない、と。




 さて、“それ”とは一体、何なのか。

 長年にわたる研究の結果、“それ”とは即ち“興味を持てる相手”であって、言い換えるなら、“愛”であるのだろうとライリーンは結論づけた。

 ライリーンは幼いころから他者よりも圧倒的に強く優秀であり、その辺の有象無象が当たり前に持っている感覚を自分が持っていないという事実が、どうにも納得いかなかった。

 故にそれからというもの、己が“興味を持てる人間”、つまり“愛することのできる人間”、もっと端的に言うと“愛”を探すことこそ、ライリーンの人生の目的となったのだ。




 色々なところを旅した。

 色々な人々と出会った。

 色々なものを救い、色々なものを壊した。




 しかし、ついぞ彼女が探し求める“愛”というものは見つからなかった。

 便利、という意味で少しばかり愛着を持てる人間はたくさんいたが、彼女が真に心動かされ愛おしいと思える人間は、一人もいなかったのだ。


 しかも、いつの間にやら彼女は、何故だかすっかり人間の範疇を逸脱していた。


 その強さは、人智によって測りきれず。

 その美貌は、不老が故に衰えず。


 おおよそ200歳を過ぎたあたりで、もはや彼女には、人間と言う存在が自分と同種の生物であるとすら認識できなくなっていた。

 自分と似た姿を持つ、同じ言葉を吐き出す、でも小突くだけで死ぬか弱い生物。

 それが彼女にとっての、人間だった。


 そうなると、ますます彼女の中で人間への興味は薄れていった。

 彼女は研究の結果、彼女の求める“愛”とは、おおよそ家族間等で交わされる情であると突き止めていた。

 しかし、自分と同種とは思えないほど弱くて、なおかつすぐに老いては死んでいく劣った存在を愛することは、どうしてもライリーンにはできそうになかった。


 ライリーンは、傲慢であった。


 彼女のこの傲慢さは、おそらく彼女が幼いころから無自覚に身にまとっていたものであり、彼女が人を愛することのできない根本的な原因である。

 その事実を、この期に至っては彼女も良く理解していた。

 そしてもはやこの期に至っては、この傲慢さを改善するには、彼女はいささか人間を超越しすぎていた。




 “愛”が、何だと言うのか。

 人を愛せないから、何だと言うのか。


 次第に何もかもがどうでも良くなり始めた彼女は、ある時一度、ついに“愛”を諦めた。




 その瞬間に、彼女にとっては世界も人間も、本当にどうでも良いものへと成り下がってしまった。

 だから彼女は、何の意味もないふとした思い付きを、実行してみようとしたのだ。




 『そうだ!人間を、滅ぼしてみよぉーっ!』




 全人類抹殺!!

 その思い付きが脳裏をよぎった時、ライリーンは本当に久方ぶりに、胸の高鳴りを感じた!

 だって、これまで長く生きて来たけれど、そんな経験したことないんだもの!


 しかしながら、彼女のその邪悪な思い付きが、実行に移されることはなかった。


 思い立ったら即行動とばかりに、まずはその辺にいる目についた人間を皆殺しにしようとしたその瞬間、彼女は突然何らかの神秘的手段によって謎の空間へと拉致され、整った顔に口髭を生やした男に体を押さえつけられていたからだ。




 『お前、マジふざけんなし!マジやめろって!冒険者であるお前がそんなことしたら、マジでオレの責任問題だし!魔導神先輩みたいに、なりたかねぇぞオレはッ!!』




 真っ青な顔をしながら威厳もへったくれもない口調でライリーンを諫めたこの男こそ、初代冒険者ギルド総帥であり現在は冒険神として神界に住まう存在、ドーラントス。

 これがライリーンの、神との初めての接触であった。




◇ ◇ ◇




 いかに規格外の実力を持つライリーンであっても、さすがに神の力には抵抗することができず、全人類抹殺は諦めることにした(そもそも、ただの思い付きであったことだし)。

 その後は、紆余曲折があった。

 いくつかの枷と面倒くさい使命を授けられ、ライリーンは大人しく地上で生き続けることになった。

 昇神することも勧められたが、断った。

 己のあり方が、どちらかと言えばそちらに近しいことは薄々感じてはいた。

 そちらの世界に向かえば、もしかすると、自分が愛することのできる存在が、いるのかもしれないとも思った。

 しかし、神になるとは即ち、何らかの形でこの世界を永遠に支え続ける存在になる、ということである。

 人間どころか既に世界に対しても興味を失っていた彼女は、そんな永遠など願い下げだった。


 そんなわけで、ライリーンは神々によって押しつけられたこの島のお屋敷で、何となく生き続けていた。

 外出が禁じられているわけではないので、たまに遠出して、気まぐれに冒険者として活動する日々。

 刺激も何もない、まっ平な日々。


 スラムで少年を殺人鬼から救ったり。

 スタンピードに巻き込まれた商人を助けたり。


 事件はいくつも起こったが、彼女にとってそれは、刺激でもなんでもなかった。

 何しろ、腕を一振りすれば、敵は死ぬ。

 そのうえ、知り合った人間に対して、微塵も興味がわかない。

 退屈だった。

 気づけば、積み重ねた功績が無視できず、なおかつ冒険神の事情をある程度知っているという理由から、ライリーンは冒険者ギルド総帥に就任していた。

 拘束時間が増え、自由が減った。

 さらに退屈になった。


 冒険神からは、『いつかきっと、お前が愛することのできる存在も、現れるだろうよ。腐らず生きれ』というありがたいご神託をいただいている。


 いかにも適当で、根拠もないだろうお言葉だったが、神託は神託。

 なんだかんだでその言葉は、ライリーンの心の支えになっていた。


 なっていたの、だが。


 冒険神との邂逅から時が過ぎること、さらに100年。


 さすがにもう、限界が近づいていた。

 彼女は“愛”を、再び諦めようとしていた。




 そんな時だった。

 ライリーンが報告書で、エミーという存在を知ったのは!




◇ ◇ ◇




 すうすうと寝息を立てるエミーの黒髪をなでながら、ライリーンはその時の興奮を思い出していた。


 初めての感覚だった。

 報告書に記された、“エミー”という名前。


 ただの文字列であるはずのそれは、彼女の常人を越え高まった第六感を、多いに刺激した!


 『電撃が走った』などと言う比喩を良く聞くが、まさしくそれだった!




 エミー!


 エミー!!


 エミー!!!




 まだ顔も声も知らぬその少女のことを思うと、ライリーンの胸は痛い程高鳴った!

 そして不安に襲われた!

 私は、この少女のもとへと、行かねばならない!

 直観がそう、絶叫している!


 何だ、この気持ちは!?

 ライリーンはそれまでの300年間で、これほどまでの不安を、味わったことはなかった!

 何故、不安なのか!?

 これが、“恋焦がれる”という感情か!?


 理由は、わからない!


 しかしエミーは、ライリーンが存在を知ったその時から、間違いなく、激しく彼女が興味を惹かれる存在だった!




 つまり、この感情は!




 きっと、これは!!




 間違いなく、“愛”!!!




◇ ◇ ◇




「うふふ......」


 ライリーンはたまらず、エミーの額に一度キスをしてから、星明りに照らされる美しいその寝顔をまじまじと見つめた。

 こうして実際に娘として手元においてもなお、未だにライリーンの胸の高鳴りは止まない。

 その息づかい、長いまつげが震える様、一挙手一投足、全てにドキドキする。


 軽く、抱きしめる。


 本能が、叫ぶ。


 もっと、強く抱きしめろと。


 潰れるほど、強く。


 しかし、理性はそれを許さない。

 二度、失敗しているのだ。

 これ以上、愛するエミーに嫌われたくない。


 優しく、優しく、優しく。


 体を寄せるほど、胸の高鳴りは強くなる。

 これは、恐れだろうか?

 エミーと離れたくない、そういった、恐れだろうか?


 離れていれば、不安。

 近くにいても、不安。


 思えばライリーンは、エミーと出会うまで、“不安”というものも、ろくに感じたことがなかった。


 それなのに。


 それなのに!


 今はいつだって、胸が張り裂けそうだ!




 ああ、“愛”とは!




 とてつもなく、難儀なものだ!!

【冒険神ドーラントス】

 第6章で初登場した冒険者の神。

 神様的にはまだまだ新参者であり、第6章では幼女に殴り飛ばされ、第12章では立方体にすら軽んじられていた。

 色々と苦労してそう。

【魔導神】

 第5章でオマケ様から言及されていた魔法神とは別の存在。

【殺人鬼から救われた少年】

 ガイストフェナンジェシリアードのこと。

 第237話参照。

【スタンピードに巻き込まれた商人】

 カマッセの祖父のこと。

 第95話参照(設定を父から祖父に変更しました)。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ本当に愛?愛だけじゃなくて恐怖も感じたことがないからエミーの魂に根源的な恐怖を感じたけどその気持ちが何かわからないから「愛」って名前をつけたってオチじゃないよね?
[一言] お爺ちゃんはライリーンが愛を確かめる為の実験体ってだけの話だったのね 初めから思いが一方通行だったとはとことん救いようがないなお爺ちゃん
[良い点]  バマパーマに理不尽な一撃でのされた冒険神ドーラントスが意外にも人類滅亡を阻止していた件、(´Д` )クズ神ばかりと思ってたら自分の面子がかかっていたなら実力行使もやるんだなーと僅かに感心…
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