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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
14 母編!
255/716

255 エミー対ライリーン

 次は私の番。

 そう宣言して目の前に立ちふさがった金髪美女を前にして、エミーは首を傾げた。


「戦う?お姉さんも?なんで?」


「あらぁー!やっぱり勘違いしてたぁー?エミーちゃん、人の話はちゃぁーんと、聞いていないとダメよぉー?」


 ライリーンは口元を手で隠しながら、くすくすと笑う。


「さっきの話し合いで決まったのはねぇー、『エミーちゃんと戦って、勝てば保護者になれる』ってことなの。そしてそれは別に、さっきの男に限ったことではない」


「............」


 事情を理解したエミーは、静かに拳を構えた。

 二人の間を、土埃を伴って冷たい風が吹き抜けていく。

 エミーはまず、【魔力視】を発動する。

 ライリーンから漏れ出る魔力量を視認し、おおよその戦闘能力を推し量ろうとする。

 しかし......。


「ちっ」


 エミーは小さく舌打ちをして、冷や汗をかいた。

 そして、た、たんと飛び跳ねて後退し、ライリーンから間合いをとる。

 何故ならば、今のライリーンの体からは、一切の魔力漏れを確認することが、できなかったからだ。

 驚異的な魔力制御能力である。

 一筋縄ではいかない相手だ。

 この女は、メケナーサンドを延々と与えてくれる、ただの優しいお姉さんではない。

 それをエミーは、すぐに理解した。

 餌付けによってほだされた警戒心が復活し、事実を正しく認識し始める。


 危機感を強めるエミーに対して、ライリーンは未だに戦闘態勢すらとっていない。

 そもそも、恰好自体がまるで戦う意思を感じられない普段着であり、それが【黒腕】を展開しているエミーとの温度差を際立たせている。


 襟の部分にふわふわとしたファーのついた白いコートを羽織り、腰から下はスカート。

 風でなびきちらりとのぞく脚には黒いタイツをはいており、靴はヒールの高い、見るからに戦うには不向きなもの。

 一見すれば、町のおしゃれなお姉さんである。


 だがしかしその実力を、エミーは読みきれない。

 底が知れない。

 脳内では、オマケ様が騒いでいる。

 逃げるべきだ、と。


 できるならば、エミーだって逃げたい。

 しかし、できないだろう。

 これまでの経験知が積み重なり無意識下に練り上げられた、直観がそう告げている。


 どうするべきか。

 先にしかけるか。

 できるのか、そんなことが。


 できるのか、ではないか。


 やるのだ。


 やれ。




 警戒心を最大に高めて身構えるエミーに対し、ライリーンは気の抜けた姿勢のまま苦笑しつつ、声をかけた。


「ねぇー、あなたは私と家族になることも、嫌なのかしらぁー?」


「嫌」


 それだけ言うと、エミーは突然ライリーンに向けて思いきり、【黒腕】の左拳を使って殴りかかった!

 先ほどアルクスを殴り飛ばした、砲弾のような一撃である。


 会話の最中に行われた奇襲。

 見る人によっては卑怯者の誹りを免れない行為ではあるが、この時のエミーに、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 そんなことを気にできる相手ではないとも、思っていた。

 既にエミーはライリーンというこの女を、それほどの相手であると認識していた。


 そして、その認識は正しかった。

 それはすぐに、ライリーンの行動で証明されることになる。


 彼女は素早く右手のひらを前に出したかと思うと、まるでキャッチボールをするかのような気軽さで、【黒腕】を受け止めてしまったのだ!




「うふふ、エミーちゃん、元気いっぱいねぇー......あら」


 攻撃されているにも関わらず、相変わらず笑みを浮かべながらのんびりとエミーに語りかけるライリーンだが、その言葉は途中で止まった。

 気づいた時には、エミーが彼女の目の前に迫っていたからだ!

 それも、音も無く!

 この時エミーが何をしたのかと言えば、彼女は【黒腕】を使ったのだ。

 【黒腕】は、限度こそあれ、比較的自由に伸縮させることができる。

 エミーはライリーンが【黒腕】の拳を手のひらで握りしめ受け止めたことを逆手にとり、【黒腕】の長さを縮めることで自分の体をライリーンの方に瞬時に引き寄せ、再度奇襲を図ったのだ。


 エミーはその勢いのまま、思いきり右拳をライリーンの左頬に叩きつけようとする。

 しかし岩すら容易く砕くはずのその拳を、ライリーンは左手の人差し指一本で受け止めた。


 次いで、エミーは左拳で、ライリーンの右肩あたりを狙う。

 ライリーンは掴んでいた【黒腕】を離し、右手人差し指でそれを受け止める。


 自由になった【黒腕】の左拳を、上から思いきり叩きつける。

 頭上に掲げた左手で防がれる。


 それとほぼ同時に、後方に残していた【黒腕】右拳をまっすぐにぶつける。

 右手で受け止められる。




 ライリーンの左右の手が、ふさがった。




「りゃあああああーーーーーーッ!!!」


 生じた隙を見逃さず、エミーはライリーンの腹に向かって、思いきり右拳を叩きつけた!

 ほんの数秒にも満たない攻防の中で、ライリーンの強さは痛い程実感した。

 この女は、信じられないほど強い。

 ちらりとうかがったその表情は、笑顔だ。

 慈しみ愛情を向ける、女の顔。


 エミーはその表情に、怖気が走った。


 だからこそ、その腹に叩きつけたのは、全力の一撃だった。

 普通の人間であれば、なすすべなくはじけ飛びその体を四散させるであろうその一撃。

 それを腹で受けたライリーンは、さすがに物理法則に従い後方へと吹き飛んだ。


 しかし途中でくるりと回転し、地面に両足を着ける。

 ざざざ、と土煙をあげながら直立した状態で後ろに少し滑っていき、止まる。


「四本腕って、ずるくなぁーい?全部防ごうと思ったのにぃー」


 そう言いながら顔をあげたライリーンの表情。

 やはり、笑顔。

 優しい眼差し。

 ノーダメージ。


「ああああああーーーーーーッ!!!」


 エミーは足元の岩盤を踏み砕き、宙に浮かせた小石を掴んでは投げる。

 【無限礫】だ。

 目にもとまらぬ速さで飛来する無数の石礫を、しかしライリーンは笑顔のまま、まるで雪か何かのように払いのけつつ、エミーに向かって近寄って来る。

 効いていない!


 ある程度近づいて来たライリーンに対し、エミーは【無限礫】による攻撃に加え、【魔力斬糸】による奇襲も混ぜはじめた。

 切れ味鋭い不可視の糸を、まるで鞭のように、石礫を投げる動作にまぎれさせながらライリーンへと放つ。

 しかしそれも、ライリーンはまるで蜘蛛の糸を払いのけるような気軽さで、振り払ってしまう。

 効いていない!!


「ねぇ、エミーちゃん」


 あっという間に、距離がつめられる。

 再度始まる近接戦闘。

 エミーは必死に、四つの拳を叩きつける。

 ライリーンはその全てを、悉く防ぐ。

 ただ防ぐだけでなく、巧みにそれを捌くことで、もはや先ほどのような隙も見せない。


「私と家族になるのは、嫌?」


 常人には視認することすら難しい高速戦闘の中、ライリーンは再度、のんびりと問いかける。


「親......なんてッ!いらないッ!!」


 エミーは必死だ。


「なんで?」


「......!!」


 もはや、何か喋る余裕もない。

 ただ必死に、ライリーンに対して拳を叩きつけ続ける。


 そんなエミーに対して。

 ライリーンは拳を捌きながら優しく微笑み。

 そして。

 目にもとまらぬ速さで、エミーに近づき。

 その両腕で、エミーのことを。

 抱きしめた。


 ......思いきり!




「あがッ......!」


 ミシ、ボキという骨の折れる音が鳴る。


「あ、あ、あ......」


 そして、あまりに強い力で抱きしめられているので、エミーは息を吸うこともできない。

 痛みと苦しさで、集中力が途切れる。

 魔力制御がおぼつかなくなり、【黒腕】が霧散し、消え去っていく。


「なんで、拒むのか」


 ライリーンは膝立ちの姿勢でエミーの小さな体を抱きしめながら、優しく語りかける。


「私には、わかるよ」


 エミーに、頬ずりをする。


「だって、私はあなたと、同じだから」


 ライリーンは、慈愛あふれる笑顔を浮かべたまま。


「......怖いんだよね?」


 頬を赤く染める。


「人間は、弱いもんね?」


 瞳に涙をためる。


「すぐに、死んじゃうもんね?」


 エミーの意識は、朦朧としている。


「だから、親なんていらない、だよね?」


 ついにがくりと、エミーの全身から力が抜けた。


「エミーちゃんは、優しいね」


 そんなエミーの頭を、ライリーンはよしよしとなでた。


「でも、私なら大丈夫」


 動かなくなったエミーの体を、ライリーンは両腕で抱きかかえる。


「だって、私はあなたと、同じだから」


 額に優しく、口づけをする。


「これからは、ずっとずっと、一緒だよ」


 そして、ライリーンは。


「お母さんと」


 エミーを抱きかかえたまま、立ちあがり。


「幸せになろうね」




 ......歩き始めた。

 エミーの完敗です。

 ライリーンには敵いませんでした。


 アルクスは、彼がもし本気をだしていれば、良い勝負をしたと思う。

 生き物としてのスペックは圧倒的にエミーの方が上なんだけど、努力と技術と装備とでそれを上回るケースは、多々あります。


 次話から第14章後編ですが、今度こそ本当に次の投稿まで間が空きます。

 しばらくお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヤンデレってレベルじゃねえぞ!
[一言] 最近ギャグ小説家かなって思って集中できない…
[良い点] やったねエミーちゃん家族が増えるよ(白目)
感想一覧
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