25 とある男の日記①
狩りのため山を歩いていると、狼に追われている少女を見つけた。
思わず助けてしまった。
気絶したので、自分の隠れ家に運んだ。
◇ ◇ ◇
少女にケガはなかったが、かなり消耗が激しかった。
体力が回復するまでは、家においてやろうと思った。
麦粥を出してやったら、大号泣しながら食べてた。
だけど、表情は変わっていなかった。
無表情のまま大号泣するとか、ずいぶんと器用な子だな、と思った。
黒髪で黒目なのに、なんで助けた?とか聞かれた。
とっさのことだったので、理由もなにもないんだけどな......。
髪と目の色のことで迫害されて、人を信じられないのかもしれない。
オレの小さいころと同じように。
麦粥を食べ終わったその子は、なぜかオレの家の壁を剥ぎだした。
やめろって思った。
そして壁の中から白い虫みたいなのをとりだして、オレに渡そうとしてきた。
いらねぇって思った。
受け取らなかったら、その子、魔法で炙ってそれを食べだした。
正直、ちょっと引いた。
◇ ◇ ◇
エミーという名前らしいその少女は、あっという間に元気になった。
だから追い出そうと思って【威圧】をかけたけど、全然効かない。
むしろ、なんか懐かれた。
なんでだ。
でも、家の掃除をしてくれるし、まぁいっかって思った。
エミーが狩りについて行きたがったので、つれていった。
最終的にはそれなりの速さで移動したけど、エミーは息一つ切らすことなくついてきた。
正直、こんな幼い少女ができる身のこなしじゃないと思う。
なんなんだこいつ。
狩りの途中、【飛蝗】と【蟷螂】を見せてやったら、大喜びした。
職業柄、人に好意を向けられることに慣れていなかったので、なんだかすごく恥ずかしかった。
狩った鹿を処理していたら、その横でエミーはどうやら【飛蝗】の真似をしようとしているらしかった。
父の真似をして遊ぶ子どものように感じられて、微笑ましく思った。
......いや、年齢的には、祖父と孫、かな。
どちらにせよ、オレにはついぞ手に入らなかったものだ。
だけど驚くべきことに、エミーはその真似を遊びのレベルで終わらせなかった。
オレの【飛蝗】を再現し、空高く跳びあがってみせたのだ。
本当にびっくりした。
エミーもびっくりしたのか、気絶して落ちてきたので助けた。
危ないなぁ。
少し怒った。
◇ ◇ ◇
あれ以来、エミーが「弟子入りしたい」とうるさい。
そう言われても、困ってしまう。
弟子にしてくれって言われてもなぁ......。
喋るのも苦手だし。
人に教えるのとか、無理だし。
これまでも何人か技を教えてほしいって言ってやってきた連中がいたけど、そいつらも結局ものにならなかったしな。
オレの技は誰かに教わったものではない。
全部、生きるため、仕事のために自分で編み出してきた技だ。
感覚で使っているから、オレには技の説明とかできないんだよ。
それに、結局のところ、オレの技は殺すための技だ。
こんな少女に教えていいようなもんでもないと思う。
だから、エミーのお願いはずっと無視してきた。
だけど、エミーはあきらめなかった。
死にたくないから、強くなりたいから、教えてほしいと言う。
優しくて格好良いじいちゃんに教えてほしいと言う。
優しくて格好良いじいちゃん......。
正直、自分がそんなこと言われるなんて、思ってもみなかった。
生まれてから死ぬまで、ずっと一人で生きていくんだって思ってたのに。
......かなり迷ったけど、結局エミーに根負けして、弟子にしてみることにした。
でも、やっぱりオレには人に教えるとか無理なので、とりあえず技をみせて、勝手に練習させることにした。
まずは、【紙魚】を使い、壁や天井を歩いてみせた。
エミーは相変わらず無表情だったけど、凄く驚いていたと思う。
エミーはすぐに壁に足をぺたぺたとつけて、【紙魚】の練習を始めた。
......自分でやっといてなんだけど、なんでオレは壁を歩けるんだろう?
追手から逃げ切るため、無我夢中で城壁を駆けあがった。
気づいたら、なんかできてた。
それが【紙魚】だ。
寝っ転がりながら、一心不乱に壁を足でぺたぺたやるエミー。
あれで、本当に【紙魚】は習得できるんだろうか?
よくわからない。
◇ ◇ ◇
あれから1か月。
エミーは【紙魚】を完全に使いこなしていた。
びびった。
超びびった。
こいつ天才だった。
なんで壁に足をぺたぺたするだけで、壁や天井を歩けるようになるの?
今、エミーは天井にはりついて、そこで昼寝をしている。
なんでそんなことできるの?
いや、オレもできるけどさ......。
とりあえず、【紙魚】の練習はもう十分なので、次の課題を与えた。
もうこのころにはオレも、できることならこの子に、オレができる技は全て教えてやりたいと思うようになっていた。
情が沸いた。
でもそれだけじゃない。
この子の才能に魅せられた。
技だけじゃない。
鍛えられるものはなんでも鍛えてやろうと思った。
最近は、毎日エミーに毒を飲ませている。
若いころ、少しずつ毒を取り込んでいくことによって、それに耐性がつくだかなんだか、同業者に教えられたことがあった。
理屈はしらん。
でも試してみるとそれは本当だったので、今やオレの毒耐性はかなり高い。
エミーはまだ体も小さいので、本当に少しずつから始めている。
たまにエミーが毒を保管している戸棚を開けようとするので、それは【威圧】して止めている。
まだまだ、あの子に毒を直で触らせるのは危ないと思う。
毎日飲ませている甲斐もあって、はじめのうちは毒を飲んだ直後は青い顔をしていたけど、最近では割と平気そうだ。
明日から少し量を増やしてあげよう。
ちなみに、オレに毒を飲むよう勧めてきた同業者は、いつもオレが飲んでいる毒を飲ませてみたら、呆気なく死にやがった。
あいつ、なんだったんだろうな?
その同業者、多分師匠のことだまくらかして、殺そうとしてたと思うんですけど......。
それと、人死にをみて「なんで死んでんのこいつ?」程度の感想で済ますくらいには、師匠も外道な方です。
当たり前の話もしておきますが、毒を飲んで耐性をつけるという修行は、作中の皆さんが魔力の存在するファンタジー世界に住まうフィクション存在だからこそ可能になる荒業であり、現実にいる皆様が真似すると、当然のことながらすぐに死にます。
絶対に、絶対に真似しないでください。




