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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
3 山奥で謎のじいちゃんと修行編!
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24 紙魚と師匠のゲロマズ茶

 こうしてじいちゃん、もとい師匠に弟子入りした私の修行の日々が始まるのであった!

 季節は初冬!

 あんなにも色鮮やかだった木々の紅葉はすっかり茶色にしなび、地面を覆うお布団になってます。


<ちょっとエミー!集中してくださいよ!また落ちますよ!>


 うん、わかった大丈夫大丈夫。

 慎重に右足を離して、一歩進んで、またくっつけて......。




 ということで、はい、私は今、壁を歩いています。

 【紙魚】の修行中です。




 もう壁歩けんのかよ!?ってびっくりした人もいるかもしれないけど、ここは魔力のある世界!

 原理さえわかってしまえば、壁歩きはそう無理のある技でもないのです!


<いや、原理がわかっても普通の人はこんなに早く習熟しませんよ?やはりエミー、あなたには魔力操作に関わる技術に適正というか、才能がありますね>


 ふっふ~ん!なになにオマケ様!ほめても何もでないよ~?


<......そうやって調子にのっていると......>




 次の瞬間、壁にくっついて私の体を支えていた左足がその吸着力をなくし、私は床に落っこちてしまった。痛い(泣)。


<集中してくださいと、言ったでしょう?>


 オマケ様がため息をつく。

 はい、ごめんなさい......。




 この壁歩き技術、【紙魚】。

 どうやってこの忍者みたいな技が実現されているのかというと、一番大事なのは魔力で足裏を壁に“くっつける”ということだ。

 初めて師匠に【紙魚】を教えてもらったあの夜。

 壁や天井を歩く師匠の足裏に、【集水】や【凝固】と同種の魔力の流れがあることを、私の【魔力視】は捉えていた。

 つまり、足裏を壁にくっつけては離す、くっつけては離す、という魔力操作を繰り返すことで、【紙魚】は実現されていたのだ!


<ただ、言うは易し行うは難しでしたね>


 そう。

 これ、めちゃんこ難しいのよね。

 魔力操作の難易度もさることながら、重力に逆らって壁を“立って歩く”ってのは、相当難しい身体制御を求められる。

 一朝一夕で身につく技術ではないのだ。

 でも、できないことをできるようになると、凄くうれしい。

 ついつい夢中になって、修行をしていて気づいたら夜になってたなんてことはザラだ。


<何も言わず、ご飯を作ってくれる師匠には頭が上がりませんね?>


 うん、本当にね......。

 無口でほとんど何もしゃべらず、いつも怒ったような顔をしているけど、師匠は本当に優しい。

 というか、かなり私に甘い。

 そのご厚意を無駄にしないためにも、私は今日も修行に励むのです。

 そして、気づいたら寝る時間になっているのです。


 これが、修行を始めてから大体1週間経った頃の話。




◇ ◇ ◇




 それからもうちょっと時間が流れ、お外はどんどん寒くなってきた。

 師匠も狩りに行く頻度が減り、家の中で手仕事をしている時間が長くなってきた。

 まぁ、この前覗いてみたら、かなりの量の干し肉が倉庫に備蓄されていたからね。

 冬の備えは十分なんでしょう。


 そして私、ふふん!師匠からプレゼントをもらっちゃった!

 それが、今私が着ている服!

 いつも通り無言で手渡されたので詳しい説明はなかったけど、多分これ、師匠と出会ったあの日、私をおっかけていた死神狼の毛皮で作ってある。

 真っ黒な毛皮はごわごわしていて堅いけど、あったかくてかっこいい!

 ありがとうございます師匠!


 その真っ黒い毛皮衣装を身にまといながら、今私は部屋の壁やら天井やらを、カサコソと這いまわっている。

 うん、私気づいたんだ。

 2本足で壁にくっつこうとするから難しいんだって。

 だってこの技の名前、【紙魚】だよ?

 元ネタよろしく全身を使い、表面積を増やして壁にくっつけば良いじゃんって!


<元ネタ?あれ?大妖獣シミのこと、エミーに教えたことありましたっけ?>


 いや、知らない知らない......大妖獣なんて聞いたことないです......私が知っているのは前世における不快な害虫のことだけです......よく部屋の壁で遊んでたよアイツら。




 まぁ、とにかく。

 壁にくっつける表面積を増やせば魔力操作ができる面が広がり、くっつきやすくなるという私の狙いは当たっていた。

 さらに言うと、この体勢のほうが体の制御をしやすい。

 今や私はかなりのスピードで、壁や天井を這いまわることができる!

 というわけで、手作業をしている師匠の視界に入る天井の隅で、カサコソカサコソ這いまわり、できる自分をアピール!




 ......師匠は私を一瞥し、首を横に振った。




 ちゃんと二本足で立ってやらないと、だめらしい......。


 これが、修行を始めてから大体2週間経った頃の話。




◇ ◇ ◇




 そして現在!

 修行開始から大体1か月経ちました。

 今の私の状況はと言いますと、かなり自由に壁や天井を立って移動できるようになりましたー!ぱちぱち!

 今は天井でうとうとまどろみ、お昼寝をしていたところです。

 ......いやー、マジですごいな、魔法のある世界。

 たった1か月の修行で、まさかこんなにあっさりとファンタジー挙動が可能になるとは......!


<いや、エミー、簡単に言ってくれますけどね?これ多分相当難しいことやってますよ?あなたじゃなかったら、1年かかっても無理な人はいると思いますよ?>


 いやいやオマケ様、いくら何でもそれは私を褒めすぎでしょ?

 でも、うーん、正直師匠以外とまともな人付き合いというものをしたことがないから、この世界の平均的な人間がどの程度のもので、どんな能力を持っているのか、ちっともわからないんだよなー......。

 ただ、はっきりしているのは、例えばもし師匠レベルの人が本気になって私を殺そうとした場合、私は逃げることもできず3秒も経たずに殺されるということだ。

 私はまだまだ弱い。

 ってか師匠にはまだ【蟷螂】とか、戦闘に使えそうな技術教わってないし......。


<あの人、相当な規格外ですよ。基準にして考えちゃだめです......>




 うん?そんなこんなオマケ様とおしゃべりしていると、師匠が部屋に入ってきた。

 その手にはぽかぽかと暖かな湯気を上げるカップを二つ持っている。

 お茶を淹れてきてくれたらしい。




 ......そう、恐れ多いことに、師匠はご飯をつくるだけじゃなく、私にお茶まで淹れてくれる。

 さすがにそれはまずいって!

 いくら私が6歳児で幼いとはいえ、お茶くみまで師匠にやらせるわけにいかないって!

 そう思って自分でやろうとしたんだけど、師匠は頑としてお茶くみ係を譲らない。

 それどころか、お茶っ葉が入っている棚を勝手に開けていれようとしたら、激しく【威圧】を放たれた。

 ちびるかと思った。

 ......お茶を淹れるのが趣味なのかな?

 でもその割に師匠の淹れるお茶はまずいんだよねぇ......。

 苦くて苦くて、飲んだ後は吐き気がするほどのゲロマズ茶なんだよなぁ。

 さすがに淹れてもらっている身分で文句も言えないので、黙って飲むけど。




 とりあえず、師匠を待たせるわけにはいかないので、天井からくるくる回転しつつ床に降りる。

 そして見事着地!

 かっこいいでしょ?


<はじめのうちは失敗して何度も頭から落ちてましたけどね。なんで余計に回転するんですか?>


 いいじゃん!

 【身体強化】があるからケガはしないんだし!

 こういうアクロバットはロマンなんだよー!

 まぁ、こういう無駄な動き?の練習は、代わり映えしない修行の日々における、一つの気晴らしであったりもする。




 とことこ師匠に近づき、向き合って床に座り一緒にお茶を飲む。

 うん、今日も師匠のお茶はまずい。

 でも臭みはないから、ハダカマズイネズミよりはましだ。


「............具合は悪くないか」


 珍しく、師匠が話しかけてきた。

 うん、お茶がまず過ぎて正直良くはないけど、これでもはじめのころに比べたら大分慣れたし。

 問題はないよ。

 頷いて返答とする。




 そのまま二人で黙ってお茶を飲み続ける。

 室内で火を焚いているとはいえ、隙間風のうるさいおんぼろ家屋だ。

 冷えた体に暖かいお茶が染み渡る。

 私がカップを空にしたのを見計らい、師匠が再び言葉を発した。


「............【紙魚】、よくできている」




 ......え!?いきなりのお褒めの言葉!?ありがとうございます!?




「............次だ」


 師匠はそういうと、突然のことに驚いている私に背を向け、【紙魚】を使って壁を登り、上下さかさまの状態で天井に立った。

 そしてそのままひざをまげ、勢いをつけて床に向かって飛び跳ねる!

 ちょ、師匠!?

 頭から床に突っ込む気ですか!?


 しかし、そんな私の心配とは裏腹に、師匠はくるりと身をひるがえすと、きれいに床に着地した。

 それはもう、見事に。

 あんなに勢いつけて落ちてきたはずなのに、歩くとミシミシ音が鳴る部屋の床には、穴があくどころか傷一つついていない。


 というか。


 音がしなかった。


 まるで鳥の羽がふわりと舞い落ちたかのように。


 一切の衝撃を発生させることなく。


 師匠は、床に降り立っていた。




「......これかできたら、【飛蝗】を練習しても、良い」


 それだけ言って、師匠は再び部屋から出ていった。




 急なことに呆然とする私。

 小屋の外から、師匠が薪を割る音が響く。




 とりあえず、私。


 新たな課題を出されたらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ノリが完全にカンフー映画の修行になって来ました(≧∀≦)これはなろうファンタジーでも異色では? このままエミーさんは武闘家になって行くのか、苦茶にひるまぬオマケさまの味覚はどれだけ幅があるの…
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