22 エミーの才能の片鱗
私が謎じいちゃんの家に来てから、3日がたちました。
今では体力・気力・魔力ともにいつも以上に充実し、おかげさまで元気いっぱいです!
じいちゃんはどこぞの誰とも知れぬ私に寝床と一日2食の食事を与えてくれた。
ほんとこの人優しい。
とりあえず今のところ「出ていけ」も何も言わないので、私は図々しくもその優しさに甘えてご厄介になっています。
じいちゃん、はじめのうちは【威圧】をまき散らかしてたけど、あれはきっと慣れない人付き合いに緊張してたとか、そういうことだと思う。
お世話になってばかりじゃ悪いので、今ではおうちの掃除は私の仕事だ。
はき掃除もふき掃除もしっかりやって、もともと整理はされていたけど古ぼけてきていたこのおうちも、多分十年は若返ったね!
えへへ、ピカピカにできて結構満足。
ただ、奥の部屋の戸棚とか、私が近づくだけでじいちゃんが強烈に【威圧】してくる箇所があって、そこについては手を付けていない。
うんうん、男の人には、たとえ子どもであっても女性に見せたくないものって、あるよね!
わかるわかる。
なのでそこはノータッチです。
おうちの掃除ばかりしていても暇なのでお外もちょくちょく探索しているけど、どうやらここは私が迷い込んだ山奥のどこかに建てられた一軒家みたい。
まわりに人の気配が全くない。
こんな場所に隠れるように住んでいるじいちゃん......その正体は謎のままだ。
以前に自己紹介しようとした時も......。
「......私、エミー」
「............(じいちゃん、しばらく後にかすかに頷く)」
「............(私もそれにつられて、頷く)」
はい、これで会話終了。
......まぁ、こんな感じで。
なんかもともと無口な上に自分のことは決して口にしようとしないんだよね。
名前すら教えてくれない。
なんでだろ?
<こんな山奥で隠匿生活しているわけですし......もしかしたら、後ろ暗い過去のある方なのかもしれませんね>
えぇーーっ!?
そうかなぁ?
こんなに優しいじいちゃんが指名手配犯......みたいな?まさかまさか!
黒髪黒目で迫害されてきたから、世間を嫌って山奥で暮らしているとか、そんな感じじゃない?
いや、まぁ、じいちゃんの過去は別にいいよ。
この人は私を助けてくれた優しい人。
私にとってそれ以上に重要な事実はないのだから。
じいちゃんは毎日日の出前には目を覚まし、外で武術......なのかな?なんかの型を一通りやってから朝ご飯を食べて、狩りに出かける。
んでもって、昼前には大きな鹿やら猪やらを担いで持ってきて、それの処理をしたり何かしらの手仕事をしたりしてから、夜ご飯を食べて、早めに寝る。
そんな感じの生活をしている。
驚くことに、じいちゃんは狩りに出かけるとき、いつも手ぶらで外に出ていく。
確かにこの人、初対面の時には手刀で狼の首をはねとばしてたからね。
あの技術があれば、確かに武器なんか不要かもしれない。
あの技、教えてもらえないかな......?
じいちゃんが優しいので、調子に乗った私は今、そんなことを考えている。
私には、今世を生き抜くための強さが、あまりにも足りていない。
それは盗賊に拠点を奪われた時も、村の滅亡をこの目で見た時も、死神狼に追いかけられていた時も私に叩きつけられたはっきりとした事実だ。
私は強くならなければいけない。
気づかないうちに終了していた前世にほとんど頓着しなかった私が、今世にはもの凄く執着している。死にたくない。
それはオマケ様が一緒にいてくれるからでもあるし、実際にリアルな死というものを見せつけられてきたからでもあるのだと思う。
さてさて!
まぁ、そういうわけで!
今日は私、じいちゃんの狩りに同行してみたいと思いまーす!
この目にじいちゃんの技を焼き付け、己の血肉とするのだ!
「............」
じいちゃんは山についていこうとする私をとどめ、家にいるようにハンドジェスチャーで指示をする。
「............」
首を横に振り、まっすぐにじいちゃんを見つめる私。
「............」
同じく首を横に振り、まっすぐに私を見つめるじいちゃん。
「「............」」
しばらく続く、沈黙の時間。
そしてじいちゃんはため息を一つつき、山に向かって歩き出した。
やった!同行の許可がおりたぞ!
<えぇっ!?許可されたんですか!?今ので!?>
うん、間違いないね。
たった3日とはいえ、もはや私とじいちゃんの心は通じ合っている!
だからわかる!
<ちゃんと言葉を使って会話してくださいよ!>
◇ ◇ ◇
じいちゃんは急な斜面、悪い足場をものともせず、軽々と山道を進んでいく。
かなり早いペースだ。
たまに私を振り返り、ついてきていることを確認しては、徐々にスピードをあげていく。
現時点でも相当のスピードで進んでいると思うけど、多分これ私を気遣って、これでもいつもに比べるとゆっくり動いているんだろうなぁと思う。
「............」
ん?なんだろう。
じいちゃんがまた立ち止まり、私をじっと見つめる。
なんだなんだ?休憩ってわけじゃないと思うけど......?
「............」
私もじいちゃんをじっと見つめる。
......ふと、じいちゃんからいつもの殺気とか威圧感とかが消えていることに気づく。
あっ、これ......!
【魔力視】発動!
<【気配遮断】していますね。見事に魔力漏れが抑えられています>
そっか、今は狩りの途中だもんね!
私も急いで【気配遮断】を行う。
じいちゃんはそれを見て頷き、再び歩き出した。
けっこうなペースでの移動であり、【身体強化】を併用しつつの【気配遮断】なんだけど、これがなかなか難しい!
<今までは【身体強化】と【気配遮断】の併用って、あまりやってこなかったですからねぇ>
でも、魔力漏れしていた分を【身体強化】にまわせるので、疲れはするけどこの方法は大変に魔力運用上の効率がよろしい。
普段から練習もかねて、常時【身体強化】をかけて生活するようにはしてきたけど、今度からはそれに【気配遮断】も加えたほうが良いかもしれないね。
◇ ◇ ◇
そこからさらに1時間ほど山を進んだところで、じいちゃんが前を向いたまま私の顔の前に手をかざし、止まるように指示を出した。
じいちゃんが屈むので私もそれに倣い、じいちゃんの目線の先を伺う。
50mほど先だろうか、ごつごつした岩肌の上に、立派な角をもった黄色い鹿が仁王立ちしている。
<あれはエレキディアです!角の先から雷の魔法を放つ、危険な魔物です!>
えぇ!?あの鹿、魔法使うの!?
緊張する私に、このままじっとしているように指示を出したじいちゃんは、ゆっくりと鹿に向かって歩き出した。
現在、鹿とじいちゃんの距離は30mほど。
鹿の角からはパチパチと雷光がほとばしり、いつでも攻撃できる態勢のようだ。
やる気満々。
あの鹿には、逃げる気なんてさらさらないらしい。
<あの人を逆に狩り殺し、食べてしまう気なのでしょう。あれは肉食の獰猛な鹿ですからね......!>
肉食の獰猛な鹿!?
鹿なのに肉食なのあの生物!?
今更ながら異世界怖いよ!!!
鹿がじいちゃんにますます激しく雷光が発せられる角を向け、魔法を放とうとした、その時。
......じいちゃんの、姿が消えた。
間違いなく、鹿にはそう見えていただろう。
突然の事態に驚き、固まる鹿。
遠くから様子を窺っていた私の目は、その時何が起きたかをはっきりととらえていた。
じいちゃんは高く、空高く、一瞬で跳びあがり、鹿の視界からその姿を消したのだ!
そしてそのまま上空から鹿にめがけて突っ込む!
あの、狼の首をはねた手刀を一閃!
......あっけなく首をはね飛ばされた鹿は、血をまき散らしながら音をたてて倒れた。
しばらく発光しながらパチパチと鳴っていた角も、しだいにその輝きを失い、沈黙した。
......す、すげぇぇーーーーーーーーーっ!!
じいちゃんすげぇぇーーーーーーーーーっ!!
<......改めて、確認できました。この方は、間違いなく何らかの武術の達人です。それこそ、今まで視てきた異世界転生配信に登場した英雄とよばれる方々と比べても、遜色ないほどの。まさか、これほどの方だとは......!>
私は目を輝かせながら(自分ではそのつもり。でも多分表情は変わっていない)、じいちゃんに駆け寄る。
「............すごい」
「............」
じいちゃんは人差し指で頬をかいた。照れてる。
「さっきの、なに?」
「............【飛蝗】、そして【蟷螂】」
おぉ!技の名前も教えてくれた!
察するに、高く飛び跳ねた技がバッタで、手刀がカマキリかな?
ってかこの世界にもバッタとカマキリは存在しているんだ?
<はい。バッタは全てを食いつくす暴食の魔獣。カマキリはその腕で切り裂けぬ物がないと言われる凶暴な幻獣です。どちらも伝説上の存在とされていますね>
伝説上の存在!?
前世との乖離が激しい!!
いや、そんなことよりもだ。技としての【飛蝗】と【蟷螂】ですよ!凄かったねオマケ様!
<えぇ、鍛え上げられた肉体、体捌き、そして魔力操作があの技を成立させているのです。見事なものでした>
かっこよかったなぁ!私にも真似できないかな!?
<真似、程度ならできるかもしれませんねぇ。すぐに実用に足るものにはできないでしょうが>
実はさっきの戦い、私は真剣に見入るあまり無意識のうちに【魔力視】も発動していた。
だから、興味深い現象が起きていたことに気づいていたのだ。
まず、じいちゃんが高く跳びあがったあれ。
あれは、【身体強化】で高めた身体能力で跳びあがったことは間違いないが、多分じいちゃんの【飛蝗】を再現するには、それだけでは不十分だ。
じいちゃんが跳びあがる直前、じいちゃんの足から地面に向かって魔力が流されていたのを、私は見逃さなかった。
あの流れは、まるで私が【集水】を使って空気中から飲み水を作り出すときのような動きだった。
<......。さ、さすがですね、エミー。鋭いです。私にもそのように見えました。【集水】は空気中に漂う水を“集めて結び付けて固める”魔法です。それに似た魔力の動きがあったということは......>
じいちゃんは跳びあがる直前、地面を“集めて結び付けて固める”魔法を使った?
<“集めて”はいないかもしれません。しかし間違いなく“結び付けて固めて”はいたでしょう。【凝固】とでも名付けましょうか......。一種の土魔法を使って、丈夫な足場を作ったわけですね。それも一瞬で>
地面に魔力を流し、固める......。
試しにやってみるとこれ、【集水】よりもかなり難しい。
なんかこう......地面から抵抗みたいなものを感じる。
むむむ......とうなりながら試行錯誤を重ね、ゆっくりと地面を【凝固】していく私を、じいちゃんは鹿の処理をしながら興味深そうに眺めている。
しばらく頑張ってから私が立っていた地面を小石で叩くと、ただの土であったはずのそこからはカンカンという硬質な音がした。
そして、だ。
私が思うに、さっきの【飛蝗】、再現のためのポイントはもう一つある!
<えっ?>
ふっふっふ!オマケ様、気づかなかった?
じいちゃんが跳びあがる、ほんとにほんとにその一瞬のことなんだけどね?
【凝固】とは違う......どちらかといえば、その反対の動きをする魔力の流れが、じいちゃんの足元で発生していたんだ!
<は、反対の動き?>
そう、“結び付ける”の反対!
“引き離す”魔力が、あの時間違いなく発生していた!
......あぁ、そっか。
“引力”と“斥力”だね。前世の学校でこんな単語を習った気がするよ。
<エミー......あなたには、それが視えた、と......?>
うん!でもどうやってやるのかな?
【集水】や【凝固】の、反対の動き......?
地面が、私の足を、押し出す......弾き飛ばす......?
そんなイメージで......。
斥力の発生......。
それと、【身体強化】による跳躍のタイミングをあわせて......。
その時、私を眺めていたじいちゃんの顔つきが、いつも以上に険しいものに変わったことに、私は気づかなかった。
気づかずに、自己流の見様見真似【飛蝗】を、発動してしまった。
ビュンッ!!
私の想定を超えたスピードで、想定を超えた高さまで跳びあがる、私の体。
足元で驚き慌てるじいちゃんが、どんどん小さくなる。
視線を変えると、遠くの山々、大きな湖、青々とした森や草原......どこまでも続く美しい風景が眼下に広がっている。
凄い!これは凄い!
時間がかかったとはいえ、これは【飛蝗】の再現に成功したと言っても問題ないのでは!?
<あ......でも、エミー......>
?どうしたの?オマケ様。
私の体の上昇が止まり、徐々に落下が始まる。
<これ......どうやって、着地します?この高さから落ちたら、【身体強化】を使用しても、かなりのダメージは免れないのでは......?>
........................あ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
情けないことに、私は落下しながら気絶して意識を失っており、目が覚めるとそこはじいちゃんの家の布団の中だった。
どうやらじいちゃんが私をなんとか受けとめてくれたらしい。
目覚めた私を睨みつけるじいちゃんの瞳には、かなりの怒りが込められていた。
ご、ご、ごめんなさいぃぃぃ......!!




