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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
12 ザマーゴの森開拓編!
208/716

208 普通の冒険者は普通ではない少女を見る

 普通では、ない。




 それが、“普通”の1級冒険者であるユージュが、新たに入室してきた少女に抱いた印象だ。


 発する威圧感が、普通ではない。

 感じとれる、その小さな体に満ち満ちる魔力量が、普通ではない。

 そしておもむろにかぶっていたフードをとることで晒されたその美貌が、普通ではない。


 とにかく、普通ではない。


 これまでの冒険者人生において、ユージュが『普通ではない』と感じた相手は、大抵がやばい奴だ。

 例えば、長く生きた凶暴な山の主であるとか、指名手配中の大量殺人犯であるとか。


 だから、ユージュはその黒髪黒目の少女に対して、咄嗟に退避行動をとろうとした。

 瞬時に、これからの動きをシュミレートする。


 まず、タイチェの座る椅子を思いきり引き、彼女を床を滑らせるように椅子ごと窓際へと移動させて逃がす。

 次いで、机を蹴り上げ、その勢いのまま自分も一回転しつつ、後方へと退避。

 着地と同時に両腕に装備した魔道具の腕輪を起動し、瞬時に扇形の盾を形成。

 蹴り飛ばした机が落下し、バリケードとなったその時には、いつでも抜剣できるよう体勢を整える......。




 だが、しかし。

 ユージュはこの退避行動をとることは、なかった。

 いや、できなかったと言うべきか。


 何故なら、このシュミレートをしながら、無意識に剣の柄へと手を滑らせる、その動き。

 1秒にも満たない、ごく短い時間の中で行われたその瞬間的な動きを。

 その少女は、その黒い瞳で、無表情に、つまらなそうに、しかし決して目を離すことなく、見つめ続けていたからだ。


 それだけで、ユージュは悟ってしまった。

 これには、勝てないと。


 これから、ユージュがどのような退避行動をとろうと。

 あの普通じゃない少女は、その一つ一つに。

 好きなように差しこみ、それを潰すことができるのだと。


 隔絶した実力差を、理解した。




 で、ある以上は。

 抵抗は無駄であるので。




 ユージュは、本能的危機感で高揚したその精神を、意思の力で瞬時に“普通”に戻す。

 のほほんと、笑みを浮かべる。

 彼女は、端的に言えば、目の前の普通ではない少女への対処を、諦めた。

 しかし裏を返せば、それ以外の脅威には普通に対処できるよう、平常心を取り戻し気持ちを切り替えた。

 これが、ユージュが普通に優秀な1級冒険者である所以である。


「......さすがですね。これに、全く、動じないとは」


 少女の【威圧】を受け、青い顔をしながら引きつった笑みを見せる特務事務官は、そんなユージュの様子を見て、彼女はこの【威圧】にも全く動じていないのだと勘違いした。

 その勘違いは......正す必要はあるまいと、ユージュは判断した。

 そうすれば、箔が付く。


「いやあ、普通ですよ、普通!」


 だからそんな適当な返答をしながら、ユージュはのほほんとしていた。


 が、しかし。

 そんな風に、無理やりのほほんとしていたユージュだが、次に起こった出来事を見て、さすがに驚いた。

 何が起きたのかと言えば。


 ユージュが対処を諦めた、その普通ではない少女の頭を。

 悪人顔ではあるが、どう見ても普通の一般人であるジョンとかいう男が。

 何ら恐れることなく、コツンと小突いたのだ。




◇ ◇ ◇




「この、たわけがっ!!」


 おっさんが頭をコツンと小突きながら、私を叱る。


「だって」


「『だって』ではない!お前さんのその【威圧】は心臓に悪いから、極力人に向けるなと言っとろうが!あの人たちはどう見てもお客さんだろうに、どうしてそう、すぐに喧嘩腰になる!?」


「でも」


「『でも』じゃない!」




 さて、わたくしエミーちゃん、現在ジョバンノのおっさんにガミガミと叱られております。

 というのもさ、変態ジジイに呼ばれて会議室まで来てみればさ、知らないお姉さんが二人いるんだもん。

 誰か知らないけど、とりあえずなめられるわけにはいかないじゃん?

 だから、ひとまず【威圧】したんだよ。

 それが、おっさん的にはあまりよろしくなかったみたい。


 でも、昔のことを思い返してみれば、師匠も割かし【威圧】をまき散らかしていたよね。

 どっちが上かはっきりさせとくのは、人間関係を構築するうえで、とっても大切なことだと思うんだけどな?


<おお......無口で、初めの内は人と喋ることすら一苦労だったエミーが、人間関係を語っている!成長しましたね、エミー......!>


 えへへ、私だっていつまでも、子どもじゃないんだよオマケ様!


「おい、聞いとるのかエミー!」


 もう、おっさんうるさいなぁ。

 むかつく。

 ぷいっと横を向く。


 しかしおっさんに、すぐさまその首をくいっとひねられ、強制的に前を向かされる。


「ほれ、見てみろタイチェ殿の顔を!あんなに真っ青にさせて、申し訳ないとは思わんか?」


 タイチェ?


<多分、机の向かいに座っている、地味な顔の女ですね>


 ああ、うん、確かに顔色は悪い......。

 でも......。


「笑ってるよ?」


「顔が引きつっているだろう......」


 おっさんは片手で額をおさえ、ため息をついた。


 うん、でも、確かに。

 私の【威圧】のせいで具合が悪くなったのなら、それは申し訳ないかな。


「だけど、後ろのお姉さん、大丈夫そうだよ?」


 私は、そのタイチェとか言う人の後ろに立ってのほほんと笑っている、帯剣したお姉さんを指さして口を尖らせる。


「ユージュ殿は、1級冒険者だ。【威圧】には慣れているんだろうさ。だが、そうじゃない人も、いる。誰彼構わず喧嘩を売っていたら、余計な軋轢が生まれるばかりだ。少しは考えて行動しなさい」


「......わかった。ごめんなさい」


 まあ、おっさんの言いたいこともわかるよ。

 ここは私が謝って、この場をおさめるさ。

 私は精神年齢的には、十分に大人だからね!


<偉いですよ、エミー!>


 ふふん、知ってた!




「ええと......大丈夫かの、タイチェッ?」


 変態ジジイが、気遣いながらそのタイチェさんの肩をポンポンと叩いた。

 タイチェさんは、ハンカチで一度額をふくと、コホンと一つ咳払い。

 そうしてからもう一度作り直した笑顔を浮かべて立ち上がり、腰をかがめて私に目線をあわせた。


「失礼いたしました。あなたが、エミーさん、ですね?」


「......?そうだけど?」


 なんで私の名前知ってんだこいつ。

 おっさんたちが教えた?


「タイチェ、この子はのッ?この拠点を作るにあたっての、最大の功労者なんじゃッ!今のでなんとなくわかったろうが、滅茶苦茶強い子じゃぞいッ!タイチェにも紹介しようと思って、あらかじめ呼んでおいたわけじゃが、どうやらタイミングも良かったらしいのッ!」


 私を紹介?

 なんで?

 ってか、この人、一体誰なんだろう?


 首を傾げている私に気づき、その地味な顔のタイチェさんは、私に向かって口を開いた。


「こんにちは。私は冒険者ギルドの本部で働いている、タイチェと言います。エミーさん、少しお話させていただいて良いですか?」


 そして、そんなことを言ったのだ。




◇ ◇ ◇




 さて、その後。

 これからは、私の個人的な話だということなので、そこそこ金髪とパシリビビリ汚れボサボサは退室していった。

 私は今、机をはさんでそのタイチェとかいう人と向かいあって座っている。

 話し合いの前に部屋に来た酒臭女に出された酢ヅタ水は、秒で飲み干した。


「では、本題に入る前に、いくつかの質問を行いますが......エミーさん、あなたはヨシャンカという町に、行ったことはありますか?」


 ヨシャンカ?


<ああ、ほら、カイセの森のそばにあった、石造りの町ですよ。風の強い>


 ああ、思い出した。

 そう言えばそんな町にも、寄ったことがある気がする。


「ある」


「では、そこで誰か、あなたと付き合いのあった人間はいますか?」


「カマッセ」


「なるほど」


 ん?ん?ん?

 何だこれ?

 取り調べ?


 あ、もしかして......カマッセ、何か悪いことでもしたの!?


「カマッセ、良いやつだよ?」


「ええ、良く存じております。彼は能力面でも人格面でも信頼のおける、新進気鋭の2級冒険者ですから」


 え、2級?


<前会った時は、確か4級でしたね?>


 そっか、マジか~!

 カマッセ、昇格してんじゃん!

 あいつも頑張ってんだなぁ~!

 人のことなのに、私まで嬉しくなるね!


「話を戻しますね。あなたはヨシャンカの冒険者ギルド出張所を訪れた際、そこの受付嬢に何を渡しましたか?」


 ......少し、考える。

 そんな昔のこと、憶えてないよ?

 なんでそんなこと聞くの、この人?


<ああ、確か推薦状ですよ!男爵の!>


「推薦状」


「どなたからのですか?」


「マーツ・サラー男爵」


「結構です。わたくし特務事務官タイチェは、あなたをエミーさんご本人であると、確認いたしました」


 そう言うと、タイチェさんはおもむろに立ち上がり......私に向かって腰を曲げ頭を下げた。




 ん?

 んんん!?

 何!?何!?何これ!?

 わけがわからず、思わず隣に座るおっさんの顔を見る。


「いや、私に助けを求められても困る。私にも話が見えん」


 困惑する私たちに対して、タイチェさんは良く通る声で、頭を下げたまま言った。


「エミーさん、わたくし共冒険者ギルドは、あなた様に対し、謝罪申し上げます!本当に、申し訳ございませんでしたッ!」




 ............はい?




 わけがわからず、思わず隣に座るおっさんの顔を見る。


「いや、だから、私にもわからんて。一体何の話なんだ?」


 私たちは二人で首をひねった。

 その様子を見て、顔をあげたタイチェさんは苦笑いする。


「......まさか、そこまで心当たりがなさそうな顔をされるとは、さすがに想定しておりませんでした。最初から順を追ってご説明いたしますね」


 そう言ってから、再び椅子に腰かけるタイチェさん。


「実は......」


 そして、おもむろに口を開いた......その時だった!




 ドォン!!

 ドン、ドドン!!

 ドォォーーーン!!




 立て続けに鳴り響く轟音とそれに伴う振動が、私たちを襲ったのは!!

 まだまだ長く続きそうな交渉パートを、無理やりぶった切る謎の轟音!

 長かった12章もようやく佳境です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シュミレートではなくシミュレートだと思います!
[一言] 秒で次話を用意してね
[良い点] 我が道を行くエミーさんと、そんなエミーさんの情操教育をしようと頑張っているジョバンノのオッさん(^◇^;)あったかい心映えにポカポカするんじゃー♪ カマッセ頑張ってんだなあ、いつかどこか…
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