20 しつこい狼としぶとい浮浪児による生死をかけた鬼ごっこ。そして現れる謎の老人!
オマケの転生者、第3章が始まりますよ。
続きますよ。
続きますとも。
秋!
そこら中にごつごつした大きな岩が転がる山肌からまばらに生える木々の葉も、赤く色づく今日この頃!
冷たい空気を切り裂くように!風のように落ち葉を舞い上がらせながら!私は走っています!そりゃもう全速力で!
何故なら!
「ギャオォォッ!!」
「......よっ......とォ!」
雄たけびをあげながら私にとびかかる狼から振り下ろされる鋭い爪をしゃがんで華麗に回避!
うん、華麗にとか自分で言っちゃう!
そのまま直角に方向転換して、逃走継続!
そう!
私は今、このしつこい“死神狼”という魔物から、絶賛逃走中なんだ!
こいつは「まるで死神のようにしつこく、決して狙った獲物を逃さない」様からそう名付けられた、超粘着質な狼の魔物なの!ストーカー野郎なの!
私も今日にいたるまでいろんな魔物に襲われては逃げてきたけど、しつこさで言えばこいつが一番だよ!
もうかれこれ、3時間は追いかけっこ続けているかな!?
3時間だよ3時間!
そんな長時間にもわたり私を追いかけるこのストーカー狼の根性は異常!
でも逃げ続ける私のバイタリティもなかなかのもんだと思うの!
世界一しぶとい6歳児だと思うの!
あ、こんな時になんですが、私先日6歳になりまして。
白い虫集めて固めた土台の上に赤い虫をのっけて作った(遠目からみると)ケーキ(みたいな物体)で、オマケ様と一緒にお祝いしました。わーい!
故郷の村(というか森)を出てから早数か月......。
『え?お前まだ放浪してんの?村とか町に入らなかったの?』って思われるかもしれないけど、入らなかったのではなく入れなかったというのが正しい。
ナソの森というオマケ様いわく<これ以上ないほど安全な拠点>を失った今、どこかの村や町に住むことができるなら、それに越したことはないんだもの。
私だってそうしたかった。
でもできなかった。
というのも、ゴミクズ村が滅んだことはけっこう近隣町村に衝撃を与えていたらしく、自治体(?)の警戒レベルが上がっており、身分証も持たない怪しい浮浪児を簡単には受け入れてくれなかった、というのが理由その1。
そして何より、私が考えていた以上に黒髪黒目を持つ“呪い子”差別が激しいものだったというのが理由その2です。
まさか村の門番が話も聞かずに槍で追い立ててくる所があるとは思わなかったぜ!
ゴミクズ村の連中が田舎者すぎて異質なモノに拒否反応を示しているだけだと思っていたこの黒髪黒目差別だけど、どうやらそう簡単な話ではなさそう。
この問題の根は深い。
オマケ様も<異世界転生配信で視ていない>から差別の理由はわからないみたい。
一体なんでこんなことになっているんだか?
まぁ、そんなこんなであてどなくさまよっていた私が、このしつこいストーカー狼に草原で目をつけられたのが3時間前。
そこから川を越え、森を抜け、ずぅーーーーーーーーーっと捕まったら死ぬ鬼ごっこを続けてきた私は今、どっかの山を走っています。
マジでどこなんだよここは!!
「ギャオォォッ!!」
「......ほい......さっとォ!」
もう何十回目になるかわからない、死神狼くんの攻撃をかわす。
こいつはアホなので、襲いかかる前に必ず叫ぶ。
それがわかってからは、その爪を避けるのは容易いことだった。
狩りが下手くそすぎでしょ。
きっと死神狼くんたちは、こんなにも狩りが下手くそなので、『じゃあ、獲物がへばるまで追いかけることができる体力があればいいんじゃね?』って方向に進化していったんだと思う。
いや、狩りを上達させろよ。
とりあえず対処はさっきまでと一緒だ。
爪をしゃがんで避けたあとは方向を変えて走り出し、隙ができた狼から距離を離す!
って、あ......。
<あぁっ!エミー!>
思わずオマケ様も悲鳴をあげる。
そう、私は忘れていた。
死神狼に追いかけられ続け、いつのまにやらここはどっかの山の中腹。
岩場が続く足元は不安定で、でこぼこ。
私は、地面から飛び出した岩に足をひっかけ、転んでしまったのだ。ごろごろ。
いまだ靴という文明の利器を入手していない私だけど、思いっきり素足を岩にぶつけてしまったことに関しては、大丈夫。
最近また精度と強度が高まってきた【身体強化】のおかげで、そんなことでは私の体、傷一つつかない。
だけど......。
体を起こす。
すぐそばににじり寄ってきていた狼くんと目が合う。
漆黒の毛並みに、赤く光る瞳が映える。
臭い臭いよだれを垂れ流しながら、舌なめずりずるその様は、まさに邪悪な死神そのもの。
だがしかし、なめるなよストーカー狼!
ここは岩場!いわば、私のメインウェポンの宝庫なのだ!
転がる小石を拾いあげ、即座に【投石】、【投石】、【投石】、【投石】、【投石】ィィィーーーッ!!
狼に降り注ぐ石礫の雨あられ。
だけどこいつ、小石が当たっても少し煩わしそうな顔をするだけで、まったく痛そうなそぶりを見せない。
あ、これやばいわ。
あのもじゃもじゃ盗賊頭ゴミ男と一緒だわ。
この狼、【身体強化】のおかげで、私の【投石】効いてないわ。
ありゃー、マジで打つ手なしなんじゃね?これ。
<何をのんきにしてるんですかっ!早くまた逃げないと......!>
うん、そうなんだけどね。
そうなんだけど......まずいわこれ。
もう体力魔力ともに限界です。
足が震えて動かない。
それを自覚した瞬間、襲い来るは死の恐怖。
この体の震えは、疲労によるものだけではないのだと、今更気づく。
思い起こされるのは、魔物達に蹂躙され、滅んでいったゴミクズ村。
無造作に食い散らかされ、転がっていた村人たちの屍。
私は弱っちいばっかりに、彼らと同じようにこのまま死んでいくのだろうか。
「ギャオォォッ!!」
死神狼が飛びかかってくる。
避けることは、できそうにない。
なんだか、時間がゆっくりに感じる。
頭の中に、次々と今世の思い出が蘇る。
これが走馬灯ってやつか。
幼い私を殴りつける父親。
イケメン行商人にくっついて私を捨てていった母親。
私の手が届かないところで楽しそうに遊ぶ、トーチくんをはじめとする村の子どもたち。
石を投げて私を村から追いだした村の大人たち。
私の拠点を奪い去った盗賊たち......。
......ろくな思い出がねェェーーーーーーッ!!!
死んでたまるか!
こんなところで死んでたまるかよォォーーーーーーーッ!!!
私は必ず生き延びて、オマケ様と一緒においしいごちそうを食べるんだァァーーーーーーーッ!!!
しかし無情!
私にはこの致死の爪を避けるための手立てがない!
刻一刻と私の首元を狙い、近づいてくる死神の爪。
嫌だ。
死にたくない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だッ!!!
全く動かない体とは裏腹に超高速で回転しまくる私の思考は。
次の瞬間、真っ白になった。
あ、死んじゃったわけじゃないよ。
あまりに唐突な展開に、ついていけなかっただけだよ。
でも何が起こったのかは、はっきりとこの目に焼き付いている。
私を狙って飛びかかる死神狼に対して。
横から奇襲をしかけてきた人物がいた。
手刀を、一閃。
それだけで、私の【投石】をものともしないほど硬かったあの魔物の首が、胴体と切り離され、どこかに飛んでいった。
胴体は襲いかかってきた勢いのまま、私にぶつかる。
狼の血にまみれながら、ごろごろと転がる私。
何が何やらわからないまま、顔をあげ、私を助けてくれた人を見上げる。
比較的細身ながら、鍛え上げていることがよくわかる筋肉が服からのぞく。
顔を含めその体中には、いくつもの古傷が見受けられる。
精悍な顔つきには深い皺が刻まれ、うねる白髪を後ろになでつけるように流している。
そして、睨みつけるだけで人を殺せそうなほどの、鋭い眼光。
そんな“我こそ凄みの体現者”みたいな、それはもう凄まじい迫力の老人が、そこに立っていた。
その体からあふれ出る、魔力。
そして、殺気。
その殺気にあてられ。
老人と目が合った次の瞬間には。
私は意識を失っていた。
多分第3章の終わりまでは毎日投稿するので、よろしくお願いしますね。




