2 魂が臭いって言われた
異世界転生用魂オークション......!?
「ではではァッ!早速1コン目の魂の紹介だッ!」
司会のシルクハットがそう叫ぶと、スタイルの良い黒スーツの女の人(この人も顔が白い靄で覆われて認識できない)が、私の近くに置かれていた魂をステージ上に持って行った。
「魂のプロフィール、ご紹介させていただきましョーゥ!」
シルクハットが魂にかぶせられたプラケースを外し、手元の資料を読み上げる。
「名前は、鈴堂 翔太、17歳男性!サッカー部のエースでクラスの男子たちの中心的存在!運動能力、リーダーシップが高く前向きで明るい、まさに主人公向けの魂材といえるでしょうッ!」
あ、あの魂は鈴堂くんか。
確かにシルクハットのいう通り、鈴堂くんはクラスのみんなにとってはリーダー的存在で、人気者だった。
まぁ、私には関係なかったけど。
「おぉ、なんともカタチの良い魂じゃのう。それにすっきりとした香りも良いのぉ」
「すばらしい魂質!ぜひとも欲しい......」
「ちょっと、ワタクシが求めているものとは違いますわね......でも美しい色合いね!」
客席の神々がざわざわ好き勝手に鈴堂くんの魂を評論する。
......そう、鈴堂くんの魂は、魂なんてものを見慣れない私から見ても、キレイな色をしていた。
なんかこう情熱的な赤色......キレイな炎の色みたいな?そんな魂だった。
それに対して私はというと......。
えっと......。
うん......。
「さァさ!さっそく入札のほう、始めてまいりますよォ!この上質な魂、”鈴堂 翔太”!最低落札価格10,000マナからのスタートですッ!」
「20,000!」
「25,000!」
「53,000!」
どんどん鈴堂くんの魂の価格が競り上がっていく。どうやら、通貨?は“マナ”というものらしい。
「108,000!現在108,000マナ!他にこれ以上の値をつけられる神様はいらっしゃいますかッ!?」
「えぇい......っ!なら110,000マナよ!これでどうかしら!?」
「110,000!110,000!......ほかに、いらっしゃいますか!?......いらっしゃいませんね!?それでは“鈴堂 翔太”の魂は、そこのあなた......“聖神ライントーリア”様、落札決定だァッ!ご使用時には記憶、加護など各種設定をお忘れなく!」
「えぇ!もちろんよ!」
ステージにあがって鈴堂くんの魂を受け取ったのは、美しい金髪の女神様だった。
魂を頭上に持ち上げ、他の神々に見せびらかしている。
「ちぃっ!しょっぱなからライントーリアにはやられちまったな!」
「でも、楽しみです!ライントーリア様とバハリア様の『勇者VS魔王』シリーズは安定の面白さですからね!配信が待ち遠しいな!」
「王道すぎる感じもしないでもないけどな」
周りの神々は悔しがりながらも、笑顔で拍手をしている。
配信って何?
「さぁ!次々参りますよォッ!続いてご紹介いたしますのは......」
こんな風に、私の周りに置かれていた魂たちは、次々と神々に競り落とされていった。
その様子を横から見ていてわかったのは、どうやらここに並べられている私含めて29コンの魂たちは、私のクラスメートであるらしい、ということだ。
さっきシルクハットが“地球から収穫してきた”って言ってたよね?
私たち、クラス丸ごと攫われて、魂にされて競りに出されてるのかな。
えぇ......と?
私たちの意思はなんの考慮もされないの?
神様的に、それってアリなの?
......アリなんだろうなぁ。みんなノリノリだし。
......まぁ、私は、これまでの生活に未練があるかっていわれたら、ないから別に良いんだけど。
「80,000!80,000!......これ以上は、いらっしゃいませんね!?落札!落札です!“郷木 健”の魂は...“盗賊神ヤボー”様、落札でございまァす!」
ステージ上では、郷木という男子の魂が競り落とされていった。
ちなみにこの郷木、端的に言えばいじめっ子だ。
男だろうが女だろうが、気に入らないやつはあらゆる手段でいじめ倒すろくでもないやつだった。
私も色々とされた。
言葉にしたくないようなこともされた。
誰も助けてくれなかったけど。
世の中って冷たいよね~。
「カカカッ!みろよこの魂!この歪んだ感じが芸術的だよなぁ~!?オレ様の加護を与えるにゃ、やっぱこういう刺激的な香りがするヤツじゃねぇとな!」
盗賊神ヤボーとやらは郷木の魂を受け取り、上機嫌で席に戻る。
ってか盗賊神て。その神様自体もろくでもない存在であることが察するに余りあるな!?
「さッ!続きましてはァ......」
そのシルクハットの言葉が聞こえると同時に感じる、ふわりとした浮遊感。
私の入れられたプラケースが持ち上げられ、ステージ上に運ばれていく。
......私の、番が来たのだ。
「“藍原 瑠奈”!勉強、運動、すべてダメ!友達もいない!助けてくれる家族もいない!みんなからいじめられる、正直いって落ちこぼれの女子高生!」
私の紹介が酷い!?
いや、間違ってはいないよ......悲しいことに間違ってはいないけどさ!
それでも私、頑張ってきたじゃん!超、頑張ってきたよ!?
殴られようが、モノ盗られようが、クラス中......“家族”からも無視されようが!!
つらいことがあっても負けないように、気持ちだけは明るく前向きに生きようとしてきたじゃん!
そこら辺評価してくんないのかな!?
......えっ、何この会場の空気。
何で私が出てきた途端に、シーンてなってんの?
ちょっと神々~!しらけないでくんな~い!?何で若干引いてんの!?
「......汚っ......」
会場の中の誰かが、そう言った。
小さなつぶやきだったけど、静まり返った会場の中で、その言葉は悲しいほどよく響いた。
......うん、わかる。そう言いたくなる気持ちは良くわかる。
だって、あのいじめっ子の郷木でさえ、魂はそれなりに透き通っていた。形はいびつだったけどね。
で、私はどうかといえば。
......真っ黒だもんね。
どす黒いって言っても良いかもしんない。
それに加えて時折さびっぽい赤色が浮かんでは消えるとこなんか、最高に汚い。
他の魂と比べたら、そら引くほど汚いってのは、まぁ、わかる。
そうかもしんない......。
「あ、アァーーッ、と......」
シルクハットがあわてている。
司会に夢中で、私の魂がめちゃんこ汚いって事実に、今更気づいたらしい。
ちょっと準備不足じゃない?ワキが甘いよキミィ~!社会人......社会神(?)失格じゃな~い?
「で......ではこの魂、最低落札価格は......1マナ!1マナで良いです!はい、入札スタートォッ!」
シルクハットがどう見ても投げやりな感じで最低落札価格を決め、私の競売が始まった。
アシスタントの顔もやもや黒スーツお姉さんが、私にかぶさっていたプラケースをとる。
次の瞬間。
「くっ臭っ!?その魂臭っ!!?」
「ゲホッちょっ......ありえねぇ!ありえねぇぞ!?なんだその臭い!?」
「オ......オゲェッ!ゲロロロロロロ......」
会場は、一瞬で地獄絵図となった。
鼻をつまみ、苦しそうにする神々は良いほう。
床に倒れ、痙攣している神もいる。
デロデロ不定形のスライムみたいな神は、ゲロ吐いてた。
失礼だな!自分もゲロみてぇな見た目してるくせによ!
まぁ、とにかく。
私の魂は、汚いうえに。
もの凄く......臭いらしい。
「も......申し訳ございませんッ!申し訳ございませんッッ!!どうやら魂の収穫過程で、ゴミが混じってしまっていたようです!!」
シルクハットは平謝りだ。
ってかゴミって酷い言い様だなおい。
これでも17年間、一生懸命生きてきた女子高生の魂なんだぞ!
「すぐにッ!すぐに滅却処分いたします!」
胸ポケットから小さなリモコンのようなものを取り出したシルクハットが何やら操作すると、私の目の前に真っ黒な渦が出現した。
......ん?滅却処分??
「ただ今、虚無と接続中......接続確立いたしました!このゴミは臭いごと虚無に廃棄いたします!ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでしたッ!!!」
え?虚無?廃棄?何言ってんの?
いまいち事態を理解していない私は、腰を90度に曲げ客席に謝り倒すシルクハットや黒スーツお姉さんを眺めながら......。
シュポッ......と小気味よい音を鳴らしながら、黒い渦の中に......虚無とやらの中に吸い込まれていった。




