196 労働力がやって来た!
「......人手が欲しいな」
「人手が欲しいの~ッ!」
だんだん涼しくなり始め、比較的過ごしやすい晩夏の午後、いつもやっているお昼休憩後の打ち合わせでおっさんと変態ジジイはそう嘆いた。
労働力不足。
これは私たちの中で最近度々議論されるようになった、この拠点における問題点の内の一つだ。
「ちょっとこれ以上は、一人では畑を管理しきれないしな......」
おっさんは戦闘能力が低いので、普段は防壁の中で畑を耕している。
育てているのは、私や変態ジジイが森の中で見つけて来た、食べられる植物だ。
アブリ菜に、酢ヅタ、ソボロ豆など、おっさんの畑では多種多様な植物が栽培されている。
こいつらはどれもこれも魔境産のファンタジー植物であり、繁殖力が超旺盛だ。
日当たりが良い拠点内では、それはもう爆発的に増える。
おかげさまで、私たちの食糧事情はかなり改善されているのだけれど、増えすぎて収穫や加工が追い付かなくなってきているのだ。
例えばアブリ菜はうまく干すと、冬場の間も食べられそうな保存食になるので、今のうちに数を確保しておきたい。
ソボロ豆も暗い場所であれば発芽せず保管できるっぽいので、採れるだけ採って、冬のために残しておきたいんだよね。
ただこのお豆、一粒一粒が小さい。
大体小豆くらいの大きさだ。
それをサヤから取り出して乾燥して......ってなると、そりゃもう時間がかかるわけだ。
最近では一つ一つむいていたのではとてもじゃないが手が足りないので、大人の背丈ほどの株を丸ごと引っこ抜いて暗い場所で乾燥させて、それを棒でバシバシ叩いている。
そうすると、お豆がポロポロこぼれるからね。それを回収するのだ。
......これである程度作業効率は上がったんだけど、それでもまだまだ作業が追い付かない。
こればっかりは、私がいくら強くても、どうにもならない問題なんだよ。
ちなみに、こういったまだ名前も知られていないような魔境植物の栽培方法、収穫方法、加工方法や調理方法は、おっさんが一から考えだし、改良してきたものだ。
おっさんの活躍は非常に地味なんだけど、マジで凄い。
本人は謙遜するけど、マジでこの人は天才だと思う。
元貴族だって聞いているけど、貴族というよりは農家とか加工業者とか、そういった集団の長としての適性がある人だったっぽいね。
「道作りも、こうなれば秋の内に終わらせたいところなんじゃがの~ッ」
変態ジジイは私と組んで、拠点周りの整備を続けている。
防壁に始まり、水場から水路を繋げて拠点周辺にお堀を作ったり、その周辺に魔除け草を植えたり......あ、あと拠点内に井戸も掘った。
疲れにくく馬力がありまくる私と、器用に土魔法を使いこなす変態ジジイの能力はがっちりとかみ合って、かなりのスピードで拠点整備は進んでいる。
そして、今主に作っている......本日午後からの作業で続きに取り組もうと思っているのが、ザマーゴの森入口の丸太橋からこの拠点へとつながる道作りだ。
この拠点に冒険者ギルド出張所を作りたい変態ジジイとしては、ここまで冒険者や商人が来やすいように、交通の便を整えたいわけだね。
だけどこの道づくり、思っていたより手間だった。
大まかに変態ジジイの指示する方向に向かって木を切り倒していく......これは、別に問題でもなかった。
拠点作りの一番初めにやったことと一緒だ。
問題はそのあと。
変態ジジイが土魔法を使って私が伐採した空き地を道にしていくわけなんだけど、ちゃんと馬車が通れるように整地するためには、後に残った下草を刈って、切り株や岩を取り除いて......といった丁寧な下準備が必要なんだと。
丁寧な下準備......うん、私の苦手分野だ。
結局こちらもいくら私に馬力があったところでかかる手間は減らず、時間がかかっちゃうわけだ。
つまりは、どちらも、人手が足りないと、そういう結論にたどり着くというわけ。
ただ、収穫物を破壊しかねないからおっさんの作業は私とは根本的に相性が悪いんだけど、変態ジジイの作業に関してはそうじゃない。
「......私は、もうちょっと、働けるけど?」
私はまだまだ余力があるので、私がもっと働けばそれだけ作業は進展するんだ。
だからそう言っておっさんと変態ジジイに提案はするのだけど、二人とも横に首をふるんだよね。
二人が言うには、私は働きすぎなんだと。
全然疲れてないから別に私としては問題ないんだけど、大人としては小さな女の子に常人を越えた作業量をこなさせ続けることに罪悪感を感じていたらしい。
「安全な拠点は確保できたわけじゃしッ!エミーちゃんはここいらで少し、のんびりすべきじゃのッ!」
「......奴隷じゃ、ないんだからな......」
そんなことを言うんだ。
私は別に、良いんだけどなー。
でもそのセリフを、おっさんはなんか凄い泣きそうな顔で言うもんだから、私としては頷いて休憩せざるを得ない。
おっさんは繊細だから、けっこう色んなことをきっかけにしてすぐ落ち込むんだもんなー。
まったく、困ったおっさんだよ!
まあ、おかげさまで私には毎日それなりに自由時間が与えられているので、その時間は修行をするか、昼寝をするか、森の中でつまみ食いをするかしている。
最近、どうもナンガ山の方から新しく魔物が流入し始めているらしく、おやつが増えて私は嬉しい。
ノシテルケッチとかね。
「......さ、それでは昼の休憩はこれで終わりだ。各自、午後からも精を出して労働にいそしむとしようか」
「おー」
「フォッオ~~~ッ!」
さて、ちょっとぐだぐだし始めていた打ち合わせの空気を察して、おっさんが話を切り上げた。
よしよし、それじゃあ元気に働くとしますかねっ!
<エミーッ!!>
!?
と、その時!
突然オマケ様が、警戒の声を発した!
<【魔力察糸】が切れました。何者かが拠点に近づいています>
この【魔力察糸】は、私がカイセの森で開発した設置型の索敵魔力操作技術だ。
切れやすい魔力の糸を周囲に張り巡らせることで、それに気づかずに糸を切って近づいてくる対象の位置を把握できるのだ。
防壁が完成した今、【魔力察糸】の設置はもはや不要なんだけど、私は訓練と一応の警戒のため、拠点内にいる時にはこの糸を張っておくことを習慣にしていた。
その【魔力察糸】が、切れた。
位置は......お堀の外の、門から続く道の上。
しかも私はこの糸を、それなりに高い位置に設置しているんだ。
あんまり低い位置に設置しても、小さい生き物がうろちょろするだけで切れちゃって、意味がないからね!
具体的に言えば、大体大人の肩の高さに設置してある。
これを切れるほどの高さを持つ魔物は、私の知る限りこの森にはマウンテントポポロックくらいしかいない。
そしてそいつらは、狩りつくしたか山に帰ったか、最近見なくなった。
と、なると。
<これ......人間が、近づいてきたんじゃないですかね?>
聞き耳をたてる。
森の音に邪魔されて細かいことはわからないけど、確かに。
確かに、人の声がする!
「......どうした?エミー」
突然門の方を向いて動きを止めた私を訝しみ、おっさんが声をかける。
「人、来た」
「何?」
「フォッ!?」
「労働力、なるかも!連れてくる!」
私は門に向かって、駆け出した!
<ちょ、ちょっと待ってください、エミー!連れてくるって......相手が悪意を持った......例えば盗賊の集団だったりしたら、どうするつもりですか?>
は?
そんなん、ボコボコにして、言うこときかせりゃ良いじゃん!
私は【飛蝗】を使ってぴょんと一跳び、門を飛び越えた!
◇ ◇ ◇
さて、すたっと。
私は拠点に近づいて来た連中の前に、着地する。
なめられたら困るので、最初からそこそこ強めに【威圧】を放っておく。
......その連中の恰好を見るに、どうやら彼らは冒険者っぽいね。
<魔境に狩りに来ていたのでしょうか?>
数は4人。
小汚い男。
神官風の酒臭い女。
筋骨隆々の大男。
そして......そこそこイケメンの金髪男。
うん、ちょっとくたびれているけど良く使い込まれている装備品。
そして、【魔力視】で視ればはっきりとわかる、一般人よりはかなり多い魔力量。
これは、あれだ。
4人とも、そこそこ強いな。
この森で活動できる程度には、十分に強い。
変態ジジイと戦えば、多分4人組の方が負けるけど。
<当然ですね。あの変態ジジイは、例え変態であっても元特級冒険者です。人間にしては、かなり強い方なのです>
うん。
でもまぁ、良いね。
この4人、なかなか良い。
特にそこそこの金髪男は、私が突然上から降ってきたのを、きっちりと目で追っていた。
一番強そうだし、こいつがリーダーなのかな?
ま、とにかく!
「......待っていた。あなたたちのような人を」
おっさん!変態ジジイ!
私たちは、本当に運が良いよ!
欲しがっていた労働力になりそうな人たちが、言った傍から寄って来たんだから!
私はウキウキな内心を無表情で隠しながら、4人組を拠点内へと案内した。
4人組は顔を真っ青にしながら、黙って私についてくる。
うん、素直に言うことを聞いてくれるっていうのは、とっても好感が持てるね!
この4人組とも、仲良くできそうで嬉しいなぁ!




