193 【赤髪勇者物語】町を困らせる、勇者!?
ネボの町。
次なる目的地であるアーシュゴー国へと延びるサイカナン街道のちょうど中ごろに位置するこの町は、小さいながらも宿場町として発展を続けてきた歴史ある町だ。
近くを流れるアハテ川から獲れる希少なアハテカワエビが名物であり、それを使った料理はかの美食家モーチャッキが絶賛したほどの美味であることで有名なのだ。
その味を求めやってくる旅人たちで、この町は常ににぎわっている。
小さいながらも、活気あふれる町。
それが、ネボという町である。
「......はず、なんだがな?」
そう言いながら細身の元盗賊の男ザイデオは、腕を組み首をひねった。
何故なら、彼らが現在歩いているネボの町は、どう見ても活気があるようには見えないからだ。
まず、人がいない。
町の中心の大通りを歩いているはずなのに、ほとんど人とすれちがわない。
そしてたまに見かけるネボの町の住人は、外からやってきた宿泊客であるザイデオたちに笑顔を見せるものの、どこか疲れた様子なのだ。
「一体、どうしたと言うんだろう?」
勇者トーチは、不安げに眉をしかめた。
流浪の魔法使いネネザネも、顎に手をあて何やら思案している。
「トーチくん!こういう時は、悩んでいても仕方がないですよ!町の人に、話を聞くのが一番です!お姉さんが、大人の情報収集能力というのを、見せてあげるですよ!」
そう言って元気いっぱいに走り出していったのは、トーチよりも小柄なその体を白い聖神教の法衣に包んだ金髪の女性、シロンだ。
「すみませーん!エビ焼き13人前くださーい!」
シロンが突撃していったのは、大通りに面したネボ名物エビ焼きの店だ。
「あぁ......?うるせぇな、エビだ?......ねぇよ、そんなもん」
「はあ?売り切れですか?あ、あれですよ!私、形が悪くても気にしないです!規格外品でも良いです!エビ焼き13人前くださーい!」
「だ、だから、ねぇって、言ってんだろ!」
しかし、網を磨いていた店主らしき男の表情は渋く、シロンの要求はにべもなく断られてしまった。
確かに、大通りに面して並べられたその店のエビ焼き用の網の上には、エビは一つも並んでいない。
炭に火すらつけられていないのだ。
(やっぱり、何かおかしいぞ)
トーチはそう思った。
「シシシ、すまねぇなおやっさん、連れが無理言っちまってよ。ほれ、ガキんちょも謝れ!お店の人、困らせてんじゃねぇよ!ってか何が情報収集だ!お前さん、エビが食いてぇだけじゃねぇか!」
「違うです!こ、これは会話の糸口というやつですよ!何ですか、人を食い意地がはっているみたいに言って!」
「はってるじゃねぇか」
「可憐な乙女に何たる言い様!悔い改めよ!悔い改めよ!」
「痛ぇ!」
鋭いボディブローが風を切ってお腹にめりこみ、思わずザイデオは膝をついた。
「すみません、騒がしくて」
「い、いや......こっちも悪かったよ、イライラして、客にあたっちまうたぁ、みっともねぇ限りだ」
申し訳なさそうに頭を下げるトーチの姿を見て、エビ焼き店主もばつが悪そうに謝罪した。
「それにしても、エビがないとは、どういうことなんでしょうか?この町の名物だと聞いたんですが?どことなく、町に元気がないことと、何か関係していたりしますか?」
「あぁ......うん、まぁ......なんだ、その......」
店主は頭をかきながら、周囲に人がいないことを確認してから、椅子に腰をおろし、網を磨きながらぼそぼそと喋り始めた。
「アハテ川に、見たこともない、でかい魔物が出てよ......」
「なんだって!?」
その言葉を聞いて、トーチの正義の心に火が灯り、その瞳が鋭く光った!
トーチは、勇者である。
魔物に苦しめられる人々を、放ってはおけないのだ!
「一体どんな魔物ですか!?名前はわかりますか!?正確な大きさは!?どんな攻撃をしてきますか!?」
「お、落ち着け!落ち着け少年!声がでけぇぞ!うるせぇ!」
「す、すみません、でも......」
「それに安心しろ、その魔物はもう既に討伐されている。つい最近な。だから魔物については、何も心配はいらねぇんだ......」
「な、なんだ~......!良かった、なら何も問題はないですね!じきに客足も戻って、この町も元通りになりますね!」
トーチはそう言って、ほっと胸をなでおろした。
「............」
しかし、エビ焼き店主は渋い顔のままだ。
その様子を見て、痛みから復帰したザイデオが会話に割って入った。
「......だが、おそらくはそうならない。何か別の問題が、この町を襲っていると、そういうことだろ?おやっさん」
「えっ!?」
「............」
驚くトーチ。
エビ焼き店主は無言のまま。
つまりは、そのザイデオの言葉を肯定した。
「い、一体どういうこと?」
「シシシ、いいかトーチ、おやっさんは『魔物については』心配いらねぇっつったんだ。つまり魔物以外の心配事があるってこったよ。それに、魔物が討伐されて万事解決なら、今この店先にエビが並んでいないのは、おかしいじゃねぇか」
ザイデオは冷静に状況をかみ砕き、トーチに説明する。
そしてちらりと、エビ焼き店主の顔を見た。
目が合ったエビ焼き店主はため息をついてから、トーチたちに顔を近づけ、さらに小声で事情を説明し始めた。
「いいか、ここだけの話だぞ......?魔物が討伐されたのは良かったんだが、それを討伐した連中が、問題だったんだ」
「......どういうことですか?」
「奴ら、恩着せがましくオレらをゆすりやがってよぉ......この町に居つきやがったんだ。エビだの酒だの、うまいもんは全部、そいつらに回すことになってんだよ、今はな」
「何ですって!?」
その話を聞いて、一番に憤慨したのはシロンだ。
「私からエビを奪うなんて、許せない!そんな人たち、追い出しちゃえば良いじゃないですか!何で言いなりになっているです!?」
「オレら一介の町民からしてみりゃ、凄ぇ強ぇ連中だしよ......おまけに奴ら、無下にはできねぇ肩書をもってやがるんだよ......」
「肩書?」
首を傾げるシロンに、エビ焼き店主は本日何度目になるかもわからない大きなため息をつきながら、言葉を続けた。
「奴ら......魔王討伐のために旅を続ける......勇者ご一行様なんだとよ」
「「「はあ!!?」」」
思いもよらないその言葉に、トーチ、シロン、ザイデオは揃って驚きの声をあげたのだった。
『流浪の魔法使いネネザネも、顎に手をあて何やら思案している。』
......いや、誰?
ネネザネって、誰............?
おそらく、知らぬ間に加入した新メンバーなのでしょう。
彼らには彼らの冒険があるのだ......。




