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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
12 ザマーゴの森開拓編!
192/716

192 焚火を囲んで②

「......だめだ」


私は集中力をきらして、背中から後ろに倒れ込んだ。

拠点を覆うように生える芝生のように刈られたふわふわの草が、私の体を受け止める。

青臭いにおいが、ふわりと漂う。


「やはり、難しいかね」


焚火の上で、アブリ菜を宙に浮かべて炙りながら、あぐらをかいて座るおっさんはぼそりとつぶやく。


「難しい」


「そうか」


そしてそう言ってから、二人とも黙りこむ。

私が見あげた先にあるのは、桃色の空。

その中を、夕日に染められた橙色の雲が、ゆっくりゆっくりと流れていく。


「ミョーゴミョゴッシュゴーッ!ミョーゴミョゴッシュゴー!」


遠くのどこかで、ミョゴミョゴシュゴが鳴いている。

でも、もうすぐ夜だ。

あと一時間もしないうちに、静かになることだろう。


<その......気を落とさないでくださいね、エミー>


オマケ様が、気をつかって私を慰めてくれる。

うん、ありがとうオマケ様。


「はあ......」


だけど思わずため息は出ちゃうよね。

今日も、私の努力は実を結ぶことは、なかった。

未だに私は、おっさんの【見えざる手】を自分で再現し、習得するには至っていない。




「ほーれほれッ!何を辛気臭い顔しとるんじゃいッ!鍋ができたぞいッ!」


そう言って変態ジジイは、焚火の上で調理していたぐつぐつ煮たっている鍋の縁を、お玉でカンカンと叩いた。

これらの調理器具、そして鍋の味付けに使った調味料は、変態ジジイが背負って持ち込んだ物だ。

この変態ジジイは変態ではあるが元特級冒険者であり、野営経験が豊富なベテランである。

変態ジジイが来てくれたおかげで、私とおっさんの食生活は格段に豊かになった。

『生食、もしくは丸焼き』という二択から解放され、私たちはバリエーション豊富な食事を楽しめるようになったのだ。

......まあ、私は普通の食事だけだとお腹がすくから、狩りで森に入った時には、未だに生のまま色々と食べてはいるんだけど。


<ほら、エミー!気分転換しましょう!ふてくされてないで、ご飯を食べますよ!>


別に、ふてくされてなんかないもん。

のそりと起きあがり、変態ジジイからお椀を受け取る。


「ありがとう」


「どういたしましてじゃッ!」


本日のメニューは、“ザマーゴトードの魔境風鍋”だ。

獲れたて新鮮なザマーゴトードを捌き、食べられる各種野草と味噌に似た調味料で煮込んだ料理だ。

ごろごろと大きめに切られた蛙肉は、焚火と夕日に照らされてきらきらと輝いている。

おいしそう。

鶏肉みたい。


ちなみにザマーゴトードは毒を持った生き物であり、うまく捌かないと(一般人は)食べることができない(私は毒なんか気にせずに食べていたけど)。

だけど実は高級食材であり、愛好する美食家も多いのだとか。

フグみたいな蛙だな。

じゅるり。


「ありがとう、アースセル殿......それでは、いただくとするかな」


おっさんが感謝を述べて、お椀の汁を口に運ぶ。


「おお......今日も一日、命をつなぐことができた。パンツ神に、感謝を......」


変態ジジイは己の信ずる神に、祈りを捧げた。

いや、いるわけねぇだろ、そんな神。


<います>


いるのかよ!!


<あ、でも勘違いしないでくださいね?パンツ神は服飾神が生み出した下級神であり、パンツの製作技術などを司る神です。決して変態の神ではありませんよ?>


そりゃそうだよ!

変態の神なんて、いてたまるかよ!


<いえ、変態を司る変態神は、います>


いるのかよ!!




◇ ◇ ◇




パチ、パチ、パチリと焚火がはぜる。

気づけば辺りは大分暗くなり、騒々しいミョゴミョゴシュゴは眠りにつき、今はシュミカッペの鳴き声だけが静かに響いている。


「フォッオ~~~ッ!エミーちゃん、本当によく食べるのッ!」


変態ジジイが鍋の底を見つめながら目を細め、満足そうな顔で言った。


「悪い?」


「そんなわけなかろうッ!子どもはたくさん食べて、大きくなるのが仕事じゃッ!」


「......そうだな。子どもは......そうだな......」


おっさんは......変態ジジイの言葉を聞いて、何やら遠い目をしながら辛そうな顔をした。

おそらく、いつぞや言っていた、自分がかつて犯した大罪とやらのために、良心が痛んでいるのだろう。


「............」


それに対しては、私は何も言わない。

死のうとさえしなければ、私から何も言うことはない。

言えることもない。

それは、おっさんが向かい合うべき問題だから。

勝手に苦しんでいてほしい。


「............」


だけどさあ。

せっかくおいしいご飯食べた後なのにさあ。

そういう落ち込んだ雰囲気だすの、マジでやめて欲しいんだけど。

良い気分が萎えるんですけど。


<何か話を振って、話題を変えてみてはいかがですか?>


話を振る?

オマケ様、私そういうの、一番苦手なんですけど。


「フンッフンッフ~ンッ!ヌイドステンの、高き山~ッ!その頂に、輝くは~ッ......」


こういう時も役に立つお喋り変態ジジイをちらりと見るも、だめだ。

機嫌よくなんか知らねぇ歌を歌いながら、鍋の片づけをしている。


えー......。

この急に発生した重い空気、私がなんとかしなきゃいけないわけ?


<難しく考える必要はありませんよ、エミー。気になることをなんでも良いから、聞いてみれば良いのです>


うーん、気になることねぇ......。

うーん............。




「あ」




思わず私の口から漏れたその音は、思いのほか良く響いたらしく、おっさんだけでなく歌っていた変態ジジイまでもが、私の方を振り返った。


「......どうした?」


おっさんに問いかけられる。

急に注目を浴びてしまいどぎまぎしながらも、私は口を開く。


そういえば、誰かに聞いてみたいことが、あったのだ。

それは、このアーディストという世界を生きてきた私が、常々感じていた疑問。

重い空気を変えるには少し適さない、ってか逆に、さらに重い空気を作りかねない話題であるとは思うんだけど。


「わからない、ことがあるの」


「何だ?」


「どうして、黒髪黒目は、呪い子なの?」


それは、この世界の常識。

どこの国でも、例え周囲と隔絶した山奥の村であったとしても、共通して人間が持っている、認識。

そして何故か、オマケ様が知らなかった知識。


「どうして......どうしてって、言われても、なあ......」


おっさんは頭をかいた。


「そう言われてるからとしか、言いようがないのッ?」


変態ジジイも口髭をいじりながら、首を傾げてそう言った。


「そう、言われている?」


「そうだな。そう、言われている。『黒髪黒目の人間は、周囲に不幸をもたらす呪い子である』と。“ヘネカテの呪い姫”の昔話を、聞いたことはあるかね?」


「何それ?」


「国を越え誰もが知っている、昔話だ。大抵は、親が子どもに、寝る前に話したりする......あー、すまんな......」


「気にしない。続けて」


「話の中身を聞きたいか?」


「聞きたい」


「......わかった。概要だけ、まとめて話す」


おっさんは腕を組んで、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。




「『その昔、ヘネカテという豊かな国があった。その国の王に、美しい女の子が生まれた。しかしその子は、黒髪黒目だった......』」


ふむふむ。


「『その結果、豊かだったヘネカテは疫病に襲われ、滅んでしまった』」


は?


「『おしまい』」


「終わんのかいっ!」


思わず突っ込んだ。


「何それ?意味わかんない。お話として、おもしろくもない」


「それは、私もそう思うが......とにかく、“ヘネカテの呪い姫”とはそういう話なんだ」


「ふむ......」


深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。


「つまり、そういう昔話があるから、黒髪黒目は嫌われて、差別される。そういうこと?」


「うーむ......」


おっさんは、唸って黙り込んでしまった。

その代わりに、言葉を継いだのは変態ジジイだ。


「それだけでは、ないぞい......似たような話は、いくつもあるのじゃ。最近じゃと、ヘケットのペプーかのッ?」


「なんだそれ」


「ヘケット国のペプー公爵領の話だ。数十年前になるが......そこの公爵家で、黒髪黒目の男の子が生まれたんだ」


再びおっさんが言葉を引き継ぎ、語り始める......。


「そして数年後、ペプー公爵領は、火山の噴火に巻き込まれ、滅んでしまった」


はああっ!?


「さっきから、滅びるまでのスパン、短すぎない?」


「いや、そう言われてもな......そういう話なのだから、仕方ない」


「まあとにかく、そういう話が世界中あちこちに、たくさん転がっておるということじゃッ!故に......エミーちゃんには、辛いことじゃが......黒髪黒目は呪い子じゃと言われておる」


「............」


私は思わず、言葉を失ってしまった。

どこに行っても、黒髪黒目は嫌われる。

何故かと言えば、世界中誰もが知っている伝説なり昔話なりがあって、そこで黒髪黒目は不幸をもたらす存在だとうたわれているからだ。

そういう理由があるんじゃないかってくらいは、予想できてはいたのだ。


でも、それだけじゃなかった。

昔話だけじゃなくて、事実として、この世界において黒髪黒目は、本当に不幸をもたらす存在なのだと、事例が証明していたらしい。


<これは......相当根深い問題ですね......。私は今まで、彼らが話しているお話を、聞いたことがありませんでした。つまり、私のこの世界への知識の供給源である異世界転生配信では、この話は一切とりあげられていない、ということになります。世界中で多くの人が、知っているような話であるにも関わらず、です>


一切、とりあげられて、いない......。


<はっきり言いましょう。検閲されています。異世界転生配信はアーディスト以外の世界の神々も視聴します。つまり、そんな異世界の神々に、黒髪黒目の問題を、アーディストの神々は隠しておきたいと、そういうわけです。そしてそれくらいの隠蔽なら、神の力をもってすれば容易いことです>


一体......どうして?


<わかりません......私は所詮......忘れ去られたおまけの『神の器』。他の神々と付き合いがあったわけでもないですし、彼らが何を考えているのか、わからないことの方が多いのです>




「............」


黒髪黒目、呪い子の問題。

ついつい気になり聞いてしまったこの話は、やっぱり場の空気をさらに重たくし、疑問は解決されるどころか、さらに謎が深まった。


パチパチと、焚火がはぜる音が周囲に響く。




「おっさんは」


「なんだ」


そして、思わず聞いてしまう。


「私のこと、嫌い?」


今まで、あえて聞こうともしなかったことを。


「何故だ」


「呪い子だから」


じっと、おっさんの瞳を見つめる。


「............」


おっさんは、下を向き、ため息をついた。

そしておもむろに立ち上がり、歩きだす。

ゆっくりと、私に近づき、そして......。


こつんと、頭を小突いた。


「いたい」


痛くはないけど、そうつぶやく。

そんな私の頭を、おっさんはわしゃわしゃとなでた。

そうしてから、私の横にどすんと腰をおろした。


「私はな、お前さんに感謝しとるのだ」


「............」


「『生きたいのなら、生きろ』という、お前さんの言葉があったから、今の私がある。まあ、ずいぶんと乱暴な脅しをかけられた気もするが......」


おっさんは、苦笑しながら言葉を続けた。


「それでも、おかげさまで、私は今、生きている。毎日大変だし......たまに辛くもなるが、そこそこ楽しいぞ?お前さんのおかげだ」


「............」


「ありがとう、エミー」


「............」


おっさんは、焚火を見つめたまま、そう言った。

......感謝は、ちゃんと人の目を見て言えって、教わらなかったのかよ。

別に良いけど。

私も少し、視界がにじんでいる。

それを、見られたくないし。




「「............」」


ああ、沈黙。

結局、沈黙。


でも、重苦しいというよりは、気恥ずかしい沈黙だ。


「......ジジイは?」


「フォッ?」


で、思わずジジイにも聞いてしまった。


「呪い子の私、嫌じゃない?」


先程と同じ、質問を。


ジジイは優しく微笑み、おっさんと同じように、私の頭をなでた。


「気にしとらんのッ!確かに呪い子がいて不幸になった、そんな話は良く聞くが、それだけでもないのだぞいッ!ヨギンという男を知っておるかッ!?」


「......聞いたこと、ある」


「あやつはのッ!大体吾輩と同期の冒険者じゃが、黒髪黒目にも関わらず、多くの功績を成し遂げ、人々を幸せにした凄い奴じゃッ!今は何をしとるんか知らんが、とにかくそういうやつもおるッ!」


「............」


「それに、吾輩はのッ!呪い子だの、なんだの以前に......」


そして両手でぎゅっと、私の小さな手を握った。


「かわいこちゃんの、味方なんじゃよッ!」


ぱちんと、お茶目にウィンク。

すっと、両手を離す。

すると、私の手のひらの上にあった物、それは......。







パンツだった。







「落ちこんだ気分を変えるには、まず明るい色の下着をはくのじゃッ!そのパンツはエミーちゃんにあげるから、ぜひブベエーーーーーーーーッ!!?」


とりあえず、死なない程度には本気で殴り飛ばした。







まあ、こんな感じで、今日も騒がしく魔境の夜はふけていく。

桃色の空は徐々に紫、そして黒へとその色を変え、いつの間にやらもう、すっかり夜だ。




......気づいたんだけど。


なんやかんや言って、私はこの拠点での生活、けっこう気に入っていた。

初めは、ここでの暮らしは【見えざる手】を習得するまでかなとか、そんなこと、考えていたんだけど。


今は、まだまだ不便だけど。

いつかこの拠点に、もっと立派な暖かい家を建てて、おいしいご飯を、オマケ様と、おっさんたちと食べる。

そんな未来が、頭の中に、ちらつくくらいには。




だけど、この日から。

私の頭の片隅に、一つの消せない不安が住み着いた。


私が、いるせいで。

私が、呪い子だから。


この先、おっさんたちに、何か取り返しのつかない不幸が、訪れるんじゃないか。




そんな、不安が。

ついに黒髪黒目の呪い子問題が話題としてとりあげられました。


何故、アーディストにおいて黒髪黒目は差別されるのか?

その答えは、『この世界では黒髪黒目は、事実として、不幸をもたらすことが多いから』。

しかし、ならどうして黒髪黒目が不幸をもたらすのかという本当の謎は、まだ残っています。


でもね、ぶっちゃけて言うとね、『オマケの転生者』という物語的にはね、それはメインの謎ではないんだ。


この物語における、未だ直接的には言及されてもいない、しかし提示され続けてはいる、本当の謎は......。




いや、でも、まあ、それは、思わせぶりな書き方をして申し訳ないんですけど、実はそれすらも、どうでも良いことなんです。

この物語の肝は、エミーという超人主人公が、時に愉快に、そして時に悲惨に、暴れまわるその姿なのですから。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 神が黒髪黒目が嫌いだから産まれたら災害起こして56して悪評ばらまいてる説あるな
[一言] エミー、いつのまにツッコミを覚えたの…
[良い点] 「ありがとう」 (´∀`*)素直に告げられる相手がいて、暖かく返される言葉、当たり前が当たり前である幸せ。 そんな幸せに慣れないエミーさんだから暖かい幸せが消え去る不安に怯える、人間らし…
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