19 【神々のお話①】聖神ライントーリエと邪神バハリア
「ではではっ!無事、勇者くんが村を旅立ったこと!そしてこれからの彼の旅路が幸大からんことをご祈念いたしまして......」
「「かんぱ~~いっ!!」」
どこまでも続く、白い空間。
その中で二人の男女がジョッキをぶつけあい、注がれていた黄金色の酒をあおる。
静寂な空間に、ごくりごくりと二人がのどを鳴らす音が響く。
「......っぷは~~~~!いや~、このビールってお酒、控えめに言ってもサイッコ~だよねぇ~!はやくアーディストでも作られるようにならないかなぁ~!?」
美しい声で上機嫌に語る金髪の美女は、ライントーリエ。
聖神と呼ばれる、世界アーディストの管理運営を司る神のうちの一柱だ。
「酒神と美食神も動いていたからな、数百年のうちには......といったところだろう。このようなうまい酒が供物として捧げられる日が、実に楽しみだ!」
はしゃぐライントーリエを目を細めて眺めながらしゃべる、ねじ曲がり渦を巻いた角を耳の上から生やした美男は、バハリア。
邪神と呼ばれる、こちらも世界アーディストの管理運営を司る神のうちの一柱である。
「ね、ね!バハりん!今日のごちそう、どうかなぁ!地球の料理を参考にして、私が一から作ったんだよぉ?」
彼らの目の前に置かれた食卓テーブルの上には、色鮮やかな料理がいくつも湯気をあげている。
「見た目に関しては及第点といったところだな。味はどうだか知らんが」
「も~~っ!そういう冷たい態度はやめてよ!はいっ、あ~~~ん......」
「あ~~~ん.......」
聖神ライントーリエは唐揚げ(っぽいもの)を摘み取り、邪神バハリアの口の中に押し込む。
唐揚げ(っぽいもの)を黙って咀嚼するバハリア。
さくっという小気味良い音をたてて破れた薄い衣から、肉汁(的なもの)と一緒にうま味があふれ出る。
口の中は、もはや海。
肉汁の海。
バハリアの味覚はうま味の海におぼれていく......。
「ふふんっ!どうかな?おいしいかな?」
「......味見はしたんじゃないのか?」
「イジワル言わないでよ!バハりんの感想が聞きたいの~~っ!」
「......そうだな、おいしいよ。ラインが作ってくれたものはいつもおいしいさ」
「どんな風に?どんな風に?」
「......言葉にするのは、難しいな」
そう言うやいなや、ライントーリエを抱き寄せたバハリアは彼女の唇を奪った。
「......こんな感じの、味だな」
「......もう!」
バハリアにしなだれかかるライントーリエ。
二度、三度とキスの回数が増えていく。
聖神と邪神。
生きとし生けるものには伝えられていないが、この世界アーディストにおいて、二柱は夫婦である。
結ばれてから2万年ほど経つが、彼らは未だにラブラブだ。
唐揚げ食った後にキスをしても別に気にならないくらいには、ずっとラブラブだ。
そもそも、彼らのこの世界における神としての役割は、『世界を揺れ動かすこと』。
世界が壊れない程度の波乱を起こし、停滞を打ち破り世界を進歩させることだ。
創世神により聖と邪という対極の立ち位置を与えられた彼らだが、やることは一緒なのだ。
共に世界の運営を行っていく中で、彼らの仲が深まっていったのも、必然だったのかもしれない。
◇ ◇ ◇
「さてさてっ!お腹もいっぱいになったことだし~、反省会始めましょっか?」
卓上の料理がきれいになくなったところで、ライントーリエはそう切り出した。
「そうだな......まぁ、多少のアクシデントはあったが、おおむねうまくシナリオは進行しているのではないか?オレの転生者キャロも良くやっていたよ」
そう、魔王軍の間諜として勇者トーチの村にもぐりこんでいた魔族の少女キャロは、【邪神の加護】を与えられた転生者である。
彼女はトーチと違い、前世の記憶は取り戻していない。これが今後のシナリオ進行上、重要なファクターとなる。
「うん、キャロちゃんはよくやってたよね、ほんと。偶然とはいえ氷属性の魔法が得意ってのは、炎属性が得意なトーチくんと対極になってて良い感じだし。トーチくんも素直な子で良かったよね。前世の死因、テンプレ通りトラックにひかれたことにしておいたけど、前回の勇者はまずここから疑ってかかったからね!ほんとやりずらかったわ~~」
オークションで競り落とされた転生者たちに、その事実を伝えることはない。
余計な反発を生むからだ。
そのため適当な死因、死んだときの記憶を作り出し、それを信じ込ませるのだ。
勇者トーチは前世から素直な性格をしていたらしく、そのあたりの操作は大変に容易だった。
「私としてもさ、メインキャストに不満はないんだよ。......問題はさぁ~、用意しといた仕込みが不発に終わったことなんだよねぇ~!」
「あぁ、“聖獣”のことか」
「そ、そ!“聖獣”!“賢梟フォルオウル”ちゃん!せっかく知恵と力を与えて成長させて、勇者を教え導く師匠ポジションとして用意しといたのにさ~......」
「知らん間に死んでたもんな」
「ね!そろそろ出番だよって神託与えようとしたらさ、まったく反応しないでやんの!えぇ~~っ!?てなったよ、ほんと。いくら戦闘タイプじゃなかったとは言えさぁ~......」
「まぁ、どんな生き物も油断すれば死ぬ。寝込みを襲われでもしたんだろう」
ちなみにこの“賢梟フォルオウル”、フェノベン村の近くの森、ナソの森のカリヴァの大木に住んでいた。
「危ない生き物はいないはずの森だったんだけどなぁ~......何にやられちゃったんだろ?魔物かな?“聖獣”を食べたとなれば、多少は力もついちゃうよね?」
「多少は、な。もうフェノベン村も滅んで近隣に人里はないわけだし、少し強い魔物が生まれていても問題はないだろう」
「今は録画用にカメラをトーチくんに密着させてるから、いつもいつも全てを監視することはできないとはいえ、この辺は要反省だよね~......。おかげで、スポット参戦のお助けキャラのつもりだった“黄金のアルクス”を、師匠としてあてがわなくちゃいけなくなったわけだし。妙に口調が間延びしてて、どうも締まらないのよね~、あのおっさん」
「せっかくだ。この場でシナリオ上変更せざるを得ない部分を抜き出して、改めて整理しよう。......まぁ、そう気落ちするなライン。異世界転生配信にハプニングはつきものだろう?」
「......うん、それもそうね!これもまた異世界転生配信の醍醐味ってやつよね!」
かくして二柱の打ち合わせは続く。
“聖獣”を食べてしまった存在について、深く考えることもなく。
それがオークション会場から廃棄された魂を宿した存在であることを知らず。
今後彼らのシナリオにとって......いや、この世界アーディストにとって最大のイレギュラーとなる、『オマケの転生者』エミーの存在に、気づかないまま。
どうもこんにちは~。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
エミーちゃんのお話は、次回から新章となります。
1章分お話を書き終えたらまた投稿します。それまではお休みです。
今後とも、エミーちゃんとオマケ様のことを、少しでも気にかけていただければ幸いです。
よろしくお願いします。




