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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
12 ザマーゴの森開拓編!
183/716

183 エミーによる超人的森林伐採行為

さあああ......。


青空澄み渡る初夏の朝。

未だミョゴミョゴシュゴは歌い始めることなく、辺りに聞こえるのはザマーゴの森に生える木々、ニシャカーシャの大木が、その小さな葉を風によってこすり合わせる音、ただそれだけ。

ニシャカーシャの白い花が放つ芳醇な香りが、目を閉じて精神統一を図る私の鼻腔をくすぐる......。




「......リャアッ!!」




そして、私は!

次の瞬間!

身体と魔力を最適なタイミングで操作し、極力腰を落とし背を屈め、低い体勢を維持したまま、手刀の形に整えた右手を左から右へと、水平に振り払う!


当然、ただ手を振っただけではない。

私の右手の指先からは、細い細い魔力の刃が、今の私のできる限り長く、伸びていた。

何でも切り裂く魔法の刃、【大蟷螂】だ。

去年の今頃、グロウノードッカ村では幅広の刃を剣のように、数メートル程度伸ばすことが限界だったこの【大蟷螂】だけど、毎日の修行の結果、今では集中して時間さえかければ、針金程度の細さの刃を数十メートルの長さにまで伸ばすことが可能だ。

これほどまでに広範囲の【大蟷螂】は作り出すのに時間がかかり、疲労も大きいため戦闘に活かせるレベルの技術じゃない。

だけど、今私がしたかったのは、ザマーゴの森の木々の伐採だ。

森の木々をまとめて切り倒すには、この【大蟷螂】、すこぶる便利な技術なのだ。


ミシミシミシ......ズドオオオーーン......!


私の視界前方のあちらこちらで、ニシャカーシャの大木たちが轟音を立てて倒れ伏していく......。




「危ないッ!!」




その時、私の後方からそんな声が響いた!

ジョバンノのおっさんだ!

瞬時に辺りを見回すも、特に私を狙っている魔物はいない。

何が危ないんだろう?

とりあえず、私の方に向かって倒れて来た大木を左手で受け止めてその辺に放り投げ、おっさんの方を振り返る。


「危ない?何が?」


小首を傾げながらおっさんに近づく。

おっさんは青い顔をして冷や汗を流していた。

口をパクパクしている。

あ、ちなみにおっさんの鎖は、じゃらじゃらと鬱陶しいので引きちぎっておきました。


「なんかやばい生き物でも、いたの?」


「......ああ、いたな......」


「どこに?」


「今、目の前に、いるな......」


そう言うおっさんの瞳にはしかしながら、黒髪黒目の美少女しか映っていない。


どうやらおっさんは、幻覚を見ているらしい。

かわいそうに。

疲労がたまっているのだろう。




◇ ◇ ◇




さて、少し時間を遡る。


「拠点、作ろう」


洞窟から出て来たジョバンノに、エミーは開口一番そんなことを言った。


「拠点、かね」


「そう。おっさん、弱い。狩りに連れまわすとか、できない。安全に留守番できる場所、必要」


「ふむ......」


ジョバンノは思案する。

確かにその通りだ。

だが......。


「ここは魔境だぞ?そんな安全な場所に、心当たりがあるのかね?」


「ないよ。おっさんは?」


「あったら、生き埋めになんぞ、なっとらんな」


「いばって言うな」


「性分でな」


一番手っ取り早いのは、エミーが今すぐジョバンノを連れてこの魔境を脱出することだが、ジョバンノはエミーのそんな提案をのむわけにはいかなかった。

このザマーゴの地へと追放されることが、彼に下された処断なのだ。

で、あるならば、開き直り生きることを選んだジョバンノではあったが、その決定には従いたかった。

本音で言えば死ねば良いと思っているのだろうが、建前的にはこの地で生きていくことが、法的に定められた彼の償いとなるのだから。


「ごまかして、逃げれば良い」


「逃げた先で良心の呵責に苛まれ、精神的に病んで衰弱する未来しか見えん」


「わがままなおっさん」


「悪党だからな」


「悪党が、良心なんぞに膝を折るな」


ため息をつきながらそんなことを言うエミーであるが、彼女はジョバンノの方針には異を唱えなかった。

そして少し考えて、こんな質問をした。


「じゃあ、どんなところなら、安全だと思う?」


「ふむ......」


そう問われ、ジョバンノは少し考え込んだ。

彼はかつて伯爵位に叙されていた貴族であり、周辺諸国の情報にはそれなりに明るい。

彼の頭に思い浮かんだのは、テーニディース国のヨシャンカやテゾンカー国のリヒエドなど、魔境の縁に存在する町の様子だ。


「見晴らしが良いとか石壁に囲まれているとか、そういう魔物への備えは必要であろうな」


「たしかに」


「全域魔境などと言われる“幻想大陸”では、魔導的な結界防御技術も発展していると聞くが、この大陸においては石壁のような物理的防御設備の設置が主流よな」


「なるほど」


「つまるところ壁というものは、割と安直に思いつく設備ではあるが、魔物に対してはそれなりに有効な処置、ということでもある」


「すごい。おっさん、なんか頭良く見えてきた」


「くくく、それっぽく長々と喋るのがコツよ......だがな、エミー」


と、ここで。

ジョバンノは肩をすくめる。


「ここは魔境。そんな壁があるような拠点候補地が、あるわけがないのだ」


そしてそんなことを言いながら、ため息をついた。


「おっさん、わかってない。私の言いたいこと」


しかしエミーは、そんなジョバンノの様子を見て肩をすくめ、ため息をつき返した。


「なんだと?」


「私、拠点、作ろうって言った。なければ作れば良い。そんな、拠点を」


いかにも自信満々、といった様子で無表情のまま胸をはり、エミーはジョバンノを連れて森の中を歩き始めた!




◇ ◇ ◇




そして連れ出された森の奥でジョバンノが目の当たりしたのが、冒頭のエミーによる超人的森林伐採行為だったというわけだ。

ジョバンノが目を丸くしている間に、彼女は次々と周囲の木々を伐採していき、ジョバンノが立っている少し小高い丘のようになっている地点を中心に、周囲の森はすっかり切り開かれてしまった。

現在エミーは、伐採した大木を横倒しの状態のままジョバンノの周囲に配置し、簡易的な壁を築いているところだ。


(強いのだろうと、思ってはいたが......)


魔境にいながら一人で活動しているという事実、そして割と駄々洩れの強者のオーラとでも言うべき威圧感、鎖を引きちぎるほどの怪力から、ジョバンノはエミーの実力について疑いを持ってはいなかった。


(まさか、これほどであるとは......)


しかし、こんなにも、理外のバケモノ的な存在であるとまでは、想像していなかった。

今も彼の額に浮かぶ汗が、初夏の日差しによるものなのか冷や汗なのか、判別はつかない。

そんなジョバンノのもとに、作業をひと段落させたエミーが、大木の幹をぴょんと飛び越えて駆け寄ってきた。


「おっさん、伐採終わった。見晴らし、良くなった。壁も作った」


「あ、ああ......ご苦労だったな、エミー」


「これで、おっさんも安心」


「う、うーむ......」


胸をはり自信満々にそんなことを言うエミーだったが、ジョバンノは思わず返答に窮してしまった。

ちらりと、エミーが即席で作成した壁を横目で見やる。

彼女が伐採し、壁として配置した大木はどれもとても大きい。

横倒しの状態で、その高さはジョバンノの身長よりも高い。


(だがこれは......本当に魔物に対する防壁として効果があるのだろうか......?)


そう、しょせんは人の身長程度の高さなのだ。

ヨシャンカやリヒエドの石壁は、もっともっと高い。

さらに言うと、エミーの作った壁の大木と大木の間には、ところどころ隙間も存在している。


エミーの仕事は......その出力は規格外のものであることは疑う余地もないが......端的に言って......とても、雑だった......。

初夏の爽やかな風が、あたりを吹き抜ける。

しかしエミーの壁は、ぴゅうという隙間風の音を鳴らさない。

何故なら、隙間自体が大きすぎるから。




「よし。じゃ、私、狩り行く」


「待てーーーっ!?待て待て!待つのだエミーよ!」


そんなジョバンノの困惑を気にも留めず背を向け森に走りだそうとするエミーを、ジョバンノは必死で引き留めた!


「なに?」


「テ、テストだ!テストが必要だとは思わんかね?お前さんがせっかく作ってくれたこの壁の実力、見てみたいとは思わんかね?」


「............」


「ロールアウト前に試験運用、肩慣らし、お試し期間!どんな商品でも、必ず必要!わかるかね!?」


「......商品じゃないけど」


「商品じゃなくても必要なの!」


「そんなもん?」


「そんなもんなのだ!」


「........................わかった」


自分の作ったものにケチをつけられたと感じたのか、しばしの間無言になったエミーだが、しぶしぶといった様子で最終的にはその首を縦に振った。

そして、その次の瞬間だった。


......急激に彼女の気配が、希薄になり始めた。

雑、大雑把であるというエミーの短所。

裏を返せば、おおらかでアドリブ的な対応能力が高いということでもありますが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雑、大雑把と後書きにすら挿入されるエミーさんの鷹揚な性格。(´Д` )だからこそ転生前の藍原瑠奈はあの地獄の環境を生き抜けたんじゃないかなぁとうなずき続けて赤べこ状態の読者でした。 神の…
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