161 壊す
雪原に立つ私の眼前にそびえたっているのは、何とも、『奇妙』としか言いようのない外観をしたお屋敷だ。
まず、屋根は真っ赤。真っ赤っか。あと、窓枠とか、要所要所も赤く塗られている。
そして壁は真っ黄色に塗りたくられ、ところどころに赤い水玉模様が描かれている。
周りには真っ白な雪が降り積もっているだけに、その外観は異様に目立つ。
「すまないね、エミー。部外者である君に後始末を任せてしまうことへの......謝罪と感謝を」
私の横に立つナレが、そう言いながら胸に手を当て、静かに頭を下げた。
「......別に良い。私も、外に出たい。だから、やる。それだけ」
首をまわし、肩をまわし、拳を握って、開いて、握って、開いて......。
<準備は、できましたか?>
うん、オマケ様。
ばっちりだよ。
私は握りしめた右の拳に、魔力を集中させていく。
ゆっくり、ゆっくりと丁寧に、己の魔力を凝縮させる。
どんなものよりも、強い拳を。
何もかもを、壊し、うちくだす拳を。
そう願いながら、魔力を練り上げる。
現在の私の総魔力量は......あのお喋り黒トカゲと戦った時と比べても、数倍には跳ね上がっている、と思う。
その大量の魔力を、丁寧に丁寧に、拳に注ぎ込んでいく。
ミシ......ギシギシ......ギシ......。
空間がきしみ、よくわからない音がなる。
「............できた」
そんな作業を続けること数分。
未だかつてない破壊力を秘めた、現在の私がつくりうる最強の右拳が完成した。
「君......本当に、とんでもないね。ははは、その拳、なんかどす黒い煙みたいの出ているけど、大丈夫?」
ここまで濃度を高めると、【魔力視】を持たないナレのような人間でも、拳から漏れ出る魔力を視認できるらしい。
「問題ない」
私はそう言うと、お屋敷に向けてその拳を構える。
さて、少し大仰に準備を整えてきたけど、今私が放とうとしているのは、魔力を込めて破壊力を増した拳、即ち何のことはない、これまでも何度も使ってきた【魔撃】だ。
それをお屋敷に向けて、思い切りぶっ放そうというのだ。
というのも、ナレ曰く。
彼女は、長くループを繰り返しているうちに、ループに使われるための『力』のようなものを、なんとなく感じ取れるようになっていたらしい。
その『力』って、オマケ様の言う『ループの源泉となる神の力』のことだよね。
でだ。
ループするために必要な『力』って言うのは、復元する物が多くなればなるほど、大きくなるのだとか。
つまり、お屋敷が壊れていれば壊れているほど、ループに必要な『力』が増大する。
そしてナレの見立てでは、もはや現在の『力』の残量では、お屋敷を復元してループすることはできない。
そんな『力』は残っていない。
つまり、お屋敷を破壊しつくしてしまえば、もはやループは発生しない。
そういうことらしい。
<というか、そこまで神の力が弱まっていたのであれば、このループを繰り返す小さな世界自体が、あなたの一撃に耐えきれないかもしれません>
というと?
<あなたが一発、全力で殴れば、この世界は吹き飛んでループ現象は終了します。私たちは無事、外の世界に戻れます。万事解決です>
なんか、凄い遠回りしてきたけど、やり方がわかれば凄く単純な解決方法だよね。
<............結局、『殴って解決』する展開になりましたねぇ......>
ん?オマケ様、何か言った?
<いえいえ、何も何も......>
「......さ、ではやってくれるかい?エミー」
横からナレが、私に促す。
「............」
いいよ。
別にいい。
私が外に出れるなら、それでいいんだ。
私はやるよ、なんだって。
私は、私とオマケ様さえ良ければ、それでいいんだ。
でもさ、オマケ様。
私がこの小世界を破壊したとしてさ。
......その後、ナレはどうなるの?
<......ナレは......ナレに限らず、お屋敷の連中もですが......この小世界の人間は、わずかに残った神の力によって無理やり、この小世界ごとその存在を維持され続けている......意思を持った幻のようなものなのです。この小世界が、破壊されてしまえば......>
......消えちゃうの?
<そうですね。消滅します>
「............」
私は思わず横を振り向き、ナレの顔を見つめる。
「ん?どうしたのかね?」
ナレは相変わらず、笑顔だ。
不敵で、皮肉気で、渇いていて、疲れていて、しかしどこか晴れ晴れとした、笑顔だ。
「............」
「ああ......もしかして、私のことについて、心配してくれたのかな?」
こくりと頷く。
「ループを壊すと、ナレは消える」
「多分、そうなるだろうねぇ。なんとなく、わかるよ」
「......いいの?」
「いいさ」
ははは、と笑い声をあげながら、ナレはまっすぐに前を向いた。
「遅かれ早かれ、私たちがたどる結末だ。このまま放っておいても、ここは......数年も持たないんだよ。それなら、早くやってもらった方が、私は嬉しい」
「......そっか」
「そうそう」
「............」
「......本当に、ありがとうね、エミー」
「............」
私は再度お屋敷に向き直り、拳を構えて集中する。
瞳を、閉じる。
壊す。
私は、壊す。
このお屋敷を、壊す。
ループを、壊す。
ここで繰り返されてきた、何もかもを壊す。
ここを繰り返してきた、何もかもを壊す。
壊す。
壊す!!!
私が覚悟を決め、目を見開き、お屋敷に向けて拳を振りかぶった......その時だった!!
<<<やめろ!!!>>>
そんな叫び声が、響きわたったのは!!
突如響きわたる謎の声!
次回、第10章ついに完結!
でも、ちょっとエピローグもあるから、完全には終わらないんだよね......。
次回、第10章大体完結!(しまらないなぁ)
本日18:00に投稿予定です。




