16 逃走!それが私の闘争!
......とまぁ、格好よく口上を述べてはみたものの、ひいき目なしで見て、私ってこいつらに勝てるかな?
<無理でしょうねぇ>
だよねぇ。
<正面切って打倒する、というのは>
だよねぇ。
<ですが>
この場から逃げ出し、生き延びる。それに関して言えば?
<可能です>
......だよねぇ!
一度落ち着いて、現状を把握しなおす。
蹴り飛ばされ地面に尻もちをつき、上半身を起こした状態で座っている私。
その私に正面から近づいてくるゴミ2名。
その奥で仁王立ちするゴミ頭。
目を凝らす。【魔力視】発動。
ゴミどもの体を、赤黒い魔力のもやが覆っている。
特にゴミ頭の魔力量、すごく多い。
これは勝てない。
いくら私がオマケ様指導のもと鍛えているとはいえ、私は加護持ちの転生者じゃない。
あくまで私は、良く鍛えられた5歳児であって、荒事にもまれ続けて生きてきた盗賊たちをぶちのめせるほどの強さは持っていないのだ。
あ、【魔力視】というのは毎度おなじみ、オマケ様が<魔法神の異世界転生配信で視た>、魔力を目で見て把握する技術。
かなり習得が難しいらしく、わりとあっさり使えるようになった私をオマケ様は
<さすがエミー!>だの<もしかしなくても天才!>だの褒めたたえて、かなりおだててくれた。
調子に乗って、『じゃあ私、魔法使いの適正とかあるのかな!?』って聞いたら、<いや、それはないです>って一瞬で否定された。なんなんだよ!
まぁ当時私は3歳児。
おだてて気分良くすることも大事だけど、調子にのって危ないことするのも困るからね。
オマケ様なりの子どもの操縦術なんでしょう。
で、さっきゴミどもに見つかったときに必要以上に慌てちゃったのは、多分あいつらの魔力量を感じ取っちゃったからなんだよね。
この世界の生き物は多かれ少なかれみんな魔力を持っているんだけど、意識しないとその魔力はいくらか外に漏れてしまう。
その量を見て、相手の強さを推し量ることも、可能っちゃ可能なのだ。
どんな道のプロであっても、ある程度鍛えられてくれば魔力漏れは減ってくるらしいので、野生の魔物とか力任せな三下の盗賊とかにしか使えない手段だけどね。
「でよう、どっちが先にやる?」
ゴミAが拳を手のひらに打ち付けパンパンと音をならしながら、ゴミBに問う。
「お前からで良いさ。ただな、タッパ。やりすぎてすぐ殺すなよ?」
ゴミBがそう言って一歩下がった。
それを聞いて厭らしいにやけ顔をさらに気持ち悪く崩しながら、ゴミAが私に近づいてくる。
勝負は一瞬。
一瞬で片を付けて、脱兎のごとく逃げ出す。
奴らに気づかれないようこっそりとズボンの右ポケットに忍び込ませた手が湿り気を帯びる。
「へへへ......これから自分が何されるかわかるか?......わかんねぇか?だからそうやってぼんやりしてんのかな。へへへ」
ゴミAがさらに一歩近づく。
私はいつも以上に、努めて無表情。呆けたふりをする。
ゴミAがさらに一歩近づく。
こいつらの認識では、私はさっきの一蹴りで骨も折れ、碌に動くこともできず、呆然自失とした少女。
ゴミAがさらに一歩近づく。
そうやって偽装する。
油断を継続させる。
「へへへ......へへへへへ!」
ゴミAがにやけながら、私の髪の毛をつかもうと手を前に伸ばす。
......今だ!!
瞬間的に【身体強化】を右腕に集中!
ポケットにいつも忍ばせてある小石を一つ掴み、ゴミAの顔面に向けて、【投石】!
ヒュンッと音をたて、飛んでいく小石。
そして間を置かず響く、ぐちゃっという気持ちの悪い音。
「ギャァァァーーーーーーーーーッ!!?」
ゴミAは右目をおさえてのけぞる。
だくだくとあふれ出る血。
投石した小石は見事、ゴミAの右目にヒットだ!
「タッ、タッパ!!?」
驚愕に大きく目を見開くゴミB。
的が大きくなって、やりやすい限り!
飛び跳ねて距離をとり、またしても【投石】。
「グガァァァーーーーーーーーッ!!?」
今度はゴミBの右目から血が噴き出す。
これで仲間とおそろいだ。良かったね!
「この......ガキィーーーーーーーーーーッ!!」
苦しむ下っ端どもを弾き飛ばし、突っ込んでくるゴミ頭。
後ろに飛び跳ね距離をとりつつ、【投石】、【投石】、【投石】!
しかし、無駄。
さすがゴミ頭。
腕を目の前にかかげて、ばっちり小石からお目々をガード!
多分【身体強化】がかけられているゴミ頭の太い腕には、私の【投石】があたっても傷一つつかない。
パ、パ、パァン!と、小気味よい音をたてながら小石がはじけ飛ぶ。
猛烈な勢いで私に近づくゴミ頭。
多分、追いかけっこしたら負ける。
【投石】は無効、脚力もあっちが上。
打つ手なし?
......そんなことは、ない!
私はズボンの左ポケットに手を突っ込む。
小袋を取り出し、中身をゴミ頭の顔面に向かって......ぶちまける!
「ぐッ......これはッ!?い......痛ェェーーーーーーッ!!?」
宙を舞う粉末がゴミ頭の目に入り込み、激痛を与える。
これぞ!今回の私の切り札!
さっき採取したばかりのショーマの実の粉末だい!
せっかく見つけたピリ辛高級調味料!それを!
味を確かめる暇もなく!武器としてゴミ頭に使用!
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう食べてみたかったァーーーーーーーッ!!
<ショーマの実はまた後で見つければ良いのです!エミー、今は......>
あいよっオマケ様!
下っ端はうずくまり、ゴミ頭は両目をおさえ立ち止まっている。
この隙に!
私はッ!
逃げるッッ!!!!!!!
勝手知ったるナソの森!一度距離さえとればこっちのもんだーい!!
わーーーーーーっはははははははははぁーーーーーーっ!!
◇ ◇ ◇
メグザムの両目から痛みが引き、ようやく動けるようになった時には、すでにあの無表情な黒髪の浮浪児はいなくなっていた。
やられた。
だしぬかれた。
あんな子どもに。
ナソの茂みがうっそうと生い茂る、日も傾き薄暗くなった森の中であれを見つけるのは、もう難しいだろう。
周りから聞こえるのは、チー、チー、という虫の鳴き声と、舎弟二人のうめき声。
火にかけておいた肉からは焦げ臭いにおいがする。
メグザムはただただ、呆然と立ちすくんでいた。
◇ ◇ ◇
はいっ!というわけで、無事逃走に成功したエミーちゃんだよ!
あのあと私は適度に【気配遮断】を交えながら、ゴミクズ村を目指し、走っていた。
<しかし、エミー。盗賊たちからの一時避難とはいえ、あの村に逃げ込むのはあなたにとっては危険なのでは?>
うん、まぁそれはそうなんだけど。
村人に見つかったら、今度こそケガじゃすまない目にあわされるかもね。
でも、ナソの森の拠点があいつらに奪われてしまった今、森で安心して過ごせる場所がないんだよなぁ。
それだったら、こっそり実家の屋根裏にでももぐりこんで寝泊まりしたほうが、よっぽど安全だと思うんだ。
あの酔っ払いゴミクズ男なら基本的に酒飲んで寝てるし、私が屋根裏にいてもまず気づかないでしょ。
もう縁を切ったつもりの村を頼るのは、なんかすごい悔しいけどさ!
もし盗賊が村に襲いかかってきても、トーチくんが軽くのしてくれるだろうし。
まぁ、彼絡みの事件が起きて、それに巻き込まれるっていうのも、すごく怖いけどさ。背に腹は代えられないっていうか......。
ってかさ、トーチくんだよトーチくん!あいつなんなんだよ!
あのゴミ盗賊たちは村を襲ったんでしょ?
なんで生きて帰すかなぁー?
お前がきっちり殺しとかないから私が拠点を奪われる羽目になったんでしょうが!
あーもうムカツクなぁ。
なんであいつのためにいつもいつも私が苦労しなきゃならないのよ?
<まあまあ。文句言ってもしょうがないでしょう?それよりも村が近づいてきましたよ。気配を消してください>
......うん、そうだね。
盗賊に襲われたあとだもん、村の警備もまた厳しくなっているはず。
とりあえず【気配遮断】して遠くから様子を見て、侵入するのはもっと夜がふけてからにしよう。
夕暮れ。
お日様はどんどん沈んでいく。
青かった空に、紫色が広がっていく。
私は森を抜け、小さな草原を越え、丘の上の木の陰に隠れて村の様子を見る。
今頃はきっと、夕食の準備中。
家々の煙突から煙が立ち上り、夕日をあびて橙色に輝いている......はずだった。
そう、はず“だった”。
でもそうなっては、いなかった。
唖然とした。
何故か?
結論から言うと。
村が、滅んでいた。




