150 前提となるお話
<さて、エミー。これからループのきっかけ......トリガーを探すにあたり、一つ前提となる、あなたに理解しておいて欲しいお話をしておきたいと思います>
どうにかしてループを解消すべく、オマケ様の言う“きっかけ”を探すため再びお屋敷に侵入しようと大きな玄関扉に手をかけた私に、オマケ様が声をかける。
そーっと、音を立てないように玄関扉を開けながら、オマケ様の話に耳を傾ける。
理解しておいて欲しい、前提?
<はい。それはこのループ現象、十中八九、自然に発生したものではない、ということです>
「は!?」
驚き、思わず声が漏れる。
慌てて周りをきょろきょろと見渡すが、この時間、玄関近くに人は誰もいないらしく、私の声を聴き咎め、近づいてくる存在はいなかった。
とりあえず誰かに見つからないよう、玄関扉を閉めてから壁を【紙魚】を使って登り、そのまま天井にはりつく。
このお屋敷の天井は無駄に高いので、とりあえずこれで床を歩く人間の視界からは隠れることができる。
で、ですよ、オマケ様。
このループが、自然に発生したものではないって?
<はい>
ということは、このループを引き起こしている、何者かが存在しているってこと?
<はい、そうですね。ループ現象が自然に発生することは無いとは言い切れませんが、その確率は極々稀です。時間を操っている何者かが存在していると、そう考えた方が自然です>
そんなこと、人間にできるの!?
<人間には、できませんね。おそらく>
............。
嫌な予感がするんだけど、オマケ様。
もしかして、その時間を操っている、犯人って......。
<神ですね>
........................。
私は天井にはりつきながら、思わず両手で頭を抱えてしまった。
またかよ!
また神かよ!
つまり、このループ現象って、神様が配信を撮影するために引き起こしているってこと!?
ってか、オマケ様。
さっきさ、カラシアとケランコのことを盗み聞きしているときにさ。
これは異世界転生配信の撮影である可能性は低い、みたいなこと、言ってなかったっけ?
<あの時はそう思っていましたが、ループ現象がからむとなると話は別です。このループ、きっかけはまず間違いなく神の余計なちょっかいです>
......はぁーーー............。
なんなんすかね、この世界の神様って。
本当、配信とか撮影しなくて良いから真面目に働いてほしい。
私みたいな無関係の人間を、自分のシナリオに巻き込まないで欲しい......。
<そしてですね、エミー。もう一つ理解しておいて欲しいことがあります>
え?
<それは、今あなたは“シナリオ”と言いましたが......その神の“シナリオ”は、既に破綻しているということです>
え?え?
どういうこと?
<エミー、さきほどカラシアが引き起こした惨劇を見て、どう思いました?>
え?
うーん、まぁ、酷い話だなとは、思ったけど?
<それが延々と繰り返されるだけの配信なんて、誰が視たいと思います?>
......確かに、見てて面白いものでは、ないよね?
<普通、“ループもの”というのは、時間のループが発生した際、『少なくとも主人公の記憶だけは前回から引き継がれる』というのが鉄則です。その記憶を参考に、前回のループとは違う行動をとることで、より良い未来を選択していくというのが、ループものの基本となるストーリーなのですから>
うん、言っている意味は、なんとなくわかる。
<しかしながらエミー、先ほどの惨劇のことを思い出してください......誰か、前回のループの記憶を持ち行動しているような人物、いましたか?>
いませんね。
いたらあんな惨劇を起こさないよう、うまく立ち回るよね?
<そうです。誰もループ前の記憶を保持していない。そのため、同じことがただ延々と繰り返される......ね?シナリオが破綻しているでしょう?>
どうしてそんなことに?
<多分、神が、主人公がループの際に記憶を保持できるよう設定することを、うっかり忘れていたんでしょうね>
うっかりミス!?
ん?
ってかさ、設定ミスをしたって言うならさ?
無駄にループなんかさせてないでさ?
神の力を使って、さっさと時間を先に進めれば良いんじゃないの?
<普通はそうします。使徒を動かすなり神託をくだすなりして、ループのトリガーとなる事象を回避させ、時間を先に進めます。しかし、それをしないということは......>
しないということは?
<使徒も、神託を受け取ることのできる人間も、その神は用意することなくループを発生させてしまったということです。つまりは完全なる準備不足です>
準備不足!?
<これらの事情から察するに、ループを発生させた神は、時間を操っている以上かなり上位の力を持った存在ではあったのでしょうが、配信者としては初心者だったのでしょうね>
はぁ......経験不足からくる準備不足が無限ループを生み出してしまったと。
その神様自身もきっと、今頃途方にくれているんだろうね。
<途方にくれるどころか、かなり弱っていると思いますよ?時間を操るというのは、相当な力を使いますからね。それなのに、無駄にループが繰り返されているわけですから、もしかすると今やその神は、力を吸いつくされて干からびかけているのかも......>
うわぁ、ループしてる人間も、巻き込まれた私も、ループさせている神も、誰もが得をしていない!
<しかしながら、エミー。あなただけはどういうわけか、今のところ記憶を保持したままループに巻き込まれています。これはチャンスですよ。神のポカミスで無限ループに囚われてしまった主人公に代わって、ループのトリガーを回避し、時間を前へと進めるのです!>
つまり今回私がやることは、アホな神様の尻ぬぐいですか。
「はぁ......」
そりゃ、ため息もでようというものですよ。
ただ、嘆いていても始まらない。
オマケ様の言うことが正しいのならば、確かにこの事態、どうにかできるのは私しかいない。
そしてどうにかしないことには、私もこのループから逃れることはできない。
......どうにかするしかない。
私は頬をパンと叩き、行動を開始した。
次回から探索を開始します。




