149 ループからは逃げられないみたい。でもループだって、私からは逃げられないんだからね?
お久しぶりです。
連休中は毎日更新の予定です。
「......ループ?」
オマケ様のつぶやきを、思わず繰り返す。
ループ。
その単語の意味は、知っている。
前世でも聞いたことがある。
<......はい。ループです、エミー。このお屋敷、時間が......時間が、繰り返されて、います>
「うふふ~!この指輪、本当にかわいい!透かし彫りされたトカゲさんが、とってもおしゃれなの~!」
「良かったわねぇ、ケランコ!」
「......ふふふ、ケランコお嬢様......その指輪は、大事にしないといけませんぞ?」
何をバカなことを言っているの、オマケ様。
......そう、笑い飛ばしてしまうことは、できなかった。
だって、お屋敷の中から盗み聞くことのできるクズ家族の会話は、先ほど聞いた内容と一言一句、変わらないんだもの。
それこそ、時間が繰り返されていると、疑う余地もなく理解させられてしまうほどに。
......時間が、繰り返す?
意味がわからない。
何それ?
それは、あまりにも、人智を超えた現象だ。
自分には、どうこうする手立てが、全く思いつかない。
殴って解決、できる問題ではないと思われる。
抗う術のない、どうしようもない理不尽。
この現象の背後に、意味の分からない大きな何かを感じ取り、思わず鳥肌が立つ。
<逃げましょう、エミー。このお屋敷から。今、すぐに>
オマケ様は真剣な口調を崩さず、私にそう提案した。
一応、理由を教えてくれる?
<おそらくですが、このループに捕らわれると、逃げられません。未来永劫>
逃げられない?
<そう、逃げられません。未来永劫、そう表現するのもおかしいですね。時間は先に進まず、未来は訪れないのですから>
ちょっと......うまくイメージが、できないんだけど......。
<......とにかく、延々と同じ時間を繰り返すことになります。あなたの迎えるはずだった未来はその全てが消え去り、先ほどの、クソみたいな惨劇を眺め続けることがあなたの人生のすべてとなります>
............。
私は、お屋敷に背を向け、靄の中を全速力で駆けだした。
だって、嫌だもの。
そんな人生、耐えられないもの。
<幸い、あなたは前回の出来事を記憶したまま、時間を繰り返したようです。これは、あなたがまだ完全にループに取り込まれていないことを、意味しています>
オマケ様の言葉を聞きながら、走る、走る。
空気中に漂う靄をかき分け、足元の雪を蹴り飛ばしながら、逃げる、逃げる、逃げる。
<まだ完全に取り込まれていない、今のあなたであれば、あるいは......!!>
オマケ様の声は、未だに固い。
それだけで、今回巻き込まれた現象が割とヤバイものなのだと、理解できてしまう。
結局のところ、酷いとは思うのだけど、私は私とオマケ様が一番大切だ。
私たちが生き延びるためには、何だって殺して食べるし、何もかもを捨ててでも逃げ出す。
だからこそ、今回だって、逃げるのだ。
そこには微塵も罪悪感はない。
多分、あのお屋敷の人たちのことは見捨てる結果になるのだろうけど、それがなんだ。
ただただ、生き残りたい。
未来に向かって、進んでいきたい。
その一心でもって、私はどこまでも続く靄と雪の中を走り続けた。
だが、しかし。
「............そんな......」
私は、目の前に広がる見たくもない現実を前にして思わずそうつぶやいた。
私はお屋敷に背を向け、全力で靄の中を走り続けていたはずだ。
それなのに。
それなのに気づけば私は、何とも、『奇妙』としか言いようのない外観をしたお屋敷の前に、立ちすくんでいた。
そのお屋敷の屋根は真っ赤。真っ赤っか。あと、窓枠とか、要所要所も赤く塗られている。
そして壁は真っ黄色に塗りたくられ、ところどころに赤い水玉模様が描かれている。
周りには真っ白な雪が降り積もっているだけに、その外観は異様に目立つ。
「やめなさい、ケランコっ!!」
「ひ、酷いわカラシアお姉様......乱暴なこと、しないで?ほら、私の手のひら、赤くなっちゃった......」
「まぁ!大変だわケランコちゃん!すぐにケガのお手当をしましょうね?」
「おいたわしや、ケランコお嬢様......」
聞きたくもない会話が、お屋敷の中から聞こえてくる。
つまり私は、逃げ切れなかったということだ。
再び時間が、ループしている......。
<......なるほど、距離をとれば逃げられる......そういうタイプでは、ありませんか......>
オマケ様が悔しそうにつぶやく。
逃げられなかった。
その結果が私の背中に重くのしかかり、私は思わず雪の上に両膝をつく。
......もしかして私は、一生このままなの?
いずれ、ループしている、そんな感覚すら失って、同じことを繰り返すようになるの?
なんなの?その人生。
<......エミー>
胸の中を、虚しさと絶望感が占めつくす。
普段、明るく楽しく心の中を取り繕っている私の理性的な部分が、どこかに消え去って。
......そして心の奥底から沸々と湧き出てくるのは、どうしようもない理不尽な現実に対する、怒りだ。
<......エミー!>
なんだよ。
何がループだ。
ふざけんな。
ふざけんな!
なんで私が、そんな訳のわからないものに、巻き込まれなくちゃいけない!?
なんで私のこれから先の未来を、そんな訳のわからない現象に、差し出さなくちゃいけない!?
嫌だ!嫌だ!!そんなの、嫌だ!!!
私の体から、普段は抑え込んでいる殺気がどす黒い魔力と共に漏れ出し、私のまわりに渦を巻き漂い始める。
<エミー!......エミー!!>
そんな私の様子を見て。
オマケ様は。
<素晴らしい......その意気ですよ、エミー!!>
そう、私を褒めてくれた。
............え?
<エミー、確かに私たちは、先ほどループから逃げ出すことに失敗しました。ですが......それは即ち、私たちがこのループ空間に完全に捕らわれてしまったということを、意味しません>
オマケ様は、優しく諭すように私に話しかける。
え?え?そうなの?
<はい。そうですよ?>
............。
私は、周囲にうずまく殺気と魔力を、引っ込めた。
あ、そう。
そうなんだ......。
なんか......勝手に勘違いしてキレて、ちょっと恥ずかしい......。
<走って逃げられない、であるならば、別の方法を試すだけですよ。物事には、“きっかけ”があるものです。それは時間のループという超常現象であれど、同じことです>
............あー......。
うん、そうなんだ。
そっかそっか。
よし......よし、切り替えよう。
切り替えた!
で?ということは、どういうことなの、オマケ様?
<つまり、ループの“きっかけ”さえ探し出して、それをどうにかしてしまえば......>
ループは、解除、される?
<その通りです。そしてそれは、未だ精神がループに捕らわれていないあなたにしか、できないことなのです!>
......そうか。
私は立ち上がり、膝についた雪を払う。
そして、奇妙な外観のお屋敷を、睨みつける!
わかったよ、オマケ様。
やってやろうじゃないの!
ループの原因を見つけ出して、この終わらないクソみたいな惨劇に、終止符を打ってやろうじゃないの!
この、私が!!
ループ現象!覚悟しておけ!
今から、私が......!
ぶっつぶしてやるからな!!!
<はい、エミー!私もこれまで異世界転生配信を視続けることで培ってきた、有り余る推理力で、あなたを全力でサポートします!一緒に頑張りましょう!!>
........................。
............苦戦は必須だなぁ......。
<なんですってー!>
ループ現象がエミーに敵認定されました。
今までとは毛色の違う相手(相手......?)を、どう攻略するのか?
頑張ってね!




