145 奇妙なお屋敷
......奇妙だね、オマケ様。
<奇妙ですね、エミー>
大雪原をあてどなくさまよっていた私こと、野生児系美少女エミーちゃん8歳。
そんな私の目の前に突如として現れたのは、何とも、『奇妙』としか言いようのない外観をしたお屋敷だった。
まず、屋根は真っ赤。真っ赤っか。あと、窓枠とか、要所要所も赤く塗られている。
そして壁は真っ黄色に塗りたくられ、ところどころに赤い水玉模様が描かれている。
周りには真っ白な雪が降り積もっているだけに、その外観は異様に目立つ。
<あぁ、いえ、この外観は確かに目立ちますが、それは別に良いのです。これはサンコリック様式といって、300年ほど前にこの大陸で爆発的に流行した建築様式なのですよ。現在でも、歴史ある建物で、時折見ることができます>
えぇ!?
じゃあこのお屋敷、歴史的建造物ってこと?
その割には、それなりに新しそうに見えるけど?
<きっと、維持管理をしっかり行っているのでしょうねぇ。そんなことよりも、エミー、私が奇妙と言ったのは、このお屋敷の立地条件についてですよ>
立地?
......周りに何もない大雪原の中、このお屋敷だけがぽつんとあるのは、おかしいってこと?
<はい、その通りです、エミー......もしかするとこのお屋敷、王族......いや、大富豪とかの、別荘かもしれませんよ?>
は?なんでそうなるの?
<これだけアクセスの悪い環境にお屋敷を構えているのです。もしかしたらこのお屋敷の持ち主は、転移魔法陣を所有しているかもしれないからです>
転移魔法陣?
<離れた場所をつなぎ、一瞬で移動を可能にする......わかりやすく言えば、魔法の力で作ったワープ装置でしょうか?それが転移魔法陣です>
へぇ!便利なものがあるんだねぇ!
でも、どうしてそれを持っているのが、王族だの大富豪だのって話になるの?
<とても珍しいものだからですよ。なにせ、現在の人間の技術で作成することは、ほぼ不可能であるとも言われていますからね。現在この世界に残されている転移魔法陣は、神が人に授けた“神造魔法陣”か、超古代魔導文明が栄えた時代に作られた遺物です。どちらにせよ、とてつもなく珍しいものであり、一般庶民がおいそれと所有、そして使用することのできるものでは、ないのです>
ちょ、超古代魔導文明!?
なにそれ!?なにそれ!?
<まぁ、それについてはおいおいお話しましょう。それよりも、せっかくお屋敷を見つけたのです。中にお邪魔しませんか?いい加減私、寒いんですけど>
うん、寒い。
それについては私も同意するよ。
私も強くなったし、以前大量に狩った狼の毛皮をもこもこに着込んでいるから、耐えきれない寒さというわけではないんだけどね。
でもさ、オマケ様......。
もし私があのお屋敷に「お邪魔しまーす!」って元気に侵入していったとして、どうなると思う?
<......明かりもついていますし、空き家だとか留守だとかというわけでは、ないようですからね......騒ぎに、なりますね>
うん。
私、黒髪黒目だから。
呪い子だから......。
<いや、それ以前に、今のあなたの恰好がやばいですね。多分、その姿で人前に出ていけば、『血まみれ毛玉マン』とかいう名づけを行われ、魔物認定されます>
ははは、こんな美少女を捕まえておいて、何を言っとるかね、オマケ様。
ぶっとばすぞ、こら。
ぶっとばせねぇけど!
まぁ、とにかく冗談はさておきですよ。
私はこのままお屋敷に入ることはできないね。
無駄な騒ぎが起きる。
<なら、どうしますか?>
私は、顔を横に向ける。
そこあるのは、お屋敷と同じように真っ赤な屋根と真っ黄色の壁を持つ、比較的小さな建物。
多分、これは倉庫だ。
この倉庫の中にちょっとお邪魔して、休憩をとらせていただくことにしよう。
<えー、お屋敷に侵入しましょうよー?そっちの方が絶対暖かいですよ?>
良いの、良いの。
余計なトラブルなんか、無いに越したことないんだから。
<良いじゃないですか、騒がれても!二度と騒げないようにしてしまえば!>
発想が怖いよオマケ様!
まったく、この方ったら、すぐ私を人類の敵に仕立て上げようとするんだから~......。
<だって、暖かい方が、良いじゃないですか~......>
はいはい、我慢我慢。
さっさと倉庫の中に入りましょうね!
もぎゅっもぎゅっと雪を踏みしめて倉庫の扉の前まで移動する。
倉庫はお屋敷に比べると若干小さくはあるものの、十分に立派な建物だ。
扉も金属製で大きく、なんだかちょっと物々しさすら感じる。
とりあえず、ちょっと中に入らさせてもらいますよ~!
えいっ。
......ズ、ズ、ズズズ......バキンッ!!......ギギギギギギギギ......。
私が少し力を込めると、低い音を響かせながら、金属製の扉はゆっくりと開いていく。
幸いなことに、扉にカギとかは、かかっていなかったみたいだ。
<いやいや、『バキンッ!!』って音、しませんでしたか?あれって、カギが壊れた音なんじゃ......?>
......オマケ様、やっぱりそう思う?
......ま、やっちまったもんは仕方がねぇな!
後でこっそり大きめの魔物でも狩って、お詫びにプレゼントしてあげよう。
さて、そんなことより、だ。
ちょっとお邪魔しますね~!
......ギギギギギギギギ......。
倉庫に侵入し扉を閉める。
この倉庫は石造りの建物で、派手派手な外観とは裏腹に、中にあるのは石畳と石壁だ。
天井近くの窓から注ぎ込む光が、がらんとした倉庫の中を照らしている。
<......何も、ありませんねぇ。てっきり、食べ物か何かでも、保管されているのかと思いましたが>
そうだねぇ、オマケ様。
まぁ、食糧保管用の普段使いの倉庫にしては、なんだか扉が物々しすぎたしね。
どういう用途の倉庫なんだろうね?
......ん?
<どうしました?エミー?>
うん、倉庫の隅......何かが光ったような気がしたんだよねぇ。
近づいてしゃがんでみると、そこに落ちていたのは大豆ほどの小さな鉱石の欠片だった。
摘まみ上げて、よく観察する。
ほんのり赤いその鉱石は、天井からの光を浴びて、きらきらと輝いている。
<あ、これ、魔鉱石ですね。さすがに種類までは詳しくわかりませんけど>
魔鉱石?
<地脈の影響を受けるなどして、魔力を浴び続けることで、魔力変質した鉱石のことですね。色々な魔道具の原材料になったりするんですよ>
へー。
その欠片が落ちているってことは、この倉庫はもともと、その魔鉱石とやらを保管しておくための倉庫だったってことかな?
<うーん、そうかもしれませんが......>
なんでこんな山奥の雪原の中にある別荘?に、そんな倉庫が必要なのかって、疑問が残るね。
<謎が深まりますねぇ......これは私の推理力が試される展開が、この先待ち受けているとでも言うのでしょうか......!?>
だとしたら、苦戦は必須だねぇ。
<なんですってー!>
あはは、冗談ですよオマケ様!
頼りにしてますって!
でもまぁ、私はちょっと休憩場所としてこの倉庫をお借りしているだけだし、この倉庫が何なのかとか、あのお屋敷がなんなのかとか、どうでも良いことじゃない?
<えー、でも気になります>
それなら......よいしょっと。
私は倉庫の石壁に背を預けて座り込み、目をつぶる。
集中する。
お屋敷の方を、意識する。
私は長い長い野山での生活、そして魔力変質を経たおかげで、とても鋭敏なスーパーファンタジー聴覚を手に入れている。
こうやって、集中しさえすれば......。
「......を、お願いね」
「......かしこまりました、それでは......」
「......お掃除が、また......」
ほら、この通り!
倉庫の中にいながらにして、隣のお屋敷の中の会話すら、聞き取ることができるのだ!
さすがファンタジー異世界だね!!
<さすがにファンタジー異世界でも、それをできるのは多分ごく一部ですからね?相変わらずのあなたの超人性には驚くばかりです>
ともかくですよ、オマケ様。
どうせ休憩中は暇なんだから、ここでお屋敷の中の様子をうかがいましょうよ。
<なるほど。会話を盗み聞きしていれば、私たちの疑問も氷解するかもしれないと、そういうことですね?>
そういうこと。
まぁ、暇つぶしだから、わかんないならわかんないままで良いんだけどね。
そんなこんなで。
私とオマケ様は、お屋敷の中の会話の、盗み聞きを始めた。
......その、次の瞬間だった。
お屋敷の中から、甲高い、ヒステリックな叫び声が聞こえてきたのは。
ちょくちょく出てくるオマケ様の邪悪さ。
この方もこの方で、色々と胡散臭い部分、ありますよね。
ただ、エミーの味方であるという、それだけは決して揺るぐことのない事実です。
そして何やら、お屋敷の方で事件が発生したようですね。




