144 ランラーシロトカゲを追って
第10章始めます。よろしくお願いします。
まずは導入部分を、毎日投稿します。
と言っても、そんなに長くはありませんが。
ビュオオオッ!!
絶え間なく吹きすさぶ強風。
猛吹雪により視界は非常に悪い。
辺り一面が、真っ白だ。
そんな中を、雪煙を巻き上げながらかなりの速度で走っていく、生物の群れが存在していた。
その生物の名は、ランラーシロトカゲ。
その名の通り、ランラーナンガ山脈の標高の高い降雪地帯に生息する、白いトカゲだ。
体長は、その太い尾も含めて1.5メートルほどであり、基本的に十数匹の群れを作って生活している。
雑食であり、食べられるものは何でも食べる。
彼らの生息地に足を踏み入れた人間は、当然彼らにとっては狩猟対象である。
故に、魔物認定されている。
しかし、トカゲである。
変温動物である。
何故、彼らはこのような、一面銀世界において活動することができるのか?
それは彼らが本能的に、巧みな魔力制御を行い、体温を維持することが可能であるからに他ならない。
見た目はまごうことなきトカゲであるが、その実ランラーシロトカゲは、魔力の存在を前提としたファンタジー生物なのだ。
このような生物は、この世界アーディストにおいては、さほど珍しい存在でもない。
そして、このランラーシロトカゲ、魔力により体温を維持するというその生態故、同じくらいの大きさの生物と比較すると、その身に含まれる魔力含有量は非常に多い。
だからこそ、彼らはこうして今、走っているのだ。
逃げまどっているのだ。
彼らのような、魔力を多く持つ生物を好んで食べる、恐ろしい捕食者の魔の手から!
ザシュッ!!
しかしその抵抗もむなしく、最後尾を走っていたランラーシロトカゲが、突如宙から降ってきた捕食者の腕によってその頭部を串刺しにされ、絶命した。
血があふれ出し、辺りの雪が真っ赤に染まる。
捕食者はその温かな血をこれ以上こぼさないよう、傷口に己の口を押し当て、ごくりごくりとその血を吸い上げる。
次いで、肉を食べ始める。
硬い鱗も、骨も、余すことなくぼりぼりと噛み砕き、その腹の中におさめていく。
その捕食者だが、それほど大きい生物ではない。
体長はランラーシロトカゲよりも小さい。
今や血によって真っ赤に染まってしまっているが、全身を覆う毛皮は灰色。
もこもこ、ごわごわとしたその外見は、遠目から見るとまるで大きな毛玉だ。
その毛玉から、2本の脚と2本の腕が伸びている。
もしこの厳冬のランラーナンガ山脈という過酷な魔境に侵入した命知らずの冒険者が見れば、間違いなく新種の魔物であると認定されるであろうこの生物は、しかしながら実のところ人間である。
灰色の毛皮を幾重にも身にまとっているが故に、外見上は毛玉状の謎生物と化してしまっただけの、少女なのだ。
その証拠に、毛玉の上部には、非常に整った顔立ちの少女の頭部が、ぴょこんと飛び出ている。
もちろん頭部にも防寒のためしっかりと毛皮が巻き付けられているが、そこから漏れ出る艶めく髪の色は、黒。
冷たく澄んだその瞳の色も、黒。
人間の世界では、“呪い子”と呼ばれ、忌み嫌われ、蔑まれる容姿。
その少女の名前は、エミーという。
◇ ◇ ◇
エミーは城塞都市リヒエドの近くで大量の暗黒魔狼と巨大なヒュージレッドボアを食べ終えた後、もはやその近辺には満足のいく量のお肉が生息していないと判断した。
そしてランラーナンガ山脈を、西へ西へと移動し始めた。
その道中、目につく魔物を片っ端から食らいつくしながら。
中には、現在のエミーでも死闘を演じざるを得ないほどの、強大な存在もいた。
特に強かったのは、金色をした巨大な熊だ。
エミーはその熊と一晩中戦い続け、最後には朝日に目がくらんだそれの首元を手刀で切り裂き、殺した。
非常に、おいしかった。
とにかく、そうこうしながらエミーはランラーナンガ山脈を移動していたのだが、ここに来て問題が発生していた。
それは、季節が冬になり、獲物の数が目に見えて減り始めたことだ。
それなりに温暖だったカイセの森では、直面することのなかった問題である。
そんな中、出会った獲物。
それが、ランラーシロトカゲの群れであった。
試しに狩ってみると、これがなかなかに美味である。
一匹たりとて逃がすまいと決めたエミーは、彼女に恐れをなし走り始めたランラーシロトカゲの群れの追跡を始めた。
ランラーシロトカゲの走行速度はかなり速い。
常人であればその群れを追いかけるなど不可能であるが、エミーの脚力とスタミナをもってすれば容易いことだ。
エミーは群れを追い回しては狩り殺し、それを食べてはまた追って......夢中になってそんな行動を繰り返しているうちに、気づけばこの雪原にたどり着いていた。
さて、ここはどこだろう?
最後のランラーシロトカゲを食べきり、エミーはそんなことを思った。
吹雪で視界は悪いが、周囲には木の一本も生えていない、そんな大雪原が広がっていることがわかる。
生き物の気配を感じ取れない一面の銀世界に一人たたずみながら、エミーは己の置かれた状況について、ようやく一つの結論をくだす。
あ、やべっ。
私これ、遭難してるわ、と。
呑気なものであった。
まあ、そもそも彼女は基本的に野山で生活しており、年中遭難中とも言えるような生活を送っている。
今さら、自分のいる場所がわからないからと言って、何を取り乱す必要があるのだろうか。
また、度重なる肉体の魔力変質のおかげで、彼女には自分がそう簡単に死ぬような目にあうとも思えない。
かつてに比べると、彼女はとてつもなく強くなった。
その強さが、自然の猛威を含めた様々な物事に対する彼女の態度をいささか、傲慢にさせていた。
「............」
さりとて、寒いものは寒い。
吹き付ける吹雪によって、あっという間に雪まみれになってしまった顔を手のひらでぱっぱと払ってから、エミーは歩き出した。
どこかに、吹雪を凌げる洞窟なんかが、あったりしないだろうか?
大岩の影でも良い。
風の当たらない場所で休憩して、吹雪がやんでからまた雪原を抜けるために動き出そうと、エミーは思った。
しかしながら、歩けども歩けども、大雪原である。
何もかもが雪に覆い隠され、どうにもエミーの希望に沿うような休憩場所が見当たらない。
これは、しょうがない。
穴でも掘ってそこで休もうかと、エミーが脳内の声、オマケ様と相談し始めた、その矢先のことであった。
突如として吹雪が止み、彼女の目の前に......奇妙なお屋敷が現れたのは。
現在のエミーの恰好は、真ん丸の毛玉から手足と顔が飛び出した、そんなコミカルな感じです。
本章は、この恰好で通します。
例えシリアス展開になったとしても、この恰好です。




