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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
9 魔王軍を食べよう編!
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137 オタマジャクシを一網打尽にしよう

<うふふ、いっぱいかかっていると良いですねー!>


うん!そうだねオマケ様。




今、私は朝もやかすむ山中を、スキップしながら歩いている。

いつも通り、表情は変わらないけど、心は弾むようにうきうきしている。


何故かと言えば、これから私たちは、昨晩のうちに川へ仕掛けておいた罠の様子を見に行くからだ!


<昨日食べたシトシラシマスは、とってもおいしかったですからねぇ!>




そう、昨日のことだ。

喉が渇いた私は沢に下りて、山中に流れる川に水を飲みにいった。

その時、その川に潜んでいた魔物、シトシラシマスに襲われたんだ!


シトシラシマスは体調30センチメートルほどのマスだ。

それほど大きくはないけど獰猛な性格で、縄張りに近づく同族以外の生き物には、相手が熊だろうが鹿だろうが人間だろうが容赦なく襲いかかってくるので、魔物認定されている魚だ。

あの鋭い歯で噛みつかれたら、普通の人間はひとたまりもないだろう!

的確に首筋を狙って噛みついてくるという知能も保有している、なかなか殺意の高い淡水魚だ。


<まぁ、あなたには文字通り、歯が立たなかったようですけどね>


うん。

しつこく私の首を狙ってきてさ。

わざと腕に噛みつかせてみたら、肌に歯形一つつけることができないのに、いつまでも噛みつき続けるんだもん。

さすがに鬱陶しくなって、逆に踊り食いしてやったぜ!

そしたらその身の、おいしいことおいしいこと!


<シトシラシマスがあんなにもおいしいなんて、知りませんでした!美食神の異世界転生配信では視たことがないので!>


もっと食べたくなった私は、一生懸命他のシトシラシマスを探したんだけど......ちらっと殺気を漏らしてしまったのが良くなかったのか、奴らめどこかに隠れてしまって見つからなかったんだよね。

そこでオマケ様の提案により、川に罠をしかけることにしたってわけ!




あ、罠といっても、そんなに難しいものではないよ。

その辺にいっぱい生えている蔦を編んで、網を作って、それを川に張っただけだからね。

網の作り方なんて知らないから結構適当に作ってあるんだけど、そこはほら、ここはファンタジー異世界ですよ。

私にはこれまで習得し、編み出してきた魔力操作的技法がある!

具体的に何をしたかと言えば、網に使う蔦には【凝固】をかけて強度を増して、蔦と蔦の重なる部分は【接着】によってしっかりとくっつけた。

かなり丈夫な網が出来上がったはずだ。

これらの魔力的効果、作ってる最中の私の感覚では1日くらいはしっかりと継続する感じがしたので、まだ壊れてはいないと思う。

ふふふ、これぞファンタジー漁法よ!




<うふふ、エミー。耳をすましてください。水の流れる音が聞こえてきましたよ>


あ、本当だ!

気づけば私は、罠をしかけた川のある沢にまで到着していた。

はやる気持ちを抑えながら、ごつごつした岩を足場にぴょんぴょんと飛び跳ねながら、沢の底を流れる川まで下りていく。




◇ ◇ ◇




<......まぁ、こういうこともありますって。そう気を落とさないでください>


......うん。そうだねオマケ様......。




今、私は清水流れる川の縁で、肩を落としながら輝く川面を眺めている。

いつも通り、表情は変わらないけど、心はどんよりと沈んでいる。


何故かと言えば、私がしかけた罠には、魚は一匹もかかっていなかったからだ。


<素人が考えた程度のしかけでは、そうそううまく事は運ばないということでしょうか。私がもっとまじめに漁業神の異世界転生配信を視ておけば、こんなことには......!>




ちくしょう!ちくしょうちくしょうちくしょう!

私のファンタジー漁法が......敗北したというのか......!?

苛立ちに任せて、その辺の黒く濡れた大岩を思い切り殴りつける!

大岩は大きな音をたてながら、粉々になって吹き飛んだ。


<ちょっとエミー!八つ当たりはやめてください!網にかかっていないだけで、近くにシトシラシマス、いるかもしれないじゃないですか!逃げちゃいますよ!?>


いーや、オマケ様。

やつらは既に、この辺にはいないね。

やつら、私に恐れをなして、縄張り捨てて逃げやがったね。

絶対にそうだ。


は!臆病者共め!

あのマスにはね、魔物呼ばわりされてるくせに、誰彼構わず見境なしに襲いかかるハングリー精神がない!チキン野郎共だ!


<チキンではなく、魚肉ですが。それに、勝てなければ逃げるというのは、生物として当然のことです。あなただって、そうでしょう?>


わかってるの!

そんなことはわかってるんだよ、オマケ様ッ!

これはただ、期待していた獲物を獲ることができなかった悔しさを、適当にマスを罵ることでごまかしているだけなのーーッ!!

悔しい悔しい悔しいーーーーーッ!!


殺気が漏れる。

漏れるというか、イライラしていた私は、もう全開で殺気を放出していた。

遠くで様子見をしていた小動物たちが、慌てて逃げていく音がする。


もはや、この沢に残っているのは私だけ。

ざあざあという川が流れる音、ざわざわというカークリーの木の葉がこすれる音だけが、私の耳に届く......。




............ん?


<あれ?何の音でしょうか?>




その時だった。

川上の方から......大きな音をたてながら、何かが......こちらに向かってきていることに気づいたのは!


「!?」


思わず川上を振り返ると、そこにはもの凄い勢いで川を下る、黒い影!

その影はどうやら小さい魚みたいのが集まってできた群れのようだけど、その数が凄まじい!

あまりに数が多くて、川面が黒く盛り上がっているようにも見える!


その群れは、全く勢いを減じることなく川を進み、私の仕掛けた網に......ぶつかった!


ミシミシミシッ......!


この聞こえてくる音は、私が網の端の蔦を縛り付けていたカークリーの木の悲鳴だ!

網自体は私の【凝固】と【接着】のおかげで損傷した様子はないけど......このままだと、木が倒されて網が流されちゃう!

させてたまるかッ!!


私は全力で【身体強化】をした後に、【飛蝗】!

瞬時に移動して川の両脇の木に縛り付けていた網の端の蔦をほどき、その両端を握りしめる。


手のひらにぐん、と感じる重み!

その重量がため、私が足場にして踏ん張っている岩に、ヒビが入り始めた!


両端の蔦を私に握りしめられた網は魚の群れを包み込み、黒い大きな球体状になっている。

私が丹精込めて作り上げた網だ。

あんな小魚共如きに食い破られるほどやわな出来ではないけど、このままではあの連中、きっと隙間を見つけてそこから逃げ出す!


逃がさないぞ!

一匹たりともッ!!

みんなみんな......私の獲物だッ!!!


「せいッ......りゃああああああああああッ!!!」


私は気合を入れて叫びながら、川に背を向け、背負い投げの要領で網を川から全力で引き上げた!

ざぱあああん!と大きな音をたてながら水面から飛び出す、網に包まれた黒い魚の群れ!

ひとまとまりの黒い球状になったそいつらは、しばらくふわりと宙に浮かんだ後に......川べりに思い切り叩きつけられる!


べちゃああああん!!!


水気を含んだ大きな音が響く!




どうだーーーーーーッ!!

これが私の網の、真の力だーーーーーーッ!!

ファンタジー漁業の、勝利じゃーーーーーーーッ!!


黒い球体は重力に従いその形を崩し、地面に広がっていく。


引き上げられた連中は、地面でぴちぴちと、跳ねている。

結構な勢いで地面に叩きつけられたと思うのに、まだまだ生きている。

打撃のような衝撃には、強い性質なのかもしれない。


<!!良く見てください、エミー!これは......魚ではありません!オタマジャクシです!>


オマケ様にそう言われ、私も初めてそのことに気づいた。

なるほど、たしかに。


この形状、よく見ると愛嬌のある顔立ち。


たしかに魚じゃない。

これ、オタマジャクシだね。

大きさは、握りこぶしよりも少し小さいくらいかな。

大きめだけど、びっくりするほど大きいというわけでもない。


<......え!?しかも、このオタマジャクシ......まさか......マッドタッドポール!?何故こんなところに!?何故こんな季節に!?>


え?

オマケ様が何やら驚いている。


その理由を問おうとした、その時だった!




ギロリ、と。




一斉に、睨みつけられた、そんな気がした。


浴びている。

私は今、凄まじい殺気を、浴びている。

その殺気の発生源は、地面でぴちぴち跳ねている、オタマジャクシ共。


なんだ、こいつら。


<エミー!こいつら、ただのオタマジャクシではありません!こいつらは、マッドタッドポール!危険な......魔物です!!>


オマケ様がそう警告を発したのと、ほぼ同時のことだった。

オタマジャクシ共は......マッドタッドポール共は......私に向かって......一斉に、飛びかかってきたのだ!!


「!?」


あまりにも突然の展開に、なすすべなくマッドタッドポールの群れに飲み込まれる私の体!

今の私の状態を横で見ている人間がいれば、きっと『人の形をしたオタマジャクシの群れ』に見えていることだろう!

奴らは私の肌に、その無数に生えた鋭い牙で食らいつく!

削るように、肌を食い破り、私の肉を食らおうとする!!


<マッドタッドポールは、人肉を好む恐ろしいオタマジャクシです!その食欲は凄まじく、マッドタッドポールの生息する小川に落ちた成人男性が、3秒後には骨になって浮かんできたというのは有名な話です!!>


............。


<............あー......>


............うん。


<......ですが、そりゃ、そうですよね>


魔力変質を重ね、強靭になっている私の肉体。

咄嗟に出力を増した、【身体強化】。

そしてそれらの、相乗効果。


結果として生み出されるのは、高い防御力。

マッドタッドポールの牙は、私の肌に、傷一つ負わせることが、できていない。

まぁ、少しちりちりとする感覚ぐらいは、あるかな。


<......マッドタッドポールは、オタマジャクシの割に長時間、しかも俊敏に陸上で行動出来て、一体一体のサイズが小さいから剣も当たりにくい。そして大量に群れる。討伐しにくい。そういう魔物ですからね。攻撃力自体は、そこまで驚異的なものではないと、そういうことですね。普通の人間であれば間違いなく肉を食い破られますし、鎧の隙間に入り込まれたらもうアウトなので、危険な魔物であることは間違いないんですがね>


今の私の敵では、ないね。

しょせんはオタマジャクシよ。




しかしながら、このマッドタッドポール。

知能が低いためかどうなのか知らないけど、一向に殺意が衰えない。

なんとしてでも、私を食らいつくしてやる。

そんな鋼の意志でもって、私の肌に牙をあて続ける。


無駄な努力だ。


でも。


私は認めよう!マッドタッドポール!

そのむき出しの敵意を!殺意を!生きる意志を!

お前たちは、確かに私の敵であると!!

しかし勘違いするな!

食べるのは、お前たちじゃない。私だ。

獲物は私じゃない......お前たちだッ!!


<オタマジャクシまみれが、何を恰好つけているんですか?>


お黙りオマケ様!

とにかく!マッドタッドポール!

私がお前たちに言うべき言葉は、たった一つ!




「......いただきますッ!!!」




私は私の顔にもまとわりついてくるマッドタッドポールを数匹まとめて......思い切り噛み砕いた!

途端に、口の中ではじけて、あふれ出るオタマジャクシの体液!

それはとても生臭くて、泥臭くて、決してうまいものではないけど、獲物に対する最低限の敬意として、私はそれを、無理やり、飲み込み......。




......あれ?




マッドタッドポールはまだまだ大量にいる。

もう一度、数匹まとめて食べる。




......あれ!?




マッドタッドポール。

こいつらは、オタマジャクシ。

どう見ても完全に、オタマジャクシ。

だからこそ、きっと生臭くて、泥臭い。

そんな味だと、思い込んでいたけれども。




......あれ。




全然そんなことないぞ?

むしろ、甘い。

少し苦いけど、良い香りもする。

前世の食物で、例えるならば、これは、そう......チョコレート。


このオタマジャクシ、おいしいよ!?

チョコレートの味がするよ!!?


<そうなのです!このマッドタッドポール......すこぶる美味なのです!故に、本来このオタマジャクシが生息するはずのイッカネー大陸に住まうアワンの人々は、毎年春先になるとこれらを捕獲するために小川へと出向き、食うか食われるかの熾烈な戦いを繰り広げるのです!!両生類神の異世界転生配信で視ました!!>


うわぁ~~~っ!

おいしい~~~っ!

私は夢中でマッドタッドポールを食べ進める。

私、お肉も好きだけど、甘いものも大好き!

だってほら、私って女の子だし!


<なんかかわいらしく言ってますけど、実際のところは己の肉を貪らんと欲するオタマジャクシを逆に貪る野生児ですが。字面は良くても絵面が酷いですよ>




数分後。

私に群がっていたマッドタッドポールを全て平らげた私は、カークリーの木々の葉から零れる木漏れ日を浴びながら、沢に転がる大きくて平らな岩の上に寝っ転がり、食事の余韻に浸っていた。

結局、あのマッドタッドポールたちは、最後の一匹になった時でさえ、逃げるという選択肢をとらなかった。

最後の一匹に至るまで、私と戦うことを選び、立ち向かってきたのだ。

恐ろしい、闘争心だった。チョコレート味だったけど。


「......ふわぁ」


この後すぐにまた空腹になるとは言え、一時的にはお腹が満たされた私を、眠気が襲う。

優しい川のせせらぎ、暖かなお日様の光が、それを助長する......。


<しかし......なんでまた、こんな所に、そしてこんな季節に、マッドタッドポールが......?>


オマケ様がなんか言ってたけど、私は完全にそれを聞き流していた。

たまには午前中からお昼寝ってのも、悪くないでしょう。

眠いんだもの。

寝ます。




おやすみなさい......。

なんだか無邪気に山の中で生きているエミーのこの感じ、少しだけナソの森に住んでいた頃を思い出します。

ランラーナンガ山脈は魔境ですが、リヒエドにも近いこの辺りは生息する魔物もまだまだ弱いです。

エミーにとってはとても過ごしやすい環境なのかも。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マッドタッドポールの美味しさが文中から伝わる事。 [気になる点] ミーハーでも知識が盛り沢山なオマケさまが知らなかったシトシラシマスの美味(´Д` )これ案外美食神が情報を絞ってんじゃない…
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