115 終了!魔境サバイバル!
エミーの全身全霊を込めた拳は。
彼女の怒りは。
溢れ出る殺意は。
黒龍の角膜すら、傷つけることはできなかった。
生き物としての、圧倒的格差。
それが如実に表れた。
神話の時代より生きる伝説にうちつけるには、たかだか7年ちょっと生きただけの人間の拳は、あまりに小さすぎたのだ。
しかし。
<<<おおお......>>>
しかし、黒龍は震えていた。
<<<おおおおおおおおおおおお......!!>>>
そして、涙を流していた。
先程の一撃。
小さな小さな人間が放った、精いっぱいの一撃。
彼の瞳すら害することのできない、彼にとっては取るに足らないはずの、一撃。
しかしながら、その一撃は。
その拳は。
その、人間は!
一瞬とは言えど、確かに。
確かに、確かに!!
彼を驚愕させた。
そして、確かに!
彼を、恐怖させたのだ!!
それこそ、彼が狂おしいほど待ち続ける者の、片鱗!
そう確信できるだけの何かが、先ほどの拳には込められていた。
<<<おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!>>>
黒龍は感動していた。
故の涙である。
まっすぐに落ちていく人間の体を、右手でふわりと、優しく受け止める。
人間の様子を観察すると、指一本動かせない、そのような状態だった。
ひゅうひゅうと肩で息をしている。
しかしその瞳には、未だ怒りの炎が燃えている。
殺気が溢れている。
生きる意志に、満ち溢れている!
<<<素晴らしい>>>
黒龍は思わずそう一言、呟いた。
<<<素晴らしい、戦いだった。人間、貴様、名前は何という?>>>
「............」
黒龍の問いかけに、人間は無言。
ただ、黒龍のことを睨みつけ続ける。
黒龍は、思わず苦笑した。
<<<オレの名は、ガザンギスト・オル・デオルトル。オルとでも呼べ。......人間、貴様の名前を、教えてはくれないだろうか?>>>
「......エミー」
か細い声で、人間はそう答えた。
<<<そうか、エミーか。それがオレの、運命のヒトの名前か>>>
黒龍は感慨深げにそう呟くが、エミーにとってはわけがわからない。
何言ってんだこの黒トカゲは?
こいつ、やっぱり頭おかしいんだな?
とか、そんなことを考えていた。
<<<しかし、うぅむ。よく見ると、貴様、まだ子どもではないか?むむ、時期尚早、うん、時期尚早であったのだな。はしゃぎすぎたようだ。すまなかったな、エミー>>>
黒龍はそんな感じで、『ちょっとやんちゃしちゃった!ごめーん!』的な謝罪をエミーに対して行った。
エミーはむかついたが、それに対するアクションを起こせるほど体力、魔力共に残ってはいなかった。
故に、ただただ黙ってその謝罪を受け入れた。
<<<謝罪と、その小さな体でオレを楽しませてくれた、褒美だ。受け取ってくれ>>>
そういうと黒龍は、おもむろに己の左腕の指を一噛みした。
真っ黒な血が溢れ、滴り落ちる。
黒龍をその血を、エミーの口に注ぎ込んだ。
「......ッ!?」
その途端、エミーの全身に激痛が走る!!
「ガッ!?ア、アアア、ガアアアアアアアアアアッ!!?」
その痛みのあまり、エミーは黒龍の手のひらの上で叫び、のたうち回る!
黒龍の血。
そこに含まれるは、人智を越えた膨大な魔力。
例え一滴と言えど、常人が取り込めば、そのあまりの魔力量を受け止めきれず、肉体が、魂が破裂し死に至るであろう劇毒。
しかしながら黒龍は、このエミーという小さな人間が、その程度で死ぬ魂の持ち主ではないと、確信していた。
暴れくるう龍の血すらも従えて己の力とし、さらに強靭、強大になって再び立ち上がる。
そう確信していた。
「アアアアアアアアアアッ!!ア、ア、アアアアアアアッ!!」
<<<エミーよ、強くなれ>>>
己の手のひらの上でもがき苦しむ少女に向かい、黒龍は慈愛に満ち溢れた優しい笑顔で語りかける。
「アアアアアアアアアッ!!アアアアアッ!!ア、アアッ!!」
<<<世界を巡れ。そして世界を食らえ。そして最後には、オレを食らえ。見事、オレを殺しきってみせよ。貴様はもう、オレのものだ。次は貴様が、オレを、貴様のものとせよ>>>
「アアアッ!!アア......!ア......アアアアア......」
<<<オレは待った。永きに渡り待ち続けた。故に......まだ、後、数千年程度であれば、待ち続けよう。貴様がこのオレを、殺せるほどに強くなる、その時を>>>
「ア......!ア......ア、ア......」
<<<エミーよ、強くなれ>>>
「............」
エミーはもはや、身じろぎ一つしない。
白目をむいて、気絶している。
しかし、死んではいない。
その様子を見て黒龍は満足そうに一つ頷くと、近くを流れる川、ジャコーベ川へ向けて、エミーをぽいっと投げた。
数十メートルの高さから落とされたエミーの体は、轟音をたて流れる茶色い濁流にのみ込まれ、すぐに見えなくなる。
この川の先には、人の世界が広がっている。
ひとまずは、そこに戻り、体を休めると良い。
黒龍は、穏やかに微笑んだ。
そして川の流れゆくその先を、じっと、いつまでも眺め続けた。
第7章はこれでおしまいです。
「なんか、最近主人公が強くなったから、苦戦しないなぁ」→「よっしゃ、世界最強格の神話生物と戦わせちゃろ!」
......という、作者の戦闘力バランス調整の下手さというか、頭の悪さが露呈した章でした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、評価のお星さま、感想、レビュー......どれも大変嬉しく、ありがたく思っています。
第8章が全部書きあがったら次話を投稿しますので、それまでは少しお休みです。
次回更新は、1月16日(土)を予定しています。
今後とも、『オマケの転生者』をよろしくお願い申し上げます。




