103 【神々のお話⑤】冒険神ドーラントス
「『ね?冒険神様?』じゃねーからッ!!」
ここは神界。
口周りに茶色い髭を生やした冒険神ドーラントスは、下界の映像を映し出す額縁型デバイスを思わず殴りつけた!
ドォン!
彼の神域......彼がかつて、冒険者ギルドの初代総帥として活動していた時の執務室を再現したその空間が、あまりの威力に震える。
「ちょっと!ドーラントスさん!?うるさいんですけどッ!?」
「あ、す、すみません!」
どうやらお隣の神域にもその音が聞こえていたらしい。
ひょっこりと彼の神域に顔をだしたお隣さん......言語神バマパーマに怒られてしまった。
ドーラントスは平謝りだ。
彼は冒険者を取りまとめるモノとして千年近く前に神になったが、まだまだ下っ端の下級神。
言語神は眼鏡をかけた青髪の幼女といった姿をとっているが、そんななりでも何万年も神をやっている大先輩である。
お説教に飽きて言語神が彼の神域を出ていくまで、幼女にぺこぺこ頭を下げ続けるおっさんの姿がそこにはあった。
......さて。
言語神が退域したのを確認し(大分茶菓子を強奪された)、ドーラントスは再び額縁に向き直り映像の確認を再開する。
そこに映し出されるのは、彼が加護を与えた転生者ミトランが、冒険者としての一歩を踏み出す姿......になるはずであった。
しかし、そうはならなかった!
突如冒険者ギルドに現れたカマッセとかいう少年が、極めて常識的な主張のもと、ミトランを親元に連れ帰ってしまったのだ!
(こんな展開は予想していなかったんだが!?)
ドーラントスは頭を抱える。
彼はミトランを転生させる際に“運命の確認”を行い、ミトランがどのような人生を送るのか確認済みである。
その際に確認した運命によれば、ミトランはこの日、田舎村を飛び出して冒険者登録を行い、偉大な冒険者への第一歩を踏み出すはずであった。
(だが、この、カマッセとかいうガキが邪魔しやがった!)
ドーラントスはパラパラと手元の手帳をめくる。
これは、ミトランの“運命帳”。
事前に確認しておいたミトランの運命が端的にまとめられた一冊。
(......むむ、カマッセは......完全なイレギュラー存在、というわけではないな......?)
“運命帳”を確認してわかったことだが、もともとの運命でも、この日カマッセはソンドルの町の冒険者ギルド出張所にて、ミトランと出会う予定であった。
(だが、しかし......ミトランに対するカマッセの態度が、あまりにも、予定と違う......)
事前確認では、この日ミトランに出会うカマッセは自分の力に増長し、調子に乗って、『これは冒険者登録のための試験だ』などと言ってミトランに剣を向ける......。
そんな、端的に言えば嫌な奴であったはず。
そんでもってミトランの返り討ちにあって、ボコボコにされる。
そう、カマッセはミトランのカマセ犬であったはずなのだ。
それなのに!
(なんでだよ......実際のカマッセ、普通に良い奴じゃんかよ......)
口調こそ荒っぽいものの、カマッセは年下の子どもに剣を向けるなどという非常識な真似はせず、極めて常識的な対応を行った。
ちなみに、事前確認ではカマッセの冒険者等級はこの時点では4級であったハズが、3級にあがっている。
これまでのカマッセの人生において、事前に予測していた運命とは異なる事象が発生して、カマッセの行動に変化が生じたのだろう。
(まぁ、それ自体は良いさ。質の高い冒険者が増える。それ自体は、良いことさ)
冒険者に対する人々の期待や信頼。
そういったものが冒険神ドーラントスにとっては信仰と同じ意味を持つものであり、彼の力の源なのだ。
現在のカマッセは、見たところかなり優秀だし、伸びしろもある。
ミトランの“運命帳”を確認すると、もともとカマッセはミトランに敗北した後それを自分の中で認められず、己の強さを証明するため無理な依頼に挑戦し、凶悪な魔物に体を引き裂かれその人生を終える予定だったのだ。
しかし、実際にはそうはならないだろう。
カマッセはきっと、このまま成長を続ける。
特級冒険者くらいには、簡単に手が届くだろう。
それ自体は、喜ばしいことなのだ。
頑張れ、カマッセ。
君の行く末に、幸あれかし!
(だけどよぉ......ミトランの方は、どうするよ?)
彼の様子を観察するに、冒険者に対する興味を失ったわけではないらしいが、おそらく村からの旅立ちは相当先延ばしされるだろう。
最終的に冒険者になってくれるのならば、ドーラントスの本来の目的......『転生者に加護を与え、超優秀な冒険者を作り出し、己の力を増強する』という目的は達成される。
しかし。
(このままだと、配信のシナリオが大幅に狂っちまう)
そう、冒険神ドーラントスはミトランの人生を撮影して、異世界転生配信を行う予定だったのだ。
(特に、ミトランがこのまま旅立ちを先延ばしにしちまうと、メインヒロインとの出会いイベントがお流れになっちまう。それだけは避けたいんだがなぁ......)
ドーラントスは頭を悩ますが、一向に良い案が浮かんでこない。
自分の使徒を動かすことも考えたが、だめだ。
ドーラントスの使徒には現在、冒険者ギルドの運営に携わってもらっている。
そちらも決しておろそかにはできない以上、使徒を使うのは、無しだ......。
と、ここで。
ドーラントスの耳元に、ガチャリと扉の開く音が届いた。
「おーい、ドーラントスさん。ちょっと失礼するよー!」
ノックもせずに突然、お隣さんである言語神バマパーマが再び入域してきたのだ。
「ねーねードーラントスさん。さっきの茶菓子、凄いおいしかったねー?私、アレまだ食べたい。ちょーだい、ちょーだい!」
青髪眼鏡幼女はそんなことを言いながら、椅子にもたれて考え事をするドーラントスのまわりをうろちょろし始めた。
「もー、なんで無視すんのー?考え事ー?ぷん!なら良いもんね。私、勝手に探しちゃうもんね!」
そう言って、勝手にヒトの神域の戸棚をあさり始める幼女。
「あれー?ないよ?ないよ?茶菓子どこー?」
戸棚の中から物を引っ張り出し、その辺に散らかし始める幼女。
「ねー、どこー?茶菓子どこー?教えて教えて教えてー!」
ドーラントスの座る椅子をガタガタ揺らし、茶菓子のありかを聞き出そうとする幼女。
「......っだぁーーーーーーーーーーッ!!うるっせーーーーーーーーーーッ!!こちとら考え事しとるっちゅーんがわからんのかいこのボケナス幼女がぁーーーーーーーーーーッ!!!」
さすがにぶちギレて幼女に怒鳴りかかるドーラントス!
「アァッ!?テメェ大先輩に対してどういう口のきき方してんだコラァーーーーーーーーーーッ!!?」
そして逆ギレする幼女!
幼女は喧嘩っ早い性格であり、すぐに手が出る!
幼女の小さな右拳は次の瞬間には音すら置いてけぼりにする速度でドーラントスの左頬を打ちぬいていた!
幼女は大先輩なので、ドーラントスと比べるとかなり強い!
理不尽にぶん殴られたドーラントスは勢いよく吹き飛び、神域の壁を突き破り、どこか遠くに消えていった!
「......あっ!茶菓子だ!」
破壊された神域の壁。
その近くにあった、同じく破壊されたまだ調べていなかった戸棚から目的の物が転がりだしているのを見つけ、満面の笑みでそれを拾い上げた幼女はスキップしながら自らの神域へと帰っていった。
おやつがみつかって、よかったねバマパーマ!
というわけで。
カマッセはエミーと出会い成長したことで“鼻持ちならない高慢エリートかませ犬”という役割から逃れ、その命を未来へとつなげることができたのでした。
この辺で、第6章は終わりです。
次は第7章。
1月1日から更新予定です。
などと次章の告知をしつつも、今章はあと1話分更新があります。
夜に更新予定です。
だけど今のうちにご挨拶をば。
この『オマケの転生者』という素人小説を発見し、読んでいただきまして、本当にありがとうございます。
ブックマークしていただいたり、評価していただいたり、感想をいただいたり......。
凄くうれしいです。
これからも、お付き合いいただけると幸いです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
良いお年をお迎えください。




