102 【冒険者ミトラン】冒険者登録
「あぁ!?テメェみたいなガキが冒険者登録だぁ?」
「やめとけやめとけ!狼に食われて死んじまうのがオチだ!」
「いや、こんなひ弱そうなチビガキだぜ?狼どころじゃねえ、チワンワンにすら食い殺されんじゃねえの?」
「違いねぇ!」
「「「「ギャッハハハハハッ!!!」」」」
......こんな風に、真昼間から酒臭いおっさん共に囲まれているボクの名前は、ミトラン。
冒険者志望の男の子、7歳!
まぁ顔のせいで、たいていは女の子に間違われたりするんだけど、それはさておき。
ここは、荒くれ冒険者共(周囲の酒臭くて小汚いおっさん共のような連中)が集う場所、ソンドルの町の冒険者ギルド出張所。
7歳児が足を踏み入れるには、ちょっとためらうこの場所にボクがやってきた理由。
それは、さっきおっさんAが言っていたように、ボクが冒険者登録をするためだ!
冒険者というのは、危険な職業だ。
様々な脅威の潜む広大な領域を探索し、素材を採取し、魔物を討伐する。
そんな仕事だ。
普通なら、こんな7歳の小さな男の子がやるような仕事ではない。
普通ならね!
だけど、ボクには自信があった。
冒険者として活躍して、そして成りあがっていける自信が!
何故なら、ボクは。
異世界転生者だからだ!
◇ ◇ ◇
ペーっていう、適当な名前の農村の零細小作農家の四男坊として生まれたボクが、『自分は異世界転生者である』と自覚したのは、ついさっきのことだ。
あの時、ボクはアニキたちと喧嘩していた。
きっかけは些細な事。
ボクがうっかり一番上のアニキの足を踏んでしまったんだ。
それがきっかけで、喧嘩になった。
ポカリと、頭を殴られた。
そしたら、思い出したんだ!
前世の記憶を!
そして、転生する時に出会った、神様のことを!
その神様は、自分のことを“冒険神”と名乗っていた。
お髭が似合う、ワイルドなおっさん風の神様だった。
その神様はボクに言った。
『力を授けるから、冒険者となって活躍してほしい』と。
なんでも、ボクが冒険者になって活躍して、人々の冒険者に対するあこがれが大きくなると、おっさんの力も強くなるんだとか。
え、何、自分のため?
世界を救ってほしいとか、そういうんじゃないの?
そんなことを思ったりもしたけど、まぁ力をくれるってんならそれでも良いかって思って、ボクはその神様の申し出を了承したんだ。
神様は『強い冒険者は良いぞ。すげぇモテるぞ』って言ってたし。
ボク、前世では“荒谷 新太”っていう名前だったんだけど、ちょっと小太りで容姿には自信がなくて、女の子とは縁遠い生活をしていたからね。
ついつい、高速で首を縦に振ったよね!
まぁ、とにかくだよ。
そのことを思い出した次の瞬間には、体中にえもいわれぬ力が漲っていたんだ!
すぐにアニキたちをボコボコにし返してそのまま家を飛び出したボクは、その足で隣町にあるこの冒険者ギルド出張所までやってきたのだ!
◇ ◇ ◇
で、だ。
ギルドの受付のお姉さんに冒険者登録を申し出たところで、まわりの小汚いおっさん冒険者どもに絡まれて、囲まれているってわけ。
これは、アレだね!
お約束の展開ってやつだね!
ボクも前世では異世界転生物の作品をたしなんでいたからよくわかる。
これはボクが無自覚に自分の力を振るい、おっさん共を軽くのした上で、あまりのあっけなさにきょとんとする場面だな!
「おい、てめぇら!何やってやがる!」
しかし!
ボクがおっさん共を片付けてしまおうと体に力を込めたその瞬間、ギルド出張所の入口の方からそんな声が響いたんだ!
「ちっ!銀髪のガキ......3級冒険者のカマッセか」
「やっちまいますか?アニキ」
「いや、あんなナリだが、奴の実力は確か。返り討ちにされちまう」
「あのエリート相手じゃ分が悪いな。ここは退くぞ......」
そんなことを言いながら、おっさん共は後ずさり、ボクから離れていった。
視界を遮る小汚いものがなくなり、見通しが良くなったギルド出張所内。
ボクは声の元、ギルド出張所の入口の方に顔を向ける。
そこに立っていたのは、銀髪の少年だった。
多分前世で言うと中学生くらいの年齢で、まだまだ成長途中といった風貌。
美しい銀髪、切れ長の目を持つイケメンだけど、なんだかその整った容姿からは冷たく高慢な印象を受ける。
「おい、ガキ......てめぇはこんな所で何してやがる。ここはガキの遊び場じゃねぇぞ」
銀髪の少年......おっさん共はカマッセって言ってたっけ?
カマッセはそんなことを言いながら、今度はボクを睨みつけてきた。
この人は......強い!
さっきのおっさん共とは比べ物にならない!
視線の圧でそれが理解できた。
だけど、神様から力をもらったボクの敵ではない。
再度体に力を込めて、ボクは負けじと言い返す!
「遊びに来たんじゃないよ!ボクは冒険者登録に来たんだ!」
「んだとぉ......!?」
その言葉を聞いて、カマッセの圧がさらに強くなる!
もうボクは、ピンときていた。
これは、アレだ。
ボクがカマッセと戦う流れだ!
さっきおっさん共は、このカマッセのこと、エリートって言っていた。
つまり、エリートであるカマッセは、どう見ても貧乏な農家の子ども風のボクが冒険者になるっていうのが気に食わないわけだ。
で、身の程を教えてやるとか何とか言って、ボクに襲いかかるけど、返り討ちにされる。
ボクが高慢ちきなその鼻を折って、エリートの面目を丸つぶれにする軽いざまぁが展開される。
そんな流れのハズだ!
「てめぇ!ふざけてんじゃねぇぞ!!」
そう言ってカマッセはボクに手を伸ばす!
きたきた!
でもすぐには反撃しないよ!
ここは一発殴らせる。
正当防衛を成立させるには必要なことだ。
どうせボクの体は神様の力が満ち満ちているから、痛くもかゆくもないんだし。
......だけど。
そこから先の展開は、ボクの予想と大分違っていた。
カマッセが伸ばした手は、ボクの頬を打つわけではなく、かといって腹を叩くわけでもなく......優しくボクの肩の上に置かれた。
「おい......てめぇ、出身はどこだ?」
「......え?えっと、ペーだけど......」
「隣村か......その格好を見るに、てめぇは農家さんの息子さんだな?ちゃんとした服は着ているし、親から虐待を受けて逃げ出してきたとか、そういうわけじゃねぇな?」
「あ、う、うん......」
「それでいて、荷物がない。着の身着のままといったその様子......さてはてめぇ、アレだな?家族と喧嘩かなんかして、家を飛び出してきたな?」
「え、えっと......まぁ、大体そんな所かな......?」
「バカ野郎ッ!!」
カマッセは目を見開き、怒る!
ボクの肩を掴むその手に力が入り、その体から発せられる圧が強くなる!
「勝手に家を飛び出して、冒険者になりたいだぁ!?ふざけんじゃねぇ!!親御さんの気持ちを考えろ!!急にてめぇがいなくなって、どれだけ心配していると思う!?」
え、えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?
カマッセ常識的ッ!!
常識的お説教が始まったんですけどぉーーーーーッ!?
「ほれ、ついてこい!オレがペーまで送り届けてやる。腹減ってないか?屋台で串焼きでも食うか?遠慮するな、それくらいおごってやる」
「え、えっと、えっと?」
◇ ◇ ◇
その後、有無を言わせぬカマッセの押しに負け、ボクは彼に手を引かれてペーの村まで戻ってきた。
道中、カマッセからはいくつかお話を聞いた。
彼にはどうしてもまた会いたい女の子がいて、その子を探しながら、行く先々で冒険者として人々を助けながら、旅をしているんだって。
その子が好きなの?って聞いたら、顔を真っ赤にしながらコツンと殴られた。
好きらしい。
あ、あとちゃんと串焼きをおごってもらった。
おいしかった。
家に帰ると、両親はボクが見つかって泣いて喜んだ。
勝手に出ていったのは......本当に良くなかったなって反省した。
アニキたちにも謝って、仲直りした。
喧嘩は良くするけど、ボクたちはけっこう仲の良い兄弟なんだ。
その様子を見届けて、カマッセは満足そうに微笑むと、礼も受け取らずソンドルの町まで帰っていった。
で、現在。
ボクは両親やアニキたちと一緒に畑を耕している。
うちは小作農だ。
継ぐべき畑もない。
だからもっと大きくなって、独り立ちする年齢になった時......。
その時にこそ、ボクは冒険者になろうと思う。
ちゃんと両親やアニキたちに挨拶をしてから、ね。
それまではちゃんと親孝行をしよう。
家族との時間を大切に過ごそう。
そう、思ったんだ。
それくらい、別に許してもらえるでしょ?
ね?冒険神様?




