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第1章 「作戦名『吸血チュパカブラ駆除作戦』!」

 日曜日に当直シフトが入るというのは、どこの業界でも、あんまりありがたくはない事みたいだ。

 遊びたい盛りの若い警察官や消防隊員や自衛官の人達も、民間人の友達や恋人との予定を合わせやすい土日に休みを取りたいらしい。

 しかし、若手の人達はそんなに階級が高くない事が多いので、先輩や上官に遠慮して土日に当直に入る事が多いみたいだ。

 その辺りの事情を、作戦で一緒になった若い自衛官や警察官の人達が愚痴っているのを、よく耳にするよ。


 こうして今、支局のオフィスで報告書を作成している私にも、そう言う気持ちが全くないのかと聞かれたら嘘になってしまうね。

 特命遊撃士(とくめいゆうげきし)として人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に配属されている私こと、この吹田千里(すいたちさと)准佐だって、現役の女子高生である事に変わりはないんだから。

 シフトの入っていない明日の月曜日には、堺県立御子柴高等学校の1年A組の教室で、授業を受けたり、友達と雑談をしたりと、同年代の一般人の子達と大差のない日常が待っている。

 まあ、スクランブル出動がなければの話だけどね。


 友達の枚方京花(ひらかたきょうか)ちゃんという少佐は、今日は前々から行きたかった特撮ヒーロー番組の主役俳優のサイン会のために、有給休暇を使っている。

 私達の場合、新米の警察官や自衛官や消防隊員の人達よりは、ある程度は土日の休暇取得に融通が利くけれど、あまり乱用すると本当に休みたい土日に休めなくなるから、ここぞと言う時に使わないといけないね。

 私の憶測だけど、京花ちゃんは今日の埋め合わせのために、他の土日に当直する事になると思うよ。

多分だけどね。


「ふう…」

 軽く吐息を漏らした私は、端末のモニターから視線を逸らし、小刻みに首を数回振りながら、気分転換とばかりに窓に目をやる。

 支局ビルのこの窓からは、南海高野線の堺東駅がよく見えるな。

 堺東駅の別名は「堺県庁前駅」だけど、人類防衛機構の堺県第2支局ビルの方が位置的には近いから、「第2支局前駅」にしても良さそうなのにね。

 県庁所在地の最寄駅だし、デパートの「高鳥屋(たかとりや)」の堺東店が併設されているから、規模が大きくてよく目立つね。

 天気の良い日曜だけど、高鳥屋の屋上遊園地とペットショップは、相も変わらずに(ひな)びているな。

 レトロなアーケードゲームや自販機が揃っているから、そういうマニアの人達の聖地にはなっているみたいだけど。

 気が向いたら今度、あそこのテーブル筐体で「アストロエイリアン」をやってみようかな。懐古趣味を気取ってね。

 中学生時代の私のお父さんは、屋上遊園地の自販機で買ったトーストやハンバーガーを、「アストロエイリアン」の順番待ちに食べるのが大好きだったみたいだけど、さすがに順番待ちまでは真似出来ないだろうね。

 だって、順番待ちする程のお客さんなんて、今はいないんだもん。

 皆が皆、懐古趣味の物好きじゃないからね、残念ながら。


「う~ん…」 

 グリグリと首を回すのに合わせて、ツインテールに結った私の黒髪もその位置を変えていく。

 私が首を反らせると、肩の辺りで大人しくしていたツインテールが、白い遊撃服を飾る黒いセーラーカラーに引っ掛かる。

 それを元の位置に戻したら、セーラーカラーの襟元を飾る赤いネクタイが緩んでいる事に気付いて、また締め直す。

 すると、今度は腰の黒いベルトと黒いニーハイソックスの微妙なズレが、どうにも気になってくる。

 いけないなあ…

 もう一息で報告書が仕上がるのに、集中力が途切れちゃう。


「千里さん、報告書の進捗具合はいかがですか?」

 私が着ているのと同じ、白い遊撃服と黒いミニスカに身を包んだ茶髪のロングヘアーの子が、私のデスクに歩み寄って来た。

「もう少しで終わるよ、英里奈ちゃん。」

 この、少し内気で気弱な御嬢様風の茶髪の子は、生駒英里奈(いこまえりな)ちゃん。

 私と同じ堺県第2支局配属の特命遊撃士で、階級は少佐。

 御子柴高等学校1年A組だから、私のクラスメイト。

 そして、私の大切な親友の1人でもある。

「そうでしたか。(わたくし)とマリナさんは先に提出致しましたので、こちらで待たせて頂きますね。千里さんが報告書を提出されたら、共に家路を辿りませんか。」

 そう言う英里奈ちゃんは、通学カバンを右手に下げて、個人兵装であるレーザーランスを収納した黒革製のショルダーケースを左肩にかけている。

「もう帰り支度が出来ているんだ。ペースを上げた方がいいかな?」

 私は黒いツインテールを左手で弄りながら、英里奈ちゃんに応じた。

 そう言う私も、デスクの左には通学カバンをかけ、足下には個人兵装であるレーザーライフルを収納したガンケースを置いている。

 これでも一応、提出して帰宅する目処は大体立っているんだ。



 すると、左の頬に固くて冷たい感触。

「ん?」

 水滴がついているから、拳銃とかの類じゃないね。

 首を捻って向き直った私に、私や英里奈ちゃんと同じ遊撃服に身を包んだ人影は、私の頬にあてた冷たくて固い塊を差し出した。

「おっ、これは…」 

 私の左手にすっぽりと収まった銀色のアルミ缶には、ベルギー産ビールのロゴが印刷されていた。

 言い忘れちゃった事だけど、人類防衛機構に所属する「防人の乙女」である私達は、未成年でも飲酒が認められているんだ。

 私達に投与された生体強化ナノマシンは、アルコールで活性化して、ダメージや疲労の回復を早めてくれる性質があるんだ。

 だから、支局内で勤務中に飲むのも問題無し。

 もっとも、一般生徒の子達が羨ましがると可哀想だから、さすがに高校の中では自重しているけどね。

 くれぐれも、人類防衛機構に所属している私達だから、いいんだよ。

 一般人の子達は、成人年齢に達してから飲酒を楽しんでね。

「缶ビールか…脅かさないでよ、マリナちゃん…」

「そいつを飲んで勢いをつけて、報告書を片付けちゃいなよ。」

 右側頭部でサイドテールに結った黒髪が印象的な少女が、アルミ缶を受け取った私に笑いかけてくる。

 この、黒髪を右サイドテールにして、少し長めの前髪で右目を隠したクールな立ち振舞いの子は、和歌浦(わかうら)マリナちゃん。

 私や英里奈ちゃんと同じ堺県第2支局配属の特命遊撃士で、階級は少佐。

 御子柴高等学校1年B組。

 さっき名前だけ出した枚方京花ちゃんのクラスメイトであり、親友でもある。

 勿論、私や英里奈ちゃんにとっての親友でもあるよ。

 よく見ると、マリナちゃんも手に通学カバンを下げている。

 私や英里奈ちゃんと違って、荷物が通学カバンだけで済んでいるのは、マリナちゃんの個人兵装が大型拳銃で、遊撃服の中に下げたホルスターに入れているからなんだ。

「よし!それじゃ、チャッチャとやっちゃうよ!」

 差し入れの缶ビールを一気に流し込んで気合いを入れた私は、昼間に起きた出来事を振り返るや、脇目も振らずにキーボードを叩いて、報告書を一気に書き上げたのである。

「はい!行ってらっしゃい!」

 こうして支局のデータベースに送信した報告書のタイトルは、「吸血チュパカブラ逃走事件」。

 作戦名としては、「吸血チュパカブラ駆除作戦」だけどね。

 今日の昼間に起きたばかりの、そして、ここにいる3人の特命遊撃士が大活躍するホットな事件なんだ。

 もっとも、一番見せ場があるのはマリナちゃんだけどね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 千里ちゃんの語り口調が可愛くて感情移入しやすいです( *´艸`) しかも黒髪ツインテ……!! 美少女とミリタリーってすごく合いますよね⸜(*ˊᗜˋ*)⸝ 読んでいてアニメのように脳内再生さ…
2021/10/26 00:18 退会済み
管理
[一言] こういう、女の子による戦闘部隊って好きだわ( ´∀` ) でもってUMAまで出てくるとは最高じゃないですか!! しかも映画『ス○ーシーズ』の封が切られてから最初の目撃があったあのUMA!!…
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