初恋の人 vol.1
狩人の魔の手を振り切り、片桐は海野のいる教室に向かう。
たまには、いや、よくよく考えれば海野のクラスを訪問するのは初めてのことだ。
なにせ、狩人に毎日しつこく追い掛け回されて、海まで向かうのに時間がかかる。なぜか今日はそこまで追いかけられなかった。
入学してから初めてのことだったから驚いたが、体調でも悪いのだろうか。なんて心配していると、あいつの術中に嵌っている気がするので、その考えを頭から追い出す。
廊下から教室にいる海野の姿を探す。
見つけた。
海野は、宮崎と楽しげに歓談していた。
「どうしてだよ」
ズキズキ胸が痛む理由を俺は知っている。今まであいつが誰かと一緒にいるところを見たことがなくて、俺と同類だと思っていた。
孤独な人間だと思っていたんだ。
それでも、俺には工藤や宮崎がいるから、まだ海野よりはマシだと高を括っていた。俺はきっと、自分よりも劣っている海野と一緒にいることで、自尊心を保とうとしていたのかも知れない。だから、こんなに痛いんだ。
いや、それだけじゃない。
海野が楽しげに話しているのが、まだ、クラスの女子とかだったら、きっと、ここまでショックを受けていない。
そんな考えにしか至らない自分自身に、一番嫌気がさす。
海野と宮崎は二人してどこかに向かうのか教室を出ようと歩き出した。俺は咄嗟に身を隠し、そのまま逃げるように教室を後にした。
――惨めで矮小な自分の心を抱えたまま。




