9.エスコート
「さあリアム、今日の修行を始めるぞ」
「すまんスカーレット、今日は錬成したポーションを売りに行かなきゃなんだ。修行は帰ってからでもいいか?」
スカーレットが修行の始まりを告げるが、俺は生活費が底をつきそうな事を思い出した。
ここ最近はスカーレットと修行の毎日を送っていたため、錬成したポーションを売りに行く時間もなかったのだ。その上チェルシーの薬も残り少ない。
いつも俺のポーションを卸したり、薬を買っている行きつけの道具屋に行く必要があるんだ。
「なんじゃ、予定があったのか。そう言う事なら構わんぞ。だが、我も連れて行け。せっかく王国にきたのにまだ王都に入った事がないのじゃ」
スカーレットは出会ってから毎日俺の修行に付き合ってくれている。そのせいで王都にも入ってなかったのか……。
「ああ、スカーレットには世話になっているからな。王都を案内するよ」
「よろしく頼む。これは女性をエスコートする修行と思ってもらっても構わんぞ」
もちろん世話になっているスカーレットをエスコートするのは構わんが、彼女は女性ってよりは師匠でもあり、もう一人の妹みたいな感覚なんだけどな。
「……女性ってスカーレットの事か?」
「あ゛あ゛ん? 聞こえんかった。もう一度言ってみい?」
「よ、喜んでエスコートさせてもらうぜ」
正直に思った事を述べると、スカーレットはドスの効いた声で凄んできた。
妹のチェルシーより小さな女の子だが、その実力は俺が所属していた勇者パーティーの誰よりも上である。そんなスカーレットに凄まれたらさすがの俺もブルっちまうぜ……!
「そうかそうかっ! こんな美少女ををエスコートできるなんてリアムは幸せ者じゃのう!」
実際スカーレットはとんでもない美少女である。他人が見たら振り返って羨む事間違いなしだ。
つまり、そんな赤の他人のナンパ野郎からスカーレットを護る必要があるって事だろう。美少女も大変だな。
新たな発見をしつつ、俺たちは王都に向かった。
◇◇◇
「ここが王都か、民に活気もあるし良い町じゃな」
「ああ、それはいいんだが……」
俺たちが王都に入るとすぐに視線を感じる。道行く人々がすれ違うたびに振り返ってスカーレットを見てくるのだ。
まさか予想がバッチリ当たるとは。ってか、男どもだけじゃなく女性まで振り返ってスカーレットを見てるじゃないか……!
周りがざわついてきちまってる。このままじゃ声をかけてくる奴が出てきそうだ……あまり注目されるとトラブルに巻き込まれちまうな。
「スカーレット、すまないが外套のフードを被ってくれるか?」
「ん? ああ、町が久しぶり過ぎて忘れていた。我の容姿は目立つため、それを隠すフードを付けていたのじゃった」
トラブル回避のためフードを被る事を提案すると、どうやらスカーレットも自分の容姿が特別な自覚はあったらしい。外套のフードを目深に被り、その美しい顔を隠した。
少しもったいない気もするが、スカーレットが旅の経験から隠す必要があると判断してフード付きの外套を用意したのだろう。本当に美少女も大変なんだな。
スカーレットが顔を隠すと今までの視線が嘘のようになくなった。
「視線が一気になくなった……フードを被っただけでこんなに変わるものなんだな」
「ふっふっふっ、このフードは我が錬金術で作った特別製だからな。認識阻害の魔法を付与しておるのじゃ」
錬金術はそんな事までできるのか、俺も早くできるようになりたいぜ。
フードを被って注目されなくなった俺たちはスムーズに目的の道具屋への道を進むが、その道中で会いたくない奴らを見かけてしまった。
俺を無慈悲に追放した勇者パーティーの連中だ。
「ん? どうしたリアム、いきなり道の端に寄ってそっぽを向きおって」
「いや、ちょっと会いたくない奴らがいてだな……」
「我の弟子が何情けない事言っておる。どれ? どこのどいつじゃ?」
「わっ! 待てスカーレット!」
道の真ん中に向かうスカーレットを止めようと前を向いた瞬間、勇者ブレイドと目が合ってしまう。
不味いと思ったと同時にブレイドの口端が持ち上がり、醜悪な笑みを浮かべた。
あちゃ~、これは完全にロックオンされちまったな……こうなったからには絶対にスカーレットだけは護ってみせる!




