8.その頃勇者パーティーは③(ブレイドside)
「では帰って調査してみよう。帰還す――ぐああぁぁああああっ!! 腹がっ! おでの腹がああぁぁああああっ!」
「ブレイド!」
ダンジョンから出ようと言った矢先、突然現れたコボルトロードの剣に腹を抉られた。あまりの痛みに抉られた腹を確認すると、斬られた腹から内臓が飛び出ている。
ヤバい! このままじゃ死んじまう!
「は、早く回復じろおおおうううっ! おでが……未来の王がじんじまうじゃねえがあああああっ!!」
「ブレイド! ……未来の王って何の事かわからないけど、少し待って」
「ばやくじろおおおおおおおっ! いでえっ! はらがいでええんだよおおおおおおっ!!」
何をもったいぶっているのか、エリザベスは中々俺の腹を治してくれない。
早くしやがれ! 未来の覇王が死んじまうぞ!
「ポーションもないし、魔力も残り少ないのよ。魔力を絞り出しているから少しくらい待ちなさい」
「……あたしも魔力が残り少ないけど足止めしてみる」
命令に従い、エリザベスが己の魔力を振り絞って俺に回復魔法をかけ始める。遅いんだよ冷血女が!
ピーチはその間の時間稼ぎを始めた。魔力が切れたと言っていたが、威力の弱い下位魔法ならかろうじて使えるようだ。
「ブレイドはまだ回復しないの! 弱い魔法じゃコボルトロードは止められないよぉ!」
「もう少し頑張ってピーチ! 今戦えるのは貴方だけなのよ!」
「そんな事言ったって――キャアアンッ!」
コボルトロードは魔法を強引に突破して近づくと、その手に持つ長剣でピーチを斬り付けた。
「いだい! いだいいぃぃいい! もうやだよおおぉぉおお!!」
コボルトロード斬られたピーチは痛みで地面を転げ回る。
くそがっ! 俺の女に傷を付けやがって! 見た目だけは上玉なんだぞ!
「この犬っころがああっ! よくもやってくれたなああああ!」
ある程度回復したところで立ち上がり斬りかかるが、俺の剣をコボルトロードは長剣で受け止める。
このクソ犬がぁっ! 生意気にも俺の剣を受けやがってぇぇっ!
「ブレイド! 貴方は先程スキルを併用した影響で体力が落ちているわ。気を付けて!」
エリザベスが泣き喚くピーチの回復をしながら叫ぶ。
なるほど、そうでなければこんな犬っころに俺の剣が受けられるはずがないもんな。確かに身体が重い、納得だぜ。
だったら、
「魔法で攻撃しろピーチ! 俺を援護しろ!」
「いだい……! いだいよおおお!」
「まだピーチは戦えないわ! もう少し待って!」
「ちっ! 役立たずが……! 早く治療しろ!」
俺の命令にピーチもエリザベスも従えない。
くそっ! 俺の指示通り動けばこんな犬っころ簡単に倒せるのに、なんて使えない女たちなんだ……! 仕方ない、やはり勇者である俺が頑張るしかない。未来の王として女たちを護らねばな。
「女たちは俺が護るぞ! うおおおおおおおおおおおっ!!」
こうして俺はコボルトロードと死闘を繰り広げ、大きな傷を負いながらも勝利することができた。
くぅっ、この俺がこんな奴相手にこれほどの大怪我を負わされるなんて……!
「援護できなくてごめんねぇブレイド。ありがと」
「このバカ女が! 何とか勝てたから良かったものの、この俺が死ぬところだったんだぞ――くっ……!」
「……なによ。あんただってたいして役に立ってないじゃないのよ……」
謝ってきたピーチを叱責するが、コボルトロード戦で負った傷が痛み出す。
くそっ! いだいぃぃっ!
「大丈夫ブレイド。今回復するわ」
「は、早くしろ……! いでぇぇぇ……!」
魔力を使い切った影響か、青い顔をしたエリザベスがヨロヨロになりながら俺の傷を魔法で癒していく。
ふう、少しは痛みが引いてきたぜ。
「ありがとうエリザベス、助かった。ピーチもさっきは言い過ぎた。すまない」
「……いいわ。それより早く脱出しましょう。アイテムも魔力もない今、このダンジョンは危険だわ」
「そうだな。撤退するぞ」
アイテムもなくピーチもエリザベスも魔力切れ、俺も体力が少ない上に傷が治りきっていない。もう撤退しか選択肢はない状態だった。
俺たちは高難易度ダンジョンを徘徊する強力な魔物に見つからないよう、コソコソと隠れながら惨めに帰還することとなった。
そして、ダンジョン内も外に出てからの帰り道も女たちに笑顔はなく、一言も会話する事はなかった。
何だこの女たちの反応は? この俺と一緒に冒険しているんだぞ? 喜びで自然と笑みがこぼれるはずなんだが……。
こうして、リアムを追放してから初めてのダンジョン探索は散々な結果となってしまった。
くそっ! リアムの野郎、今度見かけたらどういう事か問い詰めてやるぞ。
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