6.その頃勇者パーティーは①(ブレイドside)
俺の名は勇者ブレイド、神から勇者の職業を与えられた勇者パーティーのリーダーだ。その上外見まで良く、道を歩けば黄色い声援が飛び交う選ばれし人間である。
しかし、そんな俺にも失敗する事はある。一年前パーティーに入れた新人のリアムがとんだ役立たずだった事だ。
錬金術師なんて聞いた事もない珍しい職業だからスカウトしてやったんだが、ゴブリン一匹倒せねえほど弱っちいザコだった。
だが、先日栄えある勇者パーティーからお荷物のリアムを追い出し、俺の心は青空のように晴れ晴れしていた。
「なんかリアムがいなくなって嬉しそうだねブレイド」
「ああ、一年もお荷物を飼ってたんだから当然だ。いなくなって清々するぜ」
パーティーメンバーの大魔法使いピーチが舌足らずな声で肯定する。品のない喋りだが顔が良いから可愛く見えてしまう。
「まったくだわ。一年も勇者パーティーにいてポーション作りしかできないのだから追放は当然の事。それを未練たらしく懇願するなさけない男だったわ」
王国の第三王女にして王国有数の回復魔法使いエリザベスが冷たく言い放つ。
他の女が述べれば冷たく感じるが、エリザベスであれば「なんてクールで美しい女性なんだ……」となってしまう。
俺たちのように見た目も良く才能ある人間は得だな。他の人間ならマイナス要素でもプラスに変える力がある。まさに選ばれし人間なのだ。
「邪魔者もいなくなったし、今日はいつもより深くダンジョンを潜る事ができそうだな」
「そうだね! 高難易度ダンジョンを始めて攻略するのは私たちよ! 未踏破のダンジョンを攻略してもっと有名になるんだから!」
「そうね。勇者パーティーで実績を作れば、私にも王位継承のチャンスが訪れるはず。頑張りましょう」
俺たちの挑戦している高難易度ダンジョンは王国唯一の未踏破ダンジョンだ。このダンジョンを攻略すれば、すでにある富と名声がさらに跳ね上がるだろう。
ピーチは承認欲求のため、エリザベスは第三王女という王位継承権の低いところからの王位継承のためと、二人とも目的がある。
「その前に準備は整っているか? リアムの奴が抜けてポーションの補充が必要だろう?」
「それなら大丈夫よ。ダンジョン攻略のため使用人にいつもより多く用意させてあるわ」
王女であるエリザベスには専用の使用人がいる。きっと質のいいポーションを用意してくれているはずだ。
「さすがだなエリザベス。よし! 今日こそダンジョンを攻略してみせるぞ!」
「ブレイドかっこいい!」
「やはりブレイドにはリーダーシップがあるわね。頑張りましょう」
頬を染めて称賛する女たちに俺の自己顕示欲が満たされる。
ピーチとエリザベスはどう見ても俺に惚れている。将来王位についたエリザベスと結婚して俺に王位を譲らせよう。そうすれば俺はこの国の王だ。ピーチはバカだが見た目は抜群にいいからな。側室として可愛がってやるか。
そして、勇者である俺が王となった暁には、他国に攻め入り世界を我が物としてやるのだ。
おっといかん、近く訪れるであろう未来を想像すると顔がにやけてしまう。女ってのは男の浮気やらには敏感だからな、野望のためには王になるまで抑える必要がある。俺は不屈の精神で下心を隠した。
これが勇者のスキル精神統一。己の欲望を心の中にしまうスキルだ。
「なんか難しい顔してどうしたのブレイド? お腹痛いの?」
「体調が悪いのかしら? リーダーの貴方の調子が悪いのなら、今日のダンジョン探索は中止にする?」
どうやら女たちは俺の精神統一を体調不良と勘違いしたようだ。
二人の美少女から心配されるなんて、他の男が見たら歯ぎしりして悔しがるだろう。
「いや、大丈夫だ。今日から三人だからな。どう連携を取るか考えていただけだよ。考えた結果、足手まといがいなくなって寧ろやりやすくなるな」
「いやぁんさすがブレイドね! 頼もしいわぁ!」
「頼りになるリーダーを持って私たちは幸せだわ」
精神統一によって平静な心を取り戻した俺は何食わぬ顔で取り繕った。
ふぅ、どうやら上手くスキルでごまかせたようだ。
こうして俺たちは準備を整え、今だ未踏破の高難易度ダンジョンに向かう事になった。




