30.エピローグ
勇者ブレイドを捕まえてから数日、俺たちは今日も修行に明け暮れていた。
「勇者パーティーが失脚した事で、其方は王国の新しい勇者と噂されとるぞ。やったなリアム」
「ああ、だが俺の職業は錬金術師だ。勇者なんて称えられていいんだろうか」
スカーレットが王都での噂を口にする。
勇者ブレイドが捕らえられてからというもの、王都では俺が新しい勇者と噂されるようになっていたんだ。
「いえ、リアムさんは吸血鬼に殺されそうだった私を助けてくれました。私にとっては貴方こそが勇者ですよ」
聖女ルシアが出会った時の話をする。
あの時はルシアの護衛が全滅して危ない状況だったんだよな。
「ありがとうルシア。でも聖国に帰らなくていいのか? 聖女は国の重要人物だろう?」
「私はまだリアムさんに恩を返しきれていません。私が帰るのは全ての恩を返せたと思った時です。それまではリアムさんから離れませんからね」
そう言うと、ルシアは俺の腕にギュッと抱きついてきた。
俺の腕に当たる厚い胸部装甲から、「帰れなんて言わないでください」という想いが伝わってくる。
「ちょっと離れなさいよルシア! その無駄に大きい胸をお兄ちゃんに押しつけるのを止めなさい!」
「ああんっ! もう、チェルシーさんは乱暴なんだからぁ……」
外套を着てついてきていたチェルシーが俺に引っつくルシアを強引に引っぺがす。
「お兄ちゃんは病気の私をずっと護っていてくれたんだから、ルシアの勇者じゃなくて私の勇者なのよ!」
チェルシーは薄い胸を張って堂々と宣言する。
そういや以前スカーレットが同じような事を言われたな。チェルシーが本当にそう思っていてくれたとは……兄ちゃん嬉しくて涙が出そうだぜ……!
「えっ! お兄ちゃん大丈夫! ルシアに抱きつかれたのがそんなに嫌だったの!」
「いや、そうじゃない……俺がやってきた事が無駄じゃなかったんだと思うと嬉しくてな……」
「ほれ、我の言った通りじゃろう」
涙ぐむ俺にスカーレットは優しく声をかけてくる。
「妹様は其方をちゃんと見ておる。もちろん、一人孤独に研鑽を重ねていた我にとっても、初めて共に同じ錬金術師としての高みを目指せる相手が其方じゃ。孤独だった心を救ってくれた其方は、我にとっても勇者じゃよ」
「こちらこそありがとうスカーレット。君のおかげで俺は強くなれた。本当に感謝しているよ」
何しろスカーレットと出会う前の俺はゴブリンすら倒せない弱さだったんだ。そんな俺を鍛えてくれたスカーレットには本当に感謝している。
「こらーっ! 私の前でイチャイチャするのは止めなさい! お兄ちゃんとのラブロマンスなんて、この私の目の黒いうちは認めないわよ!」
「私だって認めませんよー!」
「うおっ! 違うんだチェルシー、ルシア! 俺とスカーレットはそんなんじゃないんだってーっ!」
見詰め合う俺たちの関係を勘違いしたのか、チェルシーとルシアが割って入ってくる。
はははっ、やっぱ俺たちの関係はこうでなくちゃな。みんなの気持ちは嬉しいが、今はこの関係性を続けていきたい。
この、暗殺者の妹とロリババアの師匠と聖女に愛されて楽しく暮らす生活を。
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