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3.錬金術の秘密

「それではさっそく修行を始めるか? それとも明日からにするか? 我はどちらでもかまわんぞ」

「もちろん本日この場で今すぐにだ。よろしく頼む」


 俺にはすぐに強くならなければいけない理由があるんだ。明日なんて待っていられない。

 すぐに修行を始める意思を伝えると、スカーレットは嬉しそうに笑い出した。


「はっはっはっ、実に良い返答だ。ここで明日からにしようなどと言い出したら、弟子にするのを止めるところだったぞ」


 どうやら俺の選択は当たりだったらしい。

 弟子入り取り止めの危機を回避できて良かった。って、この子以外と気分屋なのか?


「では、まずは錬金術についてだな。リアム、其方は錬金術でどんなことができると思っておる?」

「どんなことって、薬草をポーションに錬成するのが錬金術だよな。他に何かあるのか?」

「はぁ……リアムよ、其方は我の戦いの何を見ておったのだ? あれも錬金術だと言ったであろう」


 あれ、スカーレットが嘆息して呆れたように見つめてくる。

 そんな宝石のような瞳で見つめられるとドキッとするじゃないか。


「何を照れておるのだ。褒めているわけではないのだぞ。良いか、錬金術とは何かと引き換えに物質を作り変えることができる術じゃ。例えば其方のポーション錬成は、薬草と引き換えにポーションを生み出したと言うわけじゃな」

「じゃあさっきの戦闘で使ったシールドやゴブリンを消し去った攻撃も何かを引き換えにした力なのか?」


 さっきのゴブリンとの戦闘ではアイテムを使っているようには見えなかった。

 だったら何と引き換えにした錬金術だったんだろうか?


「あれは己の魔力を使っている。アイテムを別のアイテムに生まれ変わらせるだけが錬金術ではないのじゃ」

「なるほど……じゃあ、俺もそれを覚えれば強くなれるって言うことか」

「口で言うほど簡単ではないんだがな。はて、我は若い頃どんな修行をしたのだったか……」


 スカーレットは顎に手を添えて考え込んでいる。

 若い頃って、どう見てもまだ十四歳前後の少女にしか見えないんだが? あれか? 大人ぶりたいお年頃なのか? 懐かしい、思えばチェルシーにもそういう時代があったな。


「其方、何か失礼な事を考えておらぬか?」

「妹と重ねちまったようだ。すまない」


 俺がチェルシーの小さい頃を思い出してうんうん頷いていると、スカーレットがジト目で詰問してきた。

 おっと危ない、この年頃の娘は子供扱いを嫌う節があるからな。チェルシーにも散々怒られたのに久しぶりだから忘れてた。気をつけねば。


「妹さんとか? つまり我が若く見えると言うことじゃな? それなら結構。そうか、我が若く見えるか、はっはっはっ!」


 よくわからないが、スカーレットは嬉しそうに笑い出した。

 機嫌が治ったようで良かった。


「話を戻すぞ。己の魔力を使う錬金術は確かに強力だが、今の其方では魔力が弱すぎて自らの体を壊すだろう。それではいかん。そこで、まずは魔物を倒してその魔力を吸収し、己自身の魔力を高めるのだ」


 この世界では生き物を倒した時、その体に宿した魔力を倒した者が吸収することで強くなることができる。

 だが、俺は戦闘はからっきしで、今まで一度も魔物を倒せたことなんてないんだがな……。


「スカーレット、君は俺の弱さを甘く見ているようだな。自慢じゃないがこのリアム、今まで一度として魔物に勝てたことなどない!」

「そんな自慢げに自虐されても反応に困るんじゃがのう……。なーに心配ない。我に策がある。大船に乗ったつもりで任せるが良い。さあ、我についてまいれ。はーはっはっ!」


 スカーレットは自分に策があると自信ありげに笑う。

 ゴブリンを倒したスカーレットの力を疑うわけじゃないが、俺は事実魔物に勝てたことがないからな。

 でも、この自信に満ちた少女の笑いを見ていると、なぜか不思議とやれるような気がしてくるんだ。

 そんな根拠のない自信を感じながら、俺はスカーレットの後について歩き出した。

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