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29.確執の終わり

「チェルシー、俺が怒っているのはわかるか? なぜ嘘を吐いた? やっていい事と悪い事の区別もつかないのか?」

「……んなさい……」


 顔を伏せて身体を搔き抱くチェルシーが震えた声で呟き、恐る恐る俺の顔色を窺ってくる。

 くっ……なんて破壊力の高い仕草をするんだ……! だがっ! ここで簡単に許したらチェルシーの教育に悪影響が出る。負けるわけにはいかない!

 俺が様子を窺うチェルシーに強い視線を送ると、


「ああああん! お兄ちゃん騙してごめんなさぁぁあああい! 私の事嫌わないでぇえええ!」


 チェルシーは泣き叫びながら俺に抱きついてきた。

 くぅ……おっ、俺の負けだ……!


「たった一人の肉親なんだ。嫌いになんてならないさ。なるわけがないだろ……」


 こんな可愛い妹が涙を流して謝っているんだ。許さない兄なんてこの世にいないだろ?

 俺は大粒の涙を溢し謝るチェルシーをギュッと抱き締めた。


 チェルシーの暴走には心当たりがある。俺たちはずっと二人で暮らしてきた。それが、最近居候が増えた事でチェルシーを構ってやる時間が減った。

 外套で身を隠せば外出できるとはいえ、昼間長時間の外出ができないチェルシーはずっと家で一人きりの時間を過ごしている。そんな時、自分を攫いにきたブレイドを見てこんな自作自演を思いついたんだろうな。

 きっと不安だったのだろう。ならば、チェルシーを不安にさせた俺こそが、この事件の真犯人と言えなくもないと思うんだ。まあ、この勇者パーティーが一番悪いのは間違いないけどな。


「……!? 俺は……リアムに負けたのか……!?」


 その極悪勇者パーティーのリーダーブレイドが意識を取り戻し、身体を起こしていた。

 あんな男でも勇者だけあり、身体は頑丈なようだ。


「ブレイド! 目が覚めたのね!」

「はんっ! 人質まで取って負けるなんてダッサッ!」

「ピーチ! ……でも、そうね。あなたの言う通りクソダサだわ」

「なっ……お前らっ……!!


 なんか勇者パーティーが仲間割れを始めたぞ。どうなってんだ?


「やっとエリザベスもあたしの意見に賛成してくれたのね。もうやーめた! あたし勇者パーティーぬけるー! エリザベスも我慢してんでしょ? 一緒にパーティー抜けようよ」

「ピーチ! ……そうね。私も抜けようかな」

「はっ? おいエリザベス! 女王になるには俺の力が必要だって言ってたじゃねえか! 王位継承を諦めるのか!?」

「初めはそう思っていたのだけれどね。もういいわ。王位は私個人の力で勝ち取って見せる。勇者パーティーは終わりよ。解散しましょうブレイド」

「バッ……バカなぁ……!」


 ブレイドはピーチとエリザベスの宣言にガックリと地面に崩れ落ちた。

 なんか勇者パーティーの三人が仲間割れした挙句パーティーを解散したようだ。

 こいつらの間にも色々トラブルがあったんだろう。まあ、さっきの会話からして、ブレイドの独裁にピーチとエリザベスの我慢の限界がきたってところだろうな。自業自得って奴だ。


「あの、リアム……あたし達あんたに酷い事をしてきたわ……今までごめんなさいっ!」

「私も謝るわ。本当に申し訳ございませんでした……。謝ってすむ事ではないけど許してください……」


 話し合いを終えたピーチとエリザベスが俺に今までの事を謝ってきた。


「確かに俺が勇者パーティーにいた頃は随分な扱いを受けたが、今回はブレイドの奴が暴走したんだろ? お前たちも大変だな。別に怒ってないから気にするな」

「ありがとうリアム! 今までほんとーっにごめんね!」

「ありがとうございます。寛大な心に感謝します」


 俺が許しの言葉をかけると、ピーチとエリザベスの二人は不安そうだった顔を綻ばせ、深々と頭を下げてお礼を言うと去って行った。


「あの二人にも酷い目にあわされたのじゃろう? お咎めなしで帰して良かったのか?」

「ああ、二人も反省しているようだったしいいさ」


 何もせずピーチとエリザベスを帰したのをスカーレットが不思議そうに問うてきた。

 さっきも言ったが、俺はこの二人に恨みはない。主犯のブレイドはともかく、この二人をどうこうしようって気はない。これでいいんだ。


「それでこそ我が見込んだ男じゃ」

「ありがとうスカーレット。だが、こいつだけは許せない」


 そう言って振り返った先には、今だに絶望し呆けた顔をして座り込む勇者ブレイドがいた。

 未遂に終わったとはいえ、こいつは俺の留守にチェルシーを狙い誘拐した。絶対に許す事はできない。


「ブレイドは騎士団に連れて行って王国法の裁きを受けさせる。こいつには罰が必要だ」

「そうじゃな。相手が妹様じゃから平気じゃったが、普通の人間なら危ないところであった。こ奴を野放しにしていたら被害者が増える一方じゃ」

「ひぃっ! やめろっ……こっちにくるな……俺が何をしたってんだよぉぉおおおおっ!」


 俺たちは泣き喚くブレイドをひっ捕らえ、王都の騎士団詰所まで連行した。ブレイドは俺たち以外にも犯罪に手を染めていたらしく、余罪が次々と出てきた。

 勇者ブレイドの黒い噂は割と有名である。王都の民からも、ついに捕まったと喜びの声が上がったほどだ。


 こいつ、やっぱりやってやがったな。そんなこったろうと思ってたぜ。

 その上反省の色が見えないとの事で、懲役百年の刑に処された。もう一生娑婆の空気を吸う事はできないだろう。

 こうして俺は勇者パーティーとの確執に終止符を打つことができたんだ。

新作の投稿を始めました。下の画面から飛べます。

面白いのでよろしくお願いします。

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