28.リアムVSブレイド
「其方、妹様の職業も我らの気持ちもわかっておったのか……!」
「チェルシーはこの世でたった一人の血の繋がった妹なんだ。わからないわけがないだろう。それに、チェルシーは俺より強いんだ。その俺より弱いブレイドたちが束になっても捕らえるなんてできっこないからな」
みんなの気持ちも嬉しく思っているが、俺はこの三人での生活を続けていきたい。誰か一人を選ぶって事は今は考えられない。
「お兄ちゃん……そこまで知っていたの……!?」
俺に気付かれてないと思っていたのか、チェルシーは驚愕したように震えている。
「ごめんなさいお兄ちゃん……」
「話は後で聞く。まず先に済まさなきゃならない事があるからな。前に出ろよブレイド。俺は今の生活が好きなんだ。この暮らしを護るためにもお前らの仲間にはならない。蹴りを付けようぜ」
俺に名指しされたブレイドは顔に青筋を立て身を震わせ、
「けやがって……! ふざけやがってこのクソ野郎がぁぁああああっ!」
雄叫びを上げながら向かってきた。
なんのフェイスもなく、単純に正面からの剣撃だ。それを結界で防御する。
「なっ……なぜだ! 剣が止まっただと……! ならばぁぁああああっ!」
ブレイドはさらに雄叫びを上げて連撃を仕掛けてくるが、その全てを結界で防御した。
「お……俺の剣がリアムに届かない! なぜ何もない空間で止まるんだ!」
何もない空間って、こいつ結界が見えてないのか? 魔力の可視化は戦闘の基本だぞ。
しかもこいつ、以前王都で絡まれた時よりも動きが遅くないか? ブレイドってこんなに弱かったっけ? まだ本気を出してない?
いや、もう俺にだってわかる。ブレイドが弱くなったんじゃない。俺が強くなったんだ。
昔は手の届かない高みにいると思っていた男がこんなに弱いと、なんか悲しいと言うか感慨深いと言うか、複雑な気持ちになっちまうよ。
今はブレイドの弱さを憂うよりも、自分の成長を喜ぶとしよう。
「見事じゃリアム。この短期間で本当に強くなった。だが、これ以上長引かせるのは酷ではないか?」
「ああ、そうだなスカーレット。もう終わらせるよ。行け! 結界!」
「結界? 何の事だ? ――ガハァッ……!」
結界弾幕アタックを使うまでもない。俺は結界の中の数個をブレイドに向けて放つ。何の反応もできず結界に打ち据えられたブレイドは力なく地面に倒れ意識を失った。
「嘘……勇者であるブレイドがあんな簡単に倒された……!」
「ええぇ……リアムの奴化物じゃんかぁ……」
残された勇者パーティーのメンバーであるエリザベスとピーチは倒れたブレイドを見詰めて驚愕している。
ブレイドには結界が見えないんだから躱せるわけないよな。まあ、基本の魔力探知もできないのが悪い、勇者の職業に胡坐をかき修行を怠ったあいつの自業自得だ。
「お前たちも俺と戦うのか?」
俺の問いにエリザベスとピーチはブンブンと勢いよく首を横に振った。
二人にも昔散々いびられたものだが、今日は消極的だった。大方ブレイドの奴が暴走して嫌々やらされたんだろう。あの二人はブレイドほどバカじゃないからな。
二人に恨みがないと言えば噓になるが、別に復讐してやろうとは思っていない。少しは溜飲も下がったし、この辺で許してやるか。
それより大きな問題がある。
「チェルシー」
「――!?」
俺が名を呼ぶと、チェルシーは大きく身体を震わせる。
チェルシーもわかっているのだろう。俺が怒っているということが。




