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26.誘拐

 吸血鬼事件でさらに評判を上げた俺たちだがまだまだ成長途中。修行も活動も継続している。以前はスカーレットと二人だったが、今ではルシアを加えた三人パーティーだ。俺としてはもうお礼は充分だと思うんだが、本人に言わせると「命を救ってもらった恩は命で返さなければならないのです」との事だ。

 家事や修行のサポートなど助かっているが、重要人物である聖女がこんな所に長居してていいのかな? まあ、本人がいいって言うのだからいいのだろう。

 そんな日々を続けていたある日、活動を終えて家に帰った時事件は起こった。


「ただいまチェルシー……? チェルシー? どこだチェルシー!」


 いつも疲れ切って帰る俺を暖かく向かえてくれるチェルシーがいなかったんだ。


「そんなに騒いでどうしたリアム? 妹様は日の光が弱点だから外には出れんのだ。家にいるだろう?」

「いや、チェルシーは日の光を遮る特製の外套を着れば昼間の外出も可能なんだ。ただ、やはり辛いらしくあまり出る事はない。そのチェルシーいないなんて……まさか誘拐!」


 チェルシーは兄の俺から見ても可憐な美少女だ。家に引きこもっていても、噂を聞いた町の男どもに狙われてもおかしくない……!

 くそっ! 俺の留守を狙うなんて卑怯者めが!


「あの妹様が黙って誘拐されるとは思えんが、何か良からぬ事でも企んでおるのか……? まっ、あの妹様の事じゃ、悪意はないじゃろう」

「スカーレットさんはチェルシーさんの事をよくご存知なんですね」

「下手したらリアムより詳しいくらいじゃぞ」

「あははっ、まっさかー! お兄さんより詳しいだなんてスカーレットさんおもしろー」


 スカーレットとルシアが何か言っているようだが、焦って頭に入ってこない……!

 くそっ! どこに行ったんだチェルシー! 何か手がかりはないのか……!

 焦る俺が家を調べると、テーブルの上に手紙を発見した。この字は見た事がある。ブレイドの字だ。

 急いで中を確認すると、内容はチェルシーを誘拐した。返してほしければ一人で森の広場へこい。との事だ。


「どうやら王都であった勇者たちの仕業のようじゃの」

「大丈夫ですかリアムさん。身体が震えていますが……」


 スカーレットは冷静に事態を判断し、ルシアは俺を心配してくれる。

 だが、何で冷静でいられるんだ? 心配するべきはチェルシーの方だろう?

 俺の身体は怒りを通り越し、妹を攫われてしまった己の不甲斐なさに震えていた。


「ラインを超えやがったなあのクソ勇者……! 許さねえ……絶対に許さねえぞおおおおお!」

「待てリアム! これはいろんな意味で罠じゃ!」

「これが待っていられるか! すまんスカーレット……俺は行く! チェルシーが一人怯えているんだ! 助けるのは兄ちゃんの仕事だろう!」


 俺は居ても立っても居られず、スカーレットの制止の言葉を無視して家を飛び出した。


「だからそれがもう一つの罠なんじゃ……行ってしもうたか」

「これってチェルシーさんわざと……ですよね?」

「十中八九な、何しろあの妹様は勇者よりずっと強い。攫われるわけがないんじゃ」

「チェルシーさんてそんなに強かったのですか……! 本当にリアムさんはシスコンですねえ」

「そこが美徳でもある。いいではないか。我らもリアムを追うぞ」

「はい!」


 背中から二人の声が聞こえるが俺の耳には届かない。どうせ待てと言っているのだろうが、俺は止まれない。止まるわけにはいかないんだ!

 俺は今までずっとブレイドの凶行を我慢してきた……だが、これだけは我慢できねえ! お前は俺の逆鱗に触れやがった! もうどうなるか俺にもわからねえ……何しろこんなにドタマにきたのは生まれて初めてだからなあああ!

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