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25.その頃勇者パーティーは⑤(ブレイドside)

「なにっ! リアムの奴があの吸血鬼を討伐しただと! 何かの間違いだろ……!」

「残念ながら王国の公式発表だから真実よ……」


 くそがっくそがっくそったれが! 偶然とはいえこの俺に倒せなかった吸血鬼をよりにもよってあのリアムが討伐したなんて絶対に嘘だ! 何か裏があるに決まってる!


「そうかわかったぞ。今やリアムのポーションは王国の大事な収入源だ。王国軍が討伐した手柄をポーションをもう卸さねえとか言って脅した。奴の考えそうな事だぜ」

「いえ、王国軍は動いていないわ。私たちが負けた事で軍を動かして討伐しようって話もあったんだけど、その前にリアムが討伐したのよ」

「はあ? だったらどうやってあんな化け物を倒したってんだよ!」


 王国軍じゃないだと……! だったら、どうやってあれに勝つってえんだよ……!!


「もうリアムに関わるのはよさない? あの吸血鬼に勝つなんて私たちの手に負える相手じゃないよぉ……」

「バカが! 吸血鬼事件で俺たちの評判は地に落ちてるんだぞ!」


 俺が冴え渡る頭脳をフル回転させていると、ピーチが口を挟んでくる。

 はぁ……俺は今真剣に悩んでいるんだ。バカは黙っててくれねえかな。


「ちぇっ……自分だけ私たちを置いて一目散に逃げたくせに……」

「あれは逃げたんじゃねえ! 戦術的撤退だ!」


 これだからバカは困る。一時撤退しただけだ。俺は負けてない!


「ピーチ、気持ちはわかるけど抑えて。ブレイドも、リアムは私たちのパーティーに必要な人材なのよ。どうにかして戻ってきてもらわなくちゃ」

「……エリザベスが言うならしょうがないなぁ……わかったよ」

「けっ! 俺はまだ認めてねえがな!」


 険悪な雰囲気になった俺とピーチの間にエリザベスが割って入る。

 ちっ! なんであんな奴をパーティーに戻さなきゃならねえんだ。

 リアムをパーティーに戻す事に俺は未だに納得していない。正妻予定のエリザベスがどうしてもと頼むから渋々了承しているのだ。

 ん、何も普通に仲間に加える必要はねえな。家畜や奴隷のように死ぬまで働かしてやりゃあいいんだ。

 妙案を考えついた事で俺の気持ちは快晴の青空の様に清々しい物に変わった。

 そうか、わかったぞ! 吸血鬼を倒したのはあいつじゃなかったんだ!

 気持ちが晴れた事で頭の冴えた俺は真実に気付いてしまった。


「あいつがあの吸血鬼に勝てるわけがねぇ。実際に倒したのはあの時の女だ。奴は只者じゃなかった。おそらく自分が倒した功績を弟子のリアムに譲ったんだろうよ」

「え〜何のために? そんな事する意味ないじゃん」

「俺が知るか! ちったぁ自分で考えやがれ!」


 まったく、これだからバカの相手は疲れるんだ。いちいち俺が道を示さなきゃなんにもできやしねえ。


「……まてよ、あの野郎には妹がいたな。それも大層可愛がっていた……奴の妹を人質に取るってのはどうだ? そんで妹を無事返してほしければパーティーに加われって脅すんだ」

「さすがにそれは……それが勇者のする事なのかしら?」


 エリザベスはその綺麗な顔を少し歪ませ否定的な意見を述べる。

 俺に意見するなんて珍しいな。だが、俺に意見するなど認めんぞ。


「なんだエリザベス、お前までひよっちまったのか? そんな考えじゃ一般人のピーチと変わんねえな」

「勇者の貴方が決めたことなら従うわ……」


 エリザベスは悔しそうに俺の意見を肯定した。


「なにさ……この大魔道ピーチ様に向かって何が一般人よ……」

「抑えてピーチ。勇者の職業はそれだけ重要視されているのよ……」


 何やら女どもが小声で何か言っているが、おそらくは俺への称賛だろう。

 この程度の策略などこの俺ならば当然だ。まあ、一般ピーポーどもには思いつかないか、何しろこの俺が考えた勇者の策だからな。


「軍師の才能まであるとは、自分の優秀さが恐ろしいぜ。ハーッハッハッハーッ!」


 後に訪れる確実な勝利に気分よく高笑う。

 見てろよリアム。パーティーに戻ったら死んだ方がマシだと思えるほど馬車馬のようにこき使ってやる。この俺が貴様に身の程を教えてやるぜ!




 やると決めた俺たちはその日のうちにリアムの家までやってきた。

 奴の家は王都のはずれの森の中にあって探すの苦労したぜ。


「ねえ、ほんとにやるのブレイド? これって犯罪だよ?」

「くどいぞピーチ。勇者の行動が犯罪になるわけないだろが」

「ほんとにそうかなぁ……」


 しつこいバカ女を無視して扉を開ける。すると中には目を見張るほどの美少女がいた。

 だが、どことなくリアムの面影を感じる。確かに美少女だが、あの野郎を思い出すのは大幅減点だ。

 俺の側室候補にはならんな。


「おかえりお兄ちゃん! ……はぁぁぁ、またなの……で、誰よあんた?」

「「ひぃっ……!」」


 いや、美少女だと思ったのは一瞬だけ、鬼のような……いや、鬼の形相をした女がそこにいた。

 勇者の俺にはわかる。この女が俺より数段強い事が……!

 ピーチとエリザベスが恐怖で息を呑む。リアムの師匠と違い、この鬼は実力を隠していない。二人にもこの女の怖さがわかるのだろう。

 だが、俺は勇者だ。たとえ鬼を目の前にしてもイモ引くわけにはいかねえんだよ!


「おっ、おっ、おっ、おれっ、おれはっ! ゆうじゃ、ぶれいどっ! おっ、おまえをっ、とらえにっ、きたーっ!」

「はあっ? はっきり喋りなさいよ。で、私を捕らえて何をしようってのよ?」


 鬼が俺に問うている。答えを間違えば待っているのは確実な死だ……!

 だが、この鬼に嘘は通じない。俺の本能がそう叫んでいた。


「あっ、貴方を捕らえて、リアムの奴を誘い出して戦おうと思っております」

「ふ〜ん、お兄ちゃんを誘い出す……ねえ」


 会話にならないと思ったのか、鬼が威圧を弱めてくれたおかげで普通に口が回るようになった。

 鬼は俺の話を興味深そうに耳を傾けている。


「おもしろそうじゃない。いいわ。協力してあげる!」

「なに! 本当か!」


 申し出に了承してくれた事が信じられず問いただすと、鬼は不機嫌さを隠そうともせず顕にし、


「……口の聞き方には気をつけなさい。殺すわよ……!!」

「……はっ! はぃいいいっ! 以後気をつけますー!!」


 ドスの効いた声音で脅してきた。

 くそっ! この俺様があの野郎の妹なんかに……! でも……怖いんだよこの女ー! こいつの目は何人も人を殺してる奴のそれだ。あの目を見ただけで俺の身体が動かなくなっちまうんだよぉ!


「それじゃあ今から私はあんた達に誘拐されるわ。私の指示通りに動きなさい」

「えっ……貴方が指示を出すんですか?」

「私は指示通り動けと言ったわよね? 返事ははいとわかりましたしか認めないわよ……! まずは私を誘拐した事、返してほしくば指定の場所までこいと手紙を書きなさい」

「はっ……はぃいい! わかりましたああああ!」


 鬼は俺の質問に殺気を飛ばす事で返事とし、早速俺に命令してきた。

 いちいち怖いんだよもう! 気に食わねえ兄妹だぜ!

 だが、奴の妹を誘拐した事に変わりはない。これで準備は整った。

 待ってろよリアム、調子に乗ってられるのもここまでだ。目にもの見せてやるぜ!

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