24.リアムVSウラド
「私は吸血鬼ウラド。妹は強かったが貴様はただの人間だ。私の相手になるとは思えぬが、いくぞ小僧! 吸血鬼の力を見せてやる!」
ウラドと名乗る吸血鬼は正面から鋭い爪を伸ばして突進してきた。己の爪を武器にした貫手だ。
速い! だが、
「なにぃっ!」
その貫手は俺の正面に張られた結界に阻まれ、甲高い金属音を上げてへし折れた。
「バッ……バカな! ただの人間などにこの私の爪が折られるだと……!」
吸血鬼の武器は事前にルシアから聞いている。攻撃がわかれば俺にだって防ぐ事はできるさ。
「無駄だ。今の俺の結界にお前の攻撃など通用しない」
「舐めるな小僧!」
俺の結界に正面からの攻撃を防がれたウラドは超スピードで結界を迂回し、横から連続して攻撃を仕掛けてくる。
バックステップで回避を試みるが、ウラドの爪牙が俺の身体を切り裂き鮮血が舞う。
「お兄ちゃんっ!」
「……大丈夫だチェルシー、軽傷だ」
壁際まで後退した俺は傷口に手を当て錬金術で治療を始める。
くそっ! なんてスピードだ……!
「確かに強力な結界だが隙が多すぎる。私には通用せん。その程度か小僧、妹の方が強かったぞ」
ウラドが勝ち誇ったように俺を見下ろしながら述べる。俺に傷を付けた事で調子に乗っているようだ。
「今止めを刺してやる。安心しろ、お前を殺したら仲間もすぐに同じ場所に送ってやる。死ね!」
ウラドが俺に止めの一撃を放つべく突進してくる。
単純に結界を張るだけじゃ奴の攻撃を防ぎきれない。だが、今の俺の力で張れる結界の範囲はこれが限界……だったら!
俺は展開した結界を分解し、結界を避けて横から攻めてきたウラドの攻撃に合わせてそれをぶつけて相殺した。
「バカな! 俺の攻撃が……!」
結界を小さく分解する事で結界の限界量を維持したまま連続攻撃に対応できた。ぶっつけ本番だったが上手くいったぜ。
ん、まてよ。これって攻撃にも使えるんじゃないか? やってみるか!
「いけえ結界!」
「ガハァッ……!」
俺が試しに残った結界をウラドにぶつける。死角からウラドを襲った攻撃が直撃し、かなりのダメージを与えたようだ。結界の攻撃を食らったウラドがヨロヨロと後退していく。
これは使えるぞ。名付けて結界アタックだ!
「チャンスだぞリアム」
「わかってるさスカーレット! いけえ! 結界弾幕アタック!」
俺の周囲を飛び交う結界をさらに小さく分解してウラドに向けて飛ばし、結界の弾幕を張る。
結界アタックを進化させた結界弾幕アタックだ! いくら吸血鬼ウラドのスピードが速くとも、この弾幕は避けられないだろ!
「うおおおおおお! こ……この私がこんな小僧にぃぃいいいいっ!」
俺の結界弾幕アタックに撃ち抜かれ、身体を穴だらけにした吸血鬼ウラドは断末魔の叫びを上げて倒れた。
「やった……のか?」
「そのセリフは縁起が悪いとされとる。あまり口にせん方がいい。ほれ見ろ」
「なんだこりゃあ……!」
風穴を開けた吸血鬼ウラドの傷口がうにょうにょ動き傷の再生を始めている。
そういえばこれだけの強敵を倒したのに魔力を吸収した感覚がない。この傷を受けて死んでないってのか?
「そろそろ私の出番ですね。ここは任せてください」
「ルシア、何をするんだ?」
「吸血鬼の身体は通常完全に滅ぼす事ができません。だから私が聖国から派遣されてきたのです。聖女の魔力で吸血鬼を滅ぼせる私が」
聖女にはそんな役割があったのか、だが実際に吸血鬼の生命力を見たら納得するしかない。
こんな化け物を滅ぼせるなら、聖女が聖国の重要人であるのも頷けるな。
ルシアはウラドの前に膝を付いて両手を組む。すると、ルシアの身体から神聖な力を持つ魔力が放たれた。ルシアから放たれた魔力は俺の作った墓に注がれキラキラを輝き、幻想的な光景を作り出した。
これはルシアの連れを弔った時と同じ光だ。ルシアの放つ光はウラドの持つ邪悪な魔力を浄化し、その身体も霧になって消えて無くなった。
いや、少量だが灰が残ったか?
「終わりました。この残った灰は吸血鬼の灰と言うレアアイテムです。これもお礼の一つとして受け取ってください」
「吸血鬼の灰か錬金術のいい素材になるぞ」
「そうなのか? ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
俺は床に残った吸血鬼の灰を袋に集めてしまう。
アイテム錬成は俺の得意とする錬金術だ。良い素材があればより強力なアイテムを作り出せるだろう。
しかし、吸血鬼を滅ぼしたルシアの魔力は凄かった。聖国がなかなか自国から出したがらないわけだよ。もし襲われて死んだり誘拐されたら大事だもんな。
「お兄ちゃあああん! 私のために吸血鬼を倒してくれてありがとう! 嬉しいよおおおお!」
「チェルシー、本当に無事で良かった……」
吸血鬼の灰を回収し落ち着いたところでチェルシーが俺に抱きついてくる。俺はチェルシーを受け止め、その頭を優しく撫でた。
怖い思いをさせてごめんな。お前は兄ちゃんが絶対に護ってやるからな。
「正直我らがこなくても、妹様の実力ならあ奴も倒せたと思うがのう……」
「まあまあスカーレットさん、リアムさんはシスコンですから目が眩んでいるんですよ。それよりも、私もまぜてくださーい」」
抱きついているチェルシーの反対側からルシアまで抱きついてきた。
厚い胸部装甲から柔らかな感触が伝わってくる。
「ちょっと! なんであんたまで出てくんのよ!」
「これは吸血鬼を討伐してもらったお礼なんです! 許してくださいー!」
「我を仲間外れにするでない! まぜるのじゃ!」
チェルシー、ルシアに続いてスカーレットまで抱きついてくる。いつの間にか俺は三人の美少女に抱きつかれるという、傍から見たら羨ましい状態になっていた。
だが、実際はそんな事はない。なぜならば我が妹であるチェルシーの機嫌がどんどん悪くなっていったからだ。
俺としてはいつ爆発するかわからないチェルシーを宥めるのに必死で、嬉しいとか考える余裕はなかったんだ。
こうして王国を騒がせた吸血鬼事件は解決し、事件解決の立役者である俺たちの評価はさらに上がる事となっていった。




