21.その頃勇者パーティーは④(ブレイドside)
最近活躍できていなかった俺たち勇者パーティーにも運が向いてきた。最近この王都を騒がせていた事件の犯人が吸血鬼の仕業だと判明し、多額の懸賞金が懸けられたのだ。
吸血鬼なんざ、勇者であるこの俺ですら見た事のない珍しい魔物だが、わざわざ吸血鬼退治の専門家である聖国の聖女が討伐にやってきたくらいだ。信憑性は高いだろう。ここで吸血鬼討伐に成功すればリアムに奪われた名声を取り戻す事ができるはずだ。
ふっふっふっ、やはり俺は神に愛された男だったようだな。世界は俺を中心に回っているのだ!
俺は早速勇者パーティーのメンバーを集め、吸血鬼討伐に向かった。
「ちょっとブレイド~、闇雲に探したって見つからないわよぉ。何か当てはあるの?」
「当てなんてない。だが大丈夫だ。俺は神に愛された男。狙った獲物は向こうからやってくるのさ」
吸血鬼探索を始めて数日、ピーチが愚痴を零し始めた。
まったくわかってないなこの女は、持っている男には幸運の方からやってくるのさ。
「ほんとに~? そんな都合よくいくかなぁ?」
「そうね。勇者の職業を持っているほどですもの、本当に神に愛されている可能性はあるわ」
「ほう、エリザベスはわかっているようだ。さすがは王族、目が肥えているな」
「それはどうも」
説明を聞いたにも関わらず疑うピーチに、エリザベスが俺を肯定する意見を述べる。
ふっ、さすがは俺の正妻候補筆頭と言ったところか。だが、この俺が褒めてやっているのにその生返事はいただけないな。それではまるで嫌々言っているようではないか。俺の妻とした暁には、しっかりと調教してやらねばな。はっはっはっ!
頭の中で生意気なエリザベスをわからせていた時、俺の気配探知に反応があった。
強力な魔物の反応! 凄い魔力を感じるぞ。間違いない吸血鬼だ! やはり神は俺の味方だったようだな!
「どしたのブレイド?」
「あっちに強力な魔物の反応を探知した! 急ぐぞ! 遅れるな!」
「待ってブレイド! 私たち本当にそんな強い吸血鬼に勝てるの!」
駆け出す俺にエリザベスが何か言っているようだが、そんな暇があったら足を動かせ! 置いていくぞ!
「もうっ、私の言う事なんて聞きもしないんだから……」
気配探知に反応があった場所につくと、青白い顔をした翼の生えた男が冒険者と戦っていた。
くそっ! 懸賞金狙いの薄汚い冒険者どもが! だが、噂通り強いなこの吸血鬼……腕に覚えのある冒険者どもが子供扱いされてやがる……。戦いにすらなってやがらねえ……これは虐殺だ。
「ねえブレイド……早く助けなきゃあいつらぜんめつしちゃうよ」
「まあ待てピーチ。奴らが吸血鬼を疲れさせるのを待つんだ。その後、消耗した吸血鬼を俺たちが倒すんだ」
「実にブレイドらしい汚い手口ですが、私たち勇者パーティーに負けは許されない。その手でいきましょう」
「う~ん、二人がそう言うなら従うよ」
あの吸血鬼は強い、万全の状態ではこの俺でも苦戦しそうだからな。冒険者諸君、俺のためにせいぜい頑張ってくれよ。
そして、冒険者たちが全員やらるまで身を潜めていた俺は、補助魔法を重ねがけして準備する。
力、防御力、素早さ、反応速度を上げるバフをかけた状態でタイミングを伺い、最後の一人がやられた瞬間に飛び出す。
「うおおおおおおおっ! 覚悟しろ吸血鬼! 王国の平和はこの勇者ブレイドが守って見せるぞ!」
全ての敵を倒し安心した瞬間こそ最大の隙が生じる。俺はそこを狙う。
勇者は油断しない。英雄は絶対に負けてはならないからだ!
「ふんっ、潜んで戦いを窺っていたのはわかっていたぞ勇者ブレイド」
「なっ! なにぃ……!」
殺れると確信した俺の不意打ちを吸血鬼は腕で受け止めた。
なぜだ! 俺の気配遮断は完璧だったはず……そうか! ピーチとエリザベスの奴らが隠しきれていなかったな!
くそっ! バカ女どもがぁ!
「後ろの二人のせいではない。私には初めからお前たちが潜んでいた事などわかっていたぞ。いかにも汚い人間が考えそうな事だ」
「なっ、なんだとぉ! ぐはああっ!」
二人を睨む俺に吸血鬼は嘲笑を浮かべ述べつつ、残ったもう片方の手で腹を殴りつけられる。吸血鬼の拳を食らった俺は跪き、地面を舐める事になった。
「ぐぼおぉぉ……い、息が……!」
人は腹を打たれると呼吸ができなくなる。
息ができずに地獄の苦しみを味わう俺を吸血鬼はつまらなさそうに見下ろしていた。
「何だ。勇者と言われる男だから期待したがこの程度か、拍子抜けだ。死ね」
「ひぃぃいいいい!」
「ちょっ! ブレイドー!」
何とか呼吸ができるまで回復した俺は飛び起き、吸血鬼に背を向けて全速力で駆け出す。
後ろからピーチとエリザベスの声が聞こえるが知ったことか! あんな化け物に勝てるわけねえだろ! 幸い奴らは俺の後ろにいる。俺が逃げ切るための囮になりやがれ!
「逃げたか、まあいい。目的地は近くだ。あんな雑魚どもに構ってられん」
吸血鬼の奴がぶつぶつ言っている。追いかけてくる気はなさそうだ。
くそがっ! 勇者であるこの俺が無様に敗走する羽目になるなんて!!




