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20.聖女の目的

「ただいまチェルシー」

「あっ、おかえりお兄ちゃんスカーレット……で、その女は誰よ?」


 家に帰った俺たちを笑顔で出迎えてくれたチェルシーの表情が一瞬で氷のように冷たいものに変化する。

 あれ? なんか、つい最近にも似たような状況があったような……。


「お兄ちゃん、また新しい女を連れてきたの? しかも、よりにもよってこんな胸部装甲の厚い女を……! 王都の事件の調査に行ったんじゃなかったのかな? かな?」


 怒りでワナワナと身体を震えさせながら、チェルシーは一歩ずつこちらに歩み寄ってくる。

 怖い……! 顔は笑っているのに目が血走っている! いや、あれは笑ってるんじゃない……嗤っているんだ……!!


「まっ、まてチェルシー! この子は違うんだ……! そんなんじゃないんだ!」


 以前より断然強くなった俺でも気圧されるほどの威圧を放つチェルシーに後退りしながら、意味不明な言い訳をしていると、ルシアが俺たちの前に歩み出た。

 まっ、まてルシア! この状態のチェルシーは危険だ! 身の安全は保証できないぞ!


「ん~、貴方臭いですね。臭います。臭いますよー!」

「なっ! よりにもよってこの私が臭いですって! 何なのよこの女!」


 前に出たルシアは鼻をフンフンッ鳴らして臭いを確認すると、チェルシーを臭いと言い切った。

 ちょっとルシアさん……? 初対面の相手にそれはないんじゃありません? 俺の知るチェルシーは綺麗好きだ。そんなチェルシーに臭いなんて言ったらキレちゃいますよ?


「待ってくれルシア。この子は俺の妹のチェルシーだ。いくら女性同士とは言え、いきなり臭いは失礼だろう」

「そりゃあ人間相手なら失礼ですが、この子は吸血鬼ですよ。リアムさんは魔物の妹がいるんですか?」


 はっ? チェルシーが魔物で吸血鬼? 何言ってんだこの子は?


「何言ってんだよあんた! 俺の大事な妹が吸血鬼の訳ないだろが! なあチェルシー……えっ、チェルシー?」


 俺が同意を求めるようにチェルシーを見やると、彼女は「嘘でしょ……やっぱりそうなの……?」と、何事か小声で呟いていた。


「とにかくチェルシーが吸血鬼だなんてありえない! さっき襲ってきた奴は男だっただろう?」

「私が見間違えるはずないんですが……私たちが追ってきた吸血鬼は男性ですし、それもそうですね」


 ルシアは不承不承といった感じだが納得してくれたようだ。

 落ち着いたルシアを家の中に案内し、話しを聞くことにした。


「改めて危ないところを助けていただきありがとうございます」

「それで、何で普段教会から出てこない聖女が王国にやってきたんだ?」


 お礼を述べるルシアに気になっていた事を聞く。


「はい、私たちは先ほどの吸血鬼を討伐するために聖国から派遣されてやってきました。吸血鬼の討伐は聖女の大切な仕事ですから、普段教会の外に出ない聖女も出る事ができるのです。私としてはもっと表に出てもいいと思うのですが、教会の方針で聖女は滅多に外に出る事はできないのですよ」


 外に出れない事を話すルシアは非常に残念そうしている。


「しかし吸血鬼の討伐か、それであの吸血鬼と戦ってたって事か?」

「その通りです。しかし、私たち聖国の想像以上に吸血鬼は手強く、貴方がたに助けられたと言う訳です」

「なるほどの、それは好都合じゃ」


 スカーレットがニヤリと笑い口を開いた。


「ならばその吸血鬼、我らが討伐してやろう」

「ほんとうですか! しかし、無関係の貴方がたにそんな危険な事をさせるわけには……」

「問題ない。奴はこの王国でも事件を起こしている。すでに無関係ではない。それに、リアムの修行にもなるしのう」


 申し訳なさそうにするルシアにスカーレットは宣言する。

 確かにこれは聖国だけの問題じゃない。王国でも被害者が出ているんだ。俺たち王国の民だって知らぬ存ぜぬって訳にはいかないよな。

 それに、俺の修行にもなるって言われたらやるしかねえ。


「そう言う事だルシア、俺たちにも協力させてくれ」

「皆さん……ありがとうございます! 私もサポートしますし、お礼も兼ねて住み込みでご奉仕させていただきます」


 ルシアは胸に手を合わせ、涙を滲ませながら答える。

 聖国から遥々吸血鬼討伐にやってきて、連れを殺されたった一人で心細かったんだろう。これからはうちで働いてもらおう。住み込みで……ん? 住み込み?

 俺が疑問に思ったのと同時にドカーンッと大きな音が鳴る。


「はぁぁあああ!? 何よそれ! 住み込みなんて私は認めないわよ!」


 それは、ブチ切れたチェルシーが拳でテーブルを破壊した音だった。


「お兄ちゃん! スカーレットに続いて、また他の女をわたしたちのあいのすに連れ込むつもり? そんな事、たとえお兄ちゃんが認めても私は認めないわよ!」

「おっ……落ち着けチェルシー、この子とはそう言う関係じゃないんだ……!」


 俺はチェルシーの迫力に気圧されながらも弁明するが「ハァッハァッ!」と荒い息遣いで興奮する彼女の耳には届いていないようだ。

 クソッ! 頭に血が上ったチェルシーには俺の言葉も届かないぞ……!


「ちょっと待ってください妹さん。これはリアムさんに助けてもらったお礼の為なのです。自らの危険を冒してまで無関係の私を助けてくれるなんて、素敵なお兄さんをお持ちですね。チェルシーさんが羨ましいです」


「私が羨ましい……? ふ〜ん、貴方わかってるじゃない! そうよ! お兄ちゃんは凄く素敵なんだから! なんだ、話のわかる子じゃない! そう言う事情なら仕方ないわね。うちに泊まることを許可するわ!」


 動揺する俺をよそにルシアが話し出し、それを聞いたチェルシーは胸を張り、自信満々に宣言した。


「はぁ、其方の妹は相変わらずチョロいのう。そろそろ本気で何とかした方がいいのではないか?」

「まあ、そこがチェルシーの可愛いところだからな。俺がとやかく言うつもりはないよ」

「まったく、其方も大概ブラコンじゃのう」


 スカーレットは諦めたように溜息を吐いた。

 なぜかスカーレットに呆れられたような気がするが、まあいいか。俺はチェルシーが好きで、チェルシーも俺が好き、それでいいじゃないか。美しい兄妹愛だ。

 こうして、スカーレットに続き聖女ルシアが俺の家に住む事になった。

 どんどん居候が増えていく。うちは宿屋じゃないんだがな。


 翌日、俺とスカーレットは新たな住人ルシアを連れて陛下と謁見した。王都を騒がせていた事件が吸血鬼によるものだと知らせるためだ。

 陛下は俺たちの話を聞くとすぐに吸血鬼に懸賞金をかけ、騎士団からも討伐隊を編成した。

 だが、吸血鬼は俺たちが想像したよりも強く、懸賞金目的の冒険者も、騎士団もあえなく返り討ちにされてしまったんだ。

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