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1.勇者パーティーからの追放

「リアム、お前を勇者ブレイドのパーティーから追放する!」


 俺の名前はリアム・ライス、十五歳の男だ。

 勇者パーティーが泊まる宿屋の一室に呼び出された俺は目の前の金髪の青年、勇者であるブレイドからパーティー追放を言い渡された。

 平凡な冒険者だった俺が勇者パーティーにスカウトされたのは一年前の事。将来を期待された勇者ブレイドのパーティーにスカウトされた俺は喜んで飛び上がったものだ。

 それが……短い間だったが頑張ってきたつもりなのになぜ?


「どうして追放されるかわかってないって顔だな。お前をスカウトした理由は錬金術師なんてレア職業だったからだ。珍しい職業だから試してみたんだが、とんだ期待外れだ。うちに入って一年も経つのに、まさかゴブリン一匹倒せねえほど弱っちいとはな」


 そう吐き捨てるように言い放ったブレイドは蔑んだ目で俺を見てきた。

 ブレイドの言う通り錬金術師と言う職業は珍しい、そして俺は弱い。


 職業とは十歳になる者が神殿に集まり職業認定の儀を受けることで発現する。

 力の弱い人類が強力な力を持つ魔物に対抗できるように、神々から与えられたギフトとも言われるものだ。

 剣士や魔法使いといった戦闘職から、パン職人やパティシエといった生産職まで様々な職業があるんだが、俺の錬金術師はとても珍しいレア職業らしい。


 ブレイドの勇者もレア職業で、直接戦闘も魔法もできるスーパーレア、SR職業とか言われているらしい。

 そんな魔王討伐もできるのではと期待されている勇者パーティーからの追放だなんて……。


「待ってくれ、いきなり追放なんてされたら病気の妹の薬代が稼げないんだ! 考え直してくれないか?」


 俺には高い薬が必要な病気の妹がいる。妹の為に稼ぎの良い勇者パーティーから追放されるわけにはいかないんだ。

 俺はブレイドの肩を掴んで頼み込む。だが、


「お前の妹なんて知るか! 汚え手で俺に触れるんじゃねえ!」


 掴んだ手を弾かれると同時にブレイドに殴られ、吹き飛ばされて壁に激突した。

 痛みを堪えて他のパーティーメンバーに助けを求める視線を送る。


「キャハハッ! 壁まで吹っ飛んでる! ダサッ!」


 鼻につく笑い声を上げたピンク髪の女はピーチ。勇者パーティーの魔法使いだ。

 現在知られる全ての攻撃魔法を使いこなす大魔道と謳われている。


「リアム、貴方の実力は勇者パーティーに相応しくありません。身の程を知りなさい」


 そう冷たく言い放った青髪の女はエリザベス。王国の第三王女にして勇者パーティーに加わる回復魔法使いだ。

 王国有数の回復魔法の使い手で、後方支援で勇者パーティーを支えている。


 みんな助けてはくれない……でも、俺は病気の妹の薬代を稼がなきゃいけないんだ……これくらいで諦めるものか!


「俺はどうなっても構わない……でも、妹のために金が必要なんだ! 雑用でも何でもする! 俺を勇者パーティー置いてくれ!」


 俺はブレイドの片足にしがみついて懇願するが、


「だからよぉ、お前の妹なんて知らねえっつってんだろうがっ!」

「がはっ!」


 ブレイドは空いた方の足で俺の顔面を蹴り上げた。

 痛い……! 口の中に血の味が広がる。


「そうだリアム、今まで世話してやった迷惑料を徴収させてもらうぜ。ま、貧乏人のお前はたいした物も持ってないだろうがな」

「止めろ……これ以上俺から何を奪おうってんだ……」


 ブレイドが近寄ってくるが恐怖で体がすくんで動けない。


「だからぁ、迷惑料よ迷・惑・料! 今まで私達に散々お世話になってきたんだから、物かお金で返すのが筋ってものじゃないのぉ?」

「強者が弱者から搾り取るのは世の常です。観念なさい」

「や、やめろ……やめてくれえ!」


 ピーチとエリザベスまで加わり、俺は服以外の全ての持ち物を奪われた。


「せめてもの情けとして服だけは残してやる。じゃあなリアム、達者で暮らせよ」

「こんな無能に情けをかけてあげるだなんて、ブレイドやっさしー!」

「これからは身の程をわきまえて生きなさい」


 俺は服以外の身包みを剥がされ、宿の外に蹴り出されてしまった。

 クソクソクソッ! 何が勇者パーティーだ! こいつら情け容赦ない極悪パーティーじゃねーか!

 チェルシーの薬代、どうすっかなぁ……とりあえず今月分はストックがあるが、割の良い仕事を探さねえと……。

 俺は勇者パーティーへの愚痴をこぼしつつ、家に帰ることにした。




 俺の家は王都の外れ、住宅街から離れた場所にある。

 自宅前までやってきたが、極悪勇者パーティーの連中に痛めつけられた状態で帰ったら、チェルシーが心配するかな?

 俺は顔についた血と服の汚れをもう一度落とし、自宅の扉を開いた。


「ただいまチェルシー」

「おかえりお兄ちゃん」


 昼間なのに窓も扉も閉め切った魔石灯の明かりが照らす室内で、昼食の用意をしていたチェルシーが出迎えてくれた。

 チェルシーは俺の一個下の十四歳。

 俺と同じ黒髪で、兄の贔屓目なしで見ても可愛い自慢の妹だ。


「って、どうしたのその傷? まさか誰かにやられたの!」

「いやー、ちょっと転んじまってな」

「気をつけてね。お兄ちゃんまでいなくなったら、私一人ぼっちになっちゃうから……」


 ふー、危ない危ない、チェルシーを不安にさせたくないからな。

 親を早くに亡くした俺たち兄弟は現在二人で暮らしている。

 部屋を閉め切り日の光が入らないようにしているのには訳がある。チェルシーが日の光に当たると肌が焼ける難病だからだ。

 この病気を抑える薬が高額で、俺があの極悪勇者パーティーに懇願してまで金を欲したのはそのためである。

 可愛い妹の為なら、嫌な奴にだって頭くらい下げる。安いプライドなんてゴブリンにでも食わせてやったさ。


「飯美味かった。それじゃあもう一稼ぎしてくるよ」

「うん、気をつけてねお兄ちゃん。いってらっしゃい」


 勇者パーティーに追放された分の金を稼ぐ必要がある。

 冒険者ギルドに登録はしているが、弱くて魔物を倒して稼ぐことができない俺の稼ぎは主に薬草採取。

 外で採取した薬草を唯一のスキルである錬成でポーションに変え、町で売ることが今の俺の収入源だ。

 わざわざ危険な戦闘をしなくてもそれなりの収入を得られるんだから、普通なら錬金術師は大当たりの職業なんだろうが、俺には病気の妹がいる。

 もちろん治せれば一番良いんだが、治療方法がわかるまでは薬で病気の進行を抑えるしかないからな。

 俺はポーションの材料になる薬草を求めて王都近辺の森に向かった。




 王都近辺の森は初級冒険者や一般の狩人が弱い魔物や動物を狩ったりするのに使われるが、いろいろな種類の植物が生育している為に薬草採取にも使われている。

 出現する魔物は弱いし、気をつけていればそれほど危険はない。


「きゃああああっ!」


 はずだったんだが、いつも通り薬草採取をしていると突然女の悲鳴が聞こえてきた。

 急いで現場に駆けつけると俺よりも若い、十二~十三くらいの少女が三匹のゴブリンに囲まれていた。

 くそっ! いくら危険度が低いとはいえ、少女が一人で森に入るなんて迂闊すぎだろ!


「とりゃああああっ!」

「ギギッ!」


 俺は後ろに回り込み飛び蹴りをかますが、少しゴブリンの体勢を崩すことしかできなかった。

 そして、振り返ったゴブリンは短剣を振りかぶる。

 いくら錬金術師が戦闘職じゃないからって不意打ちでこれかよ……俺はゴブリンから少女一人守れないのか……すまないチェルシー、俺はここで死ぬかもしれねえ。

 死を覚悟したその時、ガキンッと音を立てたゴブリンの短剣は、透明な結界のような物に防がれ空中で停止していた。


「ふむ、噂通り正義感を持った良い少年じゃ。気に入った。其方に錬金術の何たるかを教えてやろう」


 そう独りごちた少女は俺に手を差し出す。

 思わずその手を取ると、少女は嬉しそうに口端を吊り上げていた。

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